出会い
俺が通っている私立仲町東高校は、偏差値で言うと上の下、いわゆる自称新学校というやつで、先生もやけに張り切っている。まだ学校が始まって一週間だというのに、今日は課題確認テストなどという物をやらされたのだった。来年待ち受ける受験シーズンのことを考えると今から気が重くなる。
俺が筆記用具とその他諸々を鞄に詰め込んでいる時、唯一の親友である松前千博がこちらに向かってくるのが見えた。
「やあ伊吹、お疲れさま。テストはどうだった?」
この男は、自分の方ができていると分かっていて質問してくるからやっかいだ。だが眼鏡の奥に見える柔和な瞳は高慢さを一切感じさせない。
「散々だったよ。数学の時間なんて、何もわからな過ぎて危うく居眠りするところだった」
「それは災難だったね。でも僕も久しぶりのテストで流石に疲れたよ。……そういえば、新聞部は今日から始まるのかい?」
新聞部は俺が所属している小規模な部活だ。コンクールへの参加等はしていないが、身近な出来事を寄せ集めてたまに発行している。ちなみに去年俺が担当していたのは校外の地域のニュースだ。なぜなら学校にあまり友達がいないからである。悲しい。
「ああ、これから行くつもりだ。どうかしたのか?」
「いやあ、実は僕の部活が人不足でね。今日から部活動の一環で新入生に勧誘しにいくことになったんだ。」
こいつの部活はたしか数楽研究会とかいう名前だった。確かに人数を揃えるのが大変そうだな。
「そうか、もう新入生が入ってきたんだもんな。まあ頑張れよ。俺はそろそろ行かないと」
「うん、そちらこそ。じゃあまた」
鞄の蓋を閉めて俺は教室を出る。新聞部の部室はここ二年二組からあまり近くないので、早めに向かった方が良いだろう。まあ、部員の集まりは良くないのだけれど。そもそも部員三人しかいないし……。
部室に入ると、部長の小野寺高貴先輩と高崎彩奈先輩の二人が世間話をしているところだった。
「おひさー、住ノ江!」
「久しぶり、住ノ江。今日から二年生だね。後輩ができた気分はどう?」
挨拶に性格が現れるというのは面白いものだ。高崎先輩は元気で行動が早い。それに比べて部長は落ち着いていて、真面目な性格がうかがえる。正直、俺はこの二人が付き合っているのではないかと睨んでいる。
「お久しぶりです、高崎先輩、部長。そのことなんですが、聞いたところによると他の部活は今日から新入生の勧誘をはじめているようなんです。俺達もそろそろ勧誘に行った方が良いかもしれません」
なんせ、二年生は俺一人しかいないのである。次期部長は自動的に俺になるが、それも後輩が入ればこそだ。一人しかいない部活動など意味がない。
「うちらも丁度そのことについて話してたんだ。後輩が入ってくれなかったら、この素晴らしい新聞部も廃部になっちゃうからねー……」
さすがに先輩達は耳が早いようだった。友達の少ない俺ですら知っているので当たり前かもしれないが。
「困っていたのは、具体的にどうやって勧誘するかっていうことなんだ。新聞部の特性上部室に来てもらわないと活動を伝えるのは難しいし……」
どうやら先輩方は世間話なんかではなくこの部活動の未来について話し合っていたようだった。付き合っているのではとか考えていた自分が恥ずかしい。
「まあでもとにかく行ってみるしかないのでは。案ずるより産むが易しとも言いますし」
俺がそんなことを言ったとき、全員部員がそろっているはずのこの部室にノックの音が響いた。
「はーい」
こころなしか部長の声が上ずっている。
ゆっくりと開かれた扉の向こうに立っていたのは、ちょっと背伸びをしてこちらを伺っている眠そうな女の子だった。