掴みかけた情報
♠カノン♠
花音のピアノコンクールは市内のホールが会場となり、1000人は入れる大きな空間に、ステージにあるグランドピアノが照らされていた。
明け方に目が覚めた後は眠るコトができず、睡眠不足のハヤトは、ボーっとする頭で客席に座り誰もいないステージを見つめていた。
「いたいた! ハヤト、キンチョーしてんのか?」
「ハヤトマーン! キンチョーしてんの?」
シゲと蓮がハヤトの横から声をかけ、ハッとした。
「……あ。いや、そんなんじゃ……。来てくれたのか?」
「おう! そりゃー、花音ちゃんの晴れ舞台だ! 応援しないわけがないだろ。オレ達家族もついてるから、きっと1番とれるぞ!」
「花音ちゃん、いっとーしょー!!」
蓮が人差し指を立て、勢いよく上に突き出していた姿をは、ハヤトを笑顔にさせていた。二人の後ろから、セミロングの茶色くせ毛に黒縁メガネをかけ、白のブラウスに膝丈の紺のフレアスカートを履いたシゲの嫁の、まぁこの姿が見えた。
「ハヤトさん、おはようございます。あら? 咲良さんはご一緒じゃないんですか?」
まぁこは、ハヤトの隣の席を確認し尋ねた。
「今、控え室で花音の傍にいると思う。始まったら来るんじゃないかな?」
ハヤトにそう教えてもらうと、3人はハヤトの隣に座った。
「な、ハヤト。花音ちゃん、なんて曲弾くんだ?」
ハヤトの隣でシゲが尋ねたが、ハヤトは首をかしげ横に振っていた。
「さぁ。分からない」
「何でだよっ!? 娘の弾く曲しらねーなんて……」
驚いた顔をしたシゲに、ハヤトは小さく溜息を吐いた。
「練習してる所すら、見せてくれないな。恥ずかしいのかと思いきや、“気が散るから、パパは来ないで”って、冷たくあしらわれてんだ。俺」
「それ、さみしいなぁ……。ま、練習に集中したいってんだろうから、仕方ないのか……」
シゲはそう言いながら、表情を曇らせた。
会場がざわつき、大分客席が埋まりかけていた。ハヤトにつられ、シゲも周りをキョロキョロ見て、
「すげーな。こんなに人が集まるんだ。花音ちゃん、緊張しないか?」
ハヤトに心配そうに声を掛けた。
「どうだろうな……。ここぞって時に、けっこう肝が据わっている感じなんだよな。そういうところは、咲良に似たのかなぁ。俺なんか、ライブでかなり緊張したからな……」
「お、噂をすれば。咲良さん来たぞ」
シゲの言葉に、ハヤトは隣の席のほうを振り向いた。
「おはようございます。皆さんも来て下さったんですか? ありがとうございます」
さらさらした黒い髪を耳に掛け、淡いグリーンのワンピースに白のカーディガンを羽織った咲良がシゲ達に会釈をしそう言った。
「花音ちゃん、調子はどう?」
シゲが咲良に尋ねた。
「だいぶ、リラックスしてるので大丈夫だと思います。練習でも、リハーサルでもミスはなかったから。後は、本番で思い切り弾いてらっしゃいって、言ってきました」
微笑ながらシゲにそう言うと、咲良は席に座った。
「花音、何番目なんだ?」
「最初のほうよ。5番目」
咲良が答えると、丁度開演のブザーの音が鳴り響き会場のライトが落とされた。
スタートは蓮くらいの小さな男の子が、エリーゼのためにを懸命に弾き上げ、シゲとハヤトは圧巻された。
「あの子、すげぇな」
終わった後、拍手をしながらシゲはハヤトにそう言うと、ハヤトは大きく頷いた。
音楽の授業で聴き覚えのあるような曲だと何気に聴きながら、ハヤトは曲を奏でる子供たちを見ていた。
「次、花音の番よ」
咲良は膝の上に乗せてあったビデオカメラを用意し始めた。ステージが静かになり、会場のアナウンスで花音の名前が呼ばれた。横髪だけを後ろで束ね、ピンクのワンピースを着た花音が現れ、グランドピアノの前でゆっくりお辞儀をすると、黒く長い髪がさらさらと肩から滑り落ちた。
