間の悪い男
事実確認のために走り始めた向井は、勢いよく出てきた外で、またもや頭を抱えていた。
「リアチャンって……誰だ?」
急いでいたあまり、相手の情報を聞かずに出てきてしまった。二人を連れてきたという『リアチャン』が一体何者なのか、二人が来ることを知っているという『隊長さん』がそもそも何の隊長なのかすら分からない。
――異世界から一緒に来るってことは、多分夢守隊……だよなぁ?
囚人の一人、山口美奈は、『リアチャン』を普通の友人の様な気軽さで呼んでいた。恐らく、『リアチャン』は普段から、彼らの世界にいるのだろう。
異世界に潜入し、現地に馴染み暮らして、尚且つ隊を構成するものとして一番最初に浮かぶのは、やはり夢守隊である。
夢守隊は、時に現地民に手伝いを頼むこともあり、二人もその報告に来たと考えれば、辻褄は合う。
「あぁー、しまった。先にもっと聞いてから出るべきだったー!」
一旦戻り、二人に知っていることを詳しく聞きだしてから確認するのが一番近道だというのは分かっている。しかし……。
「島田さん、早くね?」
今日は生憎、お偉いさんが自分達の仕事ぶりを見に来る日。そんな時に、罪なき地界人を誤認逮捕しました、とはあまり報告したくないわけで。もしそうだとしたら、こちらがどれだけ誠意を見せたのかを同時に示さねばならない。
向井は、自分が出るのと入れ替わりくらいのタイミングで、監察官である島田が入るのを見ている。監察官のいる目の前で、蛇が出ると分かっている藪に注意が行くようなことをしたくはなかった。
暫く逡巡した向井は、最初に夢守隊の知人達に聞いて、何も掴めない様なら諦めて戻ろうと決意し、走り出した。
もし、彼が一旦戻って、二人に『リアチャン』や『隊長さん』についての情報を聞いていれば。事態は比較的簡単に収束したかもしれない。美奈は、『リアチャン』が夢守隊の第三隊所属であることも、『隊長さん』の名前が木崎要であることも知っていたのだから。
それさえ聞けば、二人の背後にいる相手が、監察官よりも更に上の立場にいることも簡単に分かったし、下手に言わず、手違いに気付いた相手を怒らせる方が遥かにまずいことは考えずとも分かった筈だ。
さりとて、その判断をした向井を一概に責めることはできない。誰だって、失敗や叱責は怖いものだ。自分で何とか出来そうなら、ばれずに事を納めたいと思う気持ちは理解できなくもないし、その場にいたら、同じ行動をとる人間はそれなりにいるだろう。
ただ、向井は運が悪かった。運の悪い男、向井の間の悪い判断により、事態はますます複雑になっていくのだった。




