裏山の告白
夕焼けに染まる学校の裏山。
一本の樹に、平均より少し小柄で、しかし整った顔立ちを少女が寄りかかっている。
彼女は、風に揺れる少しウェーブの掛かった髪をかきあげながら、楽しそうに歌を口ずさんでいた。
そんな少女の元に、近付いてくる二つの影。
少女が振り返るのと同時、より大きな影の方が、少女に呼びかける。
「悪い、待ったか?」
言いつつも、大してすまなさそうではない男の態度を咎めるでもなく、少女はにっこり笑って首を振る。
「ううん、今来たところ。――で、話って何?」
男は一つ頷くと、少女を呼び出した理由を説明する。
「――そんなわけで、俺、夢追人やることになったから」
少女は、眼を一度ぱちくりと瞬かせた後、大きく頷きながら言った。
「分かった、頑張ってね!」
手放しの応援に、男も満足そうに頷く。
「おぅ、まぁそれなりにな。――あ~、何か腹減ったな」
腹に手をやり、大げさな振りで空腹を訴える男にくすりと笑い、男が望んでいるであろう言葉を掛ける。
「あ、お菓子あるけど、食べる?」
「食う食う、何?」
「えっと、「ちょっと待って!」
興味深々、鞄を覗き込みそうな勢いで催促する男との会話を遮ったのは、今まで黙って男の後ろに控えていた転校生の少女だった。
男は、その存在を思い出したかのように振り返ると、首を傾げつつ声をかけた。
「ぁ? お前もほしいのか? 梨亜?」
仕方ねぇなぁ、とばかりに頷く男は、彼女にも菓子を分ける様、少女に目線で促す。
「皆で食べられるよう、沢山作ってるから、よかったら食べて?」
やんわりとした少女の誘いに、梨亜と呼ばれた少女は一瞬ぎゅっと眼を瞑ると、きっと男を睨みつけるように言葉を発した。
「違う! そうじゃなくて、計人あなた、事情を話すって言ってなかった?」
言った方は、碌に説明もせずに話を終えてしまったことを責めていたのだが、言われた側は、一体何を咎められているのか分からず、何で怒ってるんだ? という表情だ。
「別にいいだろ? 言いたいことは伝わったし」
不思議そうな表情は、少女のお気に召さなかったらしい。
「どこが? 何が!?」
困惑気味の声に相対する二人は、何が少女の懸念なのかが分からず、きょとんとした顔を見せている。
「伝わったよなー、美奈ー?」
うん、と頷く美奈に、胡乱な眼を向ける梨亜。だよな、と一人納得する計人を横目に、美奈がおずおずと自分の理解した事を説明し始める。
自身の推測も交えた内容が、事実とそう乖離していないことを確認した美奈は、呆然とする梨亜を気にせず二人にお菓子を振る舞い、学校の裏山を後にした。
幼馴染みとのこの会話を機に、美奈の世界は大きく変化していくことになるのだった。
美奈が梨亜にした説明や、それに対して梨亜がどう思ったかについては、『夢追人』の方を読んでみてください。美奈にとってはよくある日常の一コマでしかなかったので、さらっと一行にされてしまいました。