「曲は、パッヘルベルのカノンです」
アナウンスの後、花音はイスに腰をかけ、曲をを弾き始めた。ゆっくりと奏でられるメロディーが、ハヤトの遠い記憶を鮮やかに蘇らせた。花音が弾いているようなステージとは別に、あの日オレンジ色の夕日の光の中、同じ曲を弾くナホの姿が重なった。真剣に鍵盤を目で追いながら小さな手が大きな鍵盤を辿って、音を奏でていく。ハヤトの胸にこみ上げてきた哀しみが溢れ、自然と目から涙が零れ落ちていた。
ビデオカメラを回していた咲良が、ハヤトの涙に気づき、鞄からハンカチをそっと渡した。ハヤトはそれを受け取ると、顔を覆い肩を震わせて泣いていた。
「……おい、大丈夫か?」
シゲが心配そうに、耳打ちした。ハヤトは返事をせずただただ泣いていた。
花音は弾き終えると、大きな拍手が客席に響いた。清々しい笑顔を見せて客席にお辞儀をしてステージを去っていった。
「大丈夫?」
咲良はカメラを止め、ハヤトの顔を覗きこんだ。
「……あぁ」
「どーした? 娘の晴れ舞台に感動しまくったか?」
シゲはハヤトの背中を軽く叩いて、小さく笑って言った。
「とーちゃん。ハヤトマン泣いてるの? ボクのお歌のヒーローも泣くの?」
心配気に蓮はシゲに尋ねた。
「そりゃ、人間だからな。ハヤトはきっと花音ちゃんが立派にピアノ弾いてたから、嬉しいんだ」
シゲは蓮の頭に掌を置いて、ポンと軽く撫でた。
ハヤトは涙を堪えるのに必死だったが、涙は止めようと思えば思うほど、どんどん溢れ流れ落ちていた。
『……俺は、ヒーローなんかじゃねぇよ……。チクショウ……チクショウ……』
蓮の言葉はハヤトの中で、ナホを救えなかった自分自身に置き換えられ、悔やんでも悔やみきれない悔しさが、身体中に充満されていた。
花音はコンクールで金賞をとり、再びステージに姿を見せて凛とした表情で賞状を受け取っていた。
♠夕立♠
コンクールの後、花音と咲良は教室の生徒とその父兄たちと祝賀会をするとの事で、ハヤトは参加を控えた。シゲ達家族は、買い物へ出かけるとのことでそれぞれが会場で別れた。
ハヤトは、花音の弾いた曲を引き金にナホとの悲痛な過去から抜け出せず、思いつめた気持ちを抱えたままある場所へ向かっていた。朝から快晴で、ハヤトが市内のホールに着いた頃には遠くに入道雲が見えていたが、午後になり空模様が怪しげに灰色の雲が空に広がっていた。空模様を気にしつつ、懐かしい通学路を歩いていた。小学校の門を抜けると、校舎に向かう道の両サイドにある花壇にはヒマワリが黄色い壁を作っていたが、灰色の空の下でそれは不気味な鮮やかさをしていた。日曜日の校舎には、グランドで練習試合をしているサッカー少年とその父兄たちで活気溢れていた。
ハヤトは学校の窓口に声をかけ、校舎に入る許可をもらった。窓口に座っていた守衛のおじさんはハヤトに来校者リストのノートを差し出し、それを記入させた。
校舎内は、しんとした静けさが広がり、ハヤトが歩くスリッパの音がパタンパタンと響き渡っていた。締め切った室内の熱で身体が蒸し暑さを感じ、着ていたポロシャツにうっすらと汗がにじんでいた。懐かしさが溢れる校舎内を歩き、洗面所の蛇口の位置がこんなに低かったのか、机やイスにもそれが感じられハヤトは時の流れを実感していた。目を閉じれば、当時の光景が思い出される。遊びも勉強も夢中になって、毎日が楽しく目まぐるしかった。
