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最終話です。
完結まで長らくお待たせしました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
「おい、後でといっただろう。」
彼が去って行った後、ひとまず仕事を終わらせ落ち着こうとさっさと帰路に就こうとビルから出た。
最寄り駅の改札口まで足早に進めたところで急に目の前に壁ができた。
声がした頭上に顔を上げると明らかに息の上がっている焦ったような表情の彼がいた。
彼の言った言葉に意味がわからず私はすごく変な顔をしていたと思う。
もう一度彼の言葉を頭の中で繰り返し、先ほどの彼とも会話を思い出した。
「あっ・・・」
彼のその前の言葉に気を取られすっかり忘れていた。
それでも・・・
「話すことなんてない。」
そう、私にはもう彼と話なんてなかった。
話をしたところで彼を困らせるだけ・・・
そう思っているのに繋がれた彼の手を振りほどくことができない自分が歯がゆい
振りほどかれることがないことが分かった彼はそのまま歩き出した。
「どこに行くのよ!」
唯一私が抵抗できたこと・・・
「俺の家」
はっ?
「なんでよ。
話があるならそのへんでいいじゃない。」
私が足を止めると彼も止めた。無理強いするつもりはないようだ。
「俺は痴話けんかを晒す趣味はない」
今日は彼の言葉を一度考えなければいけない日のようだ。
当たり前かのようにこのやりとりを痴話けんかという彼にしてはいけない期待を抱いてしまう。
「とにかく、人目を気にせず話せるし、近いからだ」
どんどん進んでいた足を止め、駅の方へと視線を走らせた彼
「別にお前の部屋でもいいけど?」
彼が一体何をしたいかさっぱりわからない。
そしてそんな彼に嫌悪感を抱くことない自分にイラッとしてしまう。
「どこでもいい。」
そっけなくさっさと終わらせてほしいという気持ちを込めて言葉を返した。
無言で彼に誘導されるまま彼の部屋の前までやってきた。
スーツの内ポケットから鍵をあけた。
その時、キーケースの中からチラッと鍵ではないものが見えた。
あれって・・・
見間違うことなんてない。あの日から毎日のように未練たらしく眺めているものだ。
胸が一気に詰まるような感じだった。
そんな私に気づくことなく繋がれた手を引き中へと足を踏み入れた。
途端に目の前が真っ暗になった。
帰って来たばかりで明かりがないこともあるが一緒に体全体にぬくもり伝わってきたことに気づき彼に包まれたのだとわかった。
「一体なんなのよ。」
思いのほか冷静な声が出た。
「ん?ちょっと充電」
いきなり意味の分からないことを言い出した。
抵抗しようともがいた先には彼の顔が・・・
そのまま唇を奪われ一瞬のひるんだ先にそのまま貪られ始めた。
抵抗しようと必死に両手を背中に回し叩いた。
「離れるなんていうな」
彼がそうつぶやいたが肩で息を吐き呆然としていた私には聞こえていなかった。
何より彼は聞かせるつもりもなかったようで何か言ったかと問う前にふわりっと軽々と体を抱きかかえ部屋へと足を進めた。
リビングの大きな革張りのソファーまでくるとそこにおろされた。
彼は流れるように私の前にひざまつき両足から靴を脱がせた。
「そのまま待ってて」
彼の行動を呆然と見ていた私は彼の言葉は耳には届いていなかったがその場にとどまっていた。
「で、何でそうなった?」
玄関から戻ってきたであろう彼はそのまま隣に腰を下ろし私と向き合う形になった。
そして彼が言っているのは会社で奪われたままのあれのことだろう。
「まぁ、辞めるのは構わない。ただし、俺から離れるなんて許さない」
彼の最後の言葉に固まった。
「何様のつもりよ」
強がってできてきた言葉がそれだった。
会社での言葉や今の言葉・・・なによりさっき見たものできっと思い上がっていいのはわかっていた。
それなのに、素直になれない自分がいた。
「俺から離れられるのか?俺は、お前を離せないし離すつもりもない。」
目の前でいつになく真剣なまなざしのまま私の言葉を待ってくれている。
素直になるべきなんろう。そうわかっているのに・・・
「私のこと好きなの?」
やっと紡がれた私の言葉に目を見開き面を食らったかのように驚きの表情を見せてた彼
「・・・」
すぐに顔を下へとそらされてしまった。
それでも彼の耳が赤くなっていることを目の前で確認でき、とても満足した気分になった。
「旅行・・・楽しかったね。会社で見てきた姿と全然違って新鮮だった。
親友の彼のことも幼馴染の彼