教室を出ると、グランドでサッカーをしている子供たちの声が遠くで聞こえていた。ハヤトは校舎の外へ出て、建物に沿ってある場所へ向かった。校舎と渡り廊下で繋がっている図書室の間にある裏庭。池があり、そこには鯉が数匹飼われているが、アメンボやゲンゴロウ、カエルなどの虫を捕まえて遊んだりもしていたのを思い出した。
渡り廊下の手前付近の校舎の一角で足を止め、ハヤトはじっと地面を見つめていた。そこは、ナホが飛び降り自殺をして発見された場所だった。
『……あの日は、たしか写真部で朝から写真を撮るって、早くに施設出て行ったんだよなぁ。……? まてよ』
ハヤトは当時の記憶の糸を呼び戻し、よく思い返しながら、あるコトに気がついた。
『……たしか、ナホのやつあの時カメラ持ってなかった……。おかしいな。写真撮るならカメラが必要なはず。学校に保管しないで、毎回持ち歩いていたし……。ナホのカメラは死んだ後、どこ探しても出てこなかった……“アイツ”も当時、預かっていないと言っていたし……』
当時のコトは大袈裟にならず、児童の自殺として終わり、警察もそれほど入念に調べ上げなかった。しかし、ナホの祖父母は酷く哀しみに暮れていた。施設から荷物を引き取る時、ナホと全く同じブライスドールを持っていた双子の妹は、ハヤトを施設で見つけると全力でハヤトの身体を叩き、悲痛に泣き叫んでハヤトを責めていた。
「どーしてっ!! ハヤトくん、ナホがいじめられてたこと知ってたでしょう!! どうして、守ってくれなかったのっ!! ハヤトくん、ナホに守るって言ったんでしょう!? なのにどーしてっ。ナホ……あんなに辛くて苦しんでたのに……どーして、ナホが死ななきゃいけないのよ……」
ハヤトは何も言えず、ナホの妹に身体を叩かれ泣きつかれそれを黙って受け止めているだけだった。
「------!!」
人の気配に気がつき、ハヤトは後ろを振り向いた。しかし、気配はなく誰もいない裏庭に蜩が鳴きはじめた。
「……今、誰かいたような……気のせいか?」
空が暗くなり、ゴロゴロと雷の音が遠くで聞こえていた。
「夕立……きそうだな」
ハヤトはトイレを借りに、もう一度校舎に入り1階の男子トイレから出ると、ちょうどその前を歩く一人の男性の姿が見えた。
『……誰だ? 先生か?』
白い糊の利いた半袖のワイシャツに、黒いズボンを履いた白髪交じりの髪を七三に分けた男性だった。ハヤトが正面玄関に行くと、男性も玄関で靴に履き替えている所だった。男性は、ハヤトに気がつきチラリとハヤトを視線に収めた。そして無言のまま手荷物の黒い鞄から黒い折りたたみの雨傘を差し去っていった。
『……ここの先生かな。なんか、見覚えあるような』
男性に気を取られ、外が夕立で雨が土砂降りになっているコトに気がつかなかったハヤトは、守衛に声をかけられた。
「雨傘、持ってるのか?」
「……いえ」
「じゃぁ、これ使っていいよ。忘れ物だけど、ちゃんと使えるし。返さなくていいから」
守衛のおじさんは窓口から出てくると、ビニール傘をハヤトに差し出した。裸足に茶色のビニール製のサンダルを履いていた。
「あ、すみません。じゃ、お言葉に甘えて」
おずおずとハヤトはそれを受け取った。
「あの……」
ハヤトは、窓口に戻る守衛を呼び止めた。
「なんだね?」
「今の……男の人って、ここの先生ですか?」
ハヤトが尋ねると、守衛は何も見ずにすぐ答えた。
「サギヌマ先生のコトかい? 今は教師じゃないけど、当時は写真部の顧問していたよ。今日は、校舎や花を撮りたいと言って来てたよ」
「……そうですか」
ハヤトは話を聞くと、土砂降りの雨の中、校舎をを後にした。地面から、むんと身体にまとわりつく熱気とアスファルトの匂いが鼻についた。
自殺現場で思い出したナホの妹の悲痛な言葉が、ハヤトの胸の傷を再び抉り返し苦しめていた。
♠近所の猫とクレーマー♠
このところ、ハヤトは習慣的に毎朝4時に目が覚めるようになっていた。家の中もその外も静まり返っている。暑さもまだ準備段階で過ごしやすく、近所の茶トラの猫が毎朝、斜め前の家の屋根で毛づくろいをしているのを、新聞を取りに出るときにいつもハヤトは見ていた。しかし、今日はその猫の姿はなかった。
新聞を取ると、ポストの中に何か残っているのに気がついた。
「------!!」
それを見つけた瞬間、慌ててハヤトは門から出ると家の周りの道路をキョロキョロ確認したが、人の気配はない。門を閉め、ポストから入っていた角型の茶封筒を取り出すと、これまで届いた封筒同様に“エンドウハヤト様”と印字されただけの封筒だった。それを手に、まだ中を確認してはいなかったが、ハヤトの中で悲観的な思いが膨らみ、苦しみで気持ちが張り裂けそうになっていた。
『……俺にどうしろって言うんだ!?』
声にできない心の叫びにも、それすらどこにも行き場がなく自分自身の胸の中に溜まる一方で、ハヤトは最近少し疲れていた。
家に入り、リビングでコーヒーを入れるポットにお湯を沸かしている間、封筒にハサミを入れ中を恐る恐る取り出してみた。
「!!」
中から一枚の写真が出てきた。それは、島田アヤカや沢木たかこと同じような、殺害現場を表したブライスドールの人形の写真だった。
「……なんだ? この中のやつ?」
茶色のボブをした髪、襟の付いたライトブルーのワンピースを着た人形は、模型のトイレに座り首には最初の2人と同様に絞殺だろうか赤紫色のラインがあり、胸に小さな果物ナイフが一刺しされぐったりしていた。ハヤトはよく写真を見ると、人形の口の部分が大きく切り取られまるで口に何かを押し込んだみたいに見えた。
「……? 飯か? けど、なんか黒っぽかったり、茶色の木屑みたいな感じが混じってる……なんだ?」
人形にばかり気を取られ、その足元にある小さなトレイを見落としていた。
「? トレイに何だ? 食事……まるで給食みたいだな……」
スープやご飯、おかずのオムレツなど忠実に作られた模型を見て、ハヤトはハッとした。
『……そういえば、ナホが学校で昼のとき給食のトレイ持ってどっか行ってたな……まさか……』
思い返そうにも、当時、誰がナホに何をしていたのか分からないハヤトにとって、もどかしい気持ちが空回りするだけだった。しかし、今までのコトを振り返るとまた殺人が起きるのは予想されるが、その対象者が一体誰なのか……。
『-------!! そうだ! 施設ならナホの保護者の連絡先知ってるはず。けど……教えてくれるわけないか……』
ハヤトは写真を封筒にしまい、それを書斎に持っていった。それと同時に、スマートフォンの連絡先の中にハヤトが居た施設の連絡先が入っているコトを確認していた。
出勤前にハヤトは外から門前払い覚悟で施設に連絡し、ナホの保護者の連絡先を聞いた。しかし、両親はすでに十年程前、入院中にどちらも亡くなってしまい、世話をしていたナホの祖父母も数年前に他界してしまっていたと言う。双子の妹である“かほ”の居場所や連絡先は施設では記録されていなかったが、有力な手がかりに近しいコトをハヤトは握るコトができた。
会社の帰りにハヤトは通り道である、シゲの家に寄ろうとした。近くで人だかりができ何か大声で話しているのが聞こえた。ハヤトは周りの人を掻き分け、店の中に入った。
「そんな言いがかり、やめてちょうだい! うちは新鮮なものしか売ってないんだから。ちゃんと保健所なり動物病院でも行って調べてもらって正しいコトが分かったら出直しておいで!! 営業妨害で警察呼ぶわよ!」
強気な口調とすごい剣幕で怒鳴っているのは、シゲの母親とその客らしい女性だった。
「ふんっ! いい、皆さん。ここの商品には毒が入ってるから気をつけてください! うちの猫は、ここの野菜を食べて死んだんですからっ!」
苦し紛れに、店の入り口で集まった人達にそう言うと、女性はカツカツとヒールの音を立てて去っていった。
「おばさん……どうしたの? 今のって、戸田ですよね?」
興奮冷めやらない状態のシゲの母親に声をかると、シゲもそこに現れた。
「そう。同級生の戸田みなみ。うちのサツマイモ蒸かして猫に食わせたら、死んだって。毒でも入ってたんだろって言いがかりつけて来やがったんだ! うちの仕入れている野菜は間違ってもそんなことない」
母親に代わり、シゲが憤慨してそう言うと付け加えて、
「こないだ、ほら、ジンと初顔合わせした時。ジン、店でトラぶったって言って来るの遅かったんだけど、あれも、そう。なんか、戸田が飼ってる猫がコンビニで売ってたキャットフード食って腹下したとか言ってきてさ。それならメーカー問い合わせればいいのに、店で責任とれって無茶苦茶言いやがって困ったって。それで、足止めされてたんだって。こないだ世間話してたらその話が出てさ」
少しずつ落ち着きを取り戻し、ハヤトにそう話した。さらに、話を聞くと近所に住む同級生である戸田は、商店街の店だけではなく、近隣の人にも何かにつけて溺愛している飼い猫に何かしただろとクレームをつけて歩いているらしく、ここ界隈で有名なクレーマーになっていたらしい。
「死んだ猫って、シゲどんな猫なのか知ってる?」
ハヤトはシゲと2階のリビングにあがり話を聞いていた。蓮が床に座るシゲの膝の上に座り、二人の会話のキャッチボールをきょろきょろと目で追っていた。
「あぁ。たまに商店街ふらついてるからな。茶トラの猫。首輪はしてないから最初野良かと思ったけど。飼い主には似ずに人懐こくて、かわいい猫だったなぁ」
「茶トラ……ふーん」
ハヤトは朝、斜め前の家の屋根でよく見かける猫を思い出していた。
『そういや、今朝は姿なかったな……あの猫なのか?』
「戸田といえば、昔、お前の事好きだったよなぁ。覚えてるか? バレンタインにマジ告白されただろ?」
シゲは、ニヤついた顔をしてハヤトを冷やかした。
「あ、あぁ。なんかそんなコトあったなぁ」
「けど、おまえあいつのコトふったんだよな? モテる男は、ツライなぁ」
「うるせーよ。あんな、クラスの中で、んなこと言われて驚いたし、女ってマセてるよな? 俺、あの頃まだ、女に対してそういう感情とかなかったし。外で野球やったり、皆でワイワイ遊んでるほうが楽しいと思ってたから」
ハヤトは少し耳を赤くして話していた。
「けどさ、あれだろ? ハヤトはクラスの女子の中でも、グンジだけはなんか優しかったよな?」
「? そんなふうに見えたか?」
「あぁ。男子とつるむようなふうに、楽しそうにグンジとは仲良さそうにしてたり、施設一緒だからだろうけど、一緒に登下校してたろ? あーいうの、クラスの女子に目ざとく映ってて、だからほら、グンジって……」
シゲは膝の上に乗せている蓮を気遣い、話を濁した。
「俺が、原因だったのか!?」
ハヤトは声を大きくして、シゲに問い詰めた。シゲも蓮もその声に驚き、一瞬動きが止っていた。
「詳しくはわかんねーけどさ。けど、まさかあんなふうになっちまうなんて……な」
「!!」
シゲの話に、ハヤトは送られた写真を思い出した。
『ナホがいじめられた仕返しとして、考えるならもしかしたら、あの人形って戸田なのか? けど、アイツに“殺されるかも知れないから、注意しろ”なんて言えないし。戸田だとも確定できないしな……。一体、どうすれば……』
ハヤトは何かを思い出し、さりげなくシゲに尋ねた。
「シゲさ、ジンのかみさんて見たことある?」
突拍子もない質問だったのか、シゲは拍子抜けしていた。
「……あぁ。おとなしそうな感じだった。日本人形みたいな前髪ぱっつんに、黒髪ロングでさ。うちにたまに買い物くるけど? かあちゃんは、コンビニオープン前にジンと挨拶来たの見てたから、オレ店出てたとき、かあちゃんに教えてもらった」
「……そうか」
「それが、どうした?」
「あ。いや。俺、まだ会ったことないし、今度のライブにジンによかったらかみさんも呼んだらどうだって思ってさ、言ったんだ」
『……そうか、もしアイツだとしても、あいつら二卵性だから似てないんだ。それに、あいつらが姉妹ってコトは施設にいた俺くらいしか知らない……か』
ハヤトはシゲの話を聞いてそう思っていた。
「ふーん……。ロック聞きそうな感じじゃないけど。ま、ジンが誘えば来るかもな? うちは、まぁこちゃんも蓮も行く気満々で楽しみにしてんだ! な、蓮」
シゲは蓮と顔を見合わせた。二人とも同じ笑顔をして、蓮は元気に“うん! たのしみー”と言っていた。
「リハは週末、丁度ライブ前日だな。メチャクチャ楽しみだー。蓮、トリケラトプスやるからな!」
シゲの言葉に蓮は膝から飛び上がり、まるで恐竜がドスンドスンと歩くかのような動きをしながら歌を歌い始めた。
「…………」
ハヤトは苦笑いし、失言したまま見ていた。ライブでトリケラトプスを演奏することは確定してしまっているコトに、肩を落としながらシゲの家を後にすると、ハヤトはジンの店であるコンビニに向かった。
「いらっしゃいませ……ハヤト! 今、帰り?」
ジンは、レジに立ち入ってきたハヤトにすぐに声を掛けた。
「おう」
「また、奥さん仕事なのか?」
ジンがそう聞くと、ハヤトは苦笑いして首を横に振った。
「いや、ちょっとな。……そういや、ジンのかみさんて、今日も掛け持ちの仕事?」
「? いや。昨日から明日まで実家に帰ってるけど?」
「へー。実家って? 遠いの?」
「いや。山梨だけど? どうかした?」
「そうか。いや、今度皆でメシでも……てな」
ハヤトはとっさに考えてそう答えた。
「あぁ。そうだね」
ジンは頷いてハヤトの様子を見ていた。
「どうした? なんか、疲れてんの?」
思い考えていたハヤトにジンは心配して声をかけた。ハヤトは“そうかもな”と答えると、場を合わせるようにするため、栄養ドリンクを陳列棚から手に取り買い物した。
「……じゃ、週末!」
ジンにそう言われ、ビニールに入った栄養ドリンクを手渡された。
「おう」
ハヤトは薄く笑って、開いた自動ドアを通り抜けた。
『ナホのいじめの原因って、俺だったのか……? どうして、ナホは俺に言わなかったんだ? 俺達は同じ釜の飯を食った家族同然の仲なのに』
ハヤトはシゲの話から、ナホのいじめの根源が自分にあるのかもしれないと気づき、取り戻せない過去と動いている連続殺人に、不安が大きく膨らむばかりだった。
ハヤトが少しずつ気づき始めた“あるコト”。
掃除屋サギヌマとのすれ違い。
そして、新たな写真。
今回は、花音やナホが弾いていた“カノン”と相変わらずですが、好きなバンドさんのある曲(←ハヤトがお話の中で聴いていた曲です)を聴きながら、お話を書いてました。
写真が届いたということで、次回事件がまた起きそうな……。
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。:-)
まだ、お話が続きます。次回のお話にもお付き合い頂けましたら。
どうぞ、よろしくお願いします。m(__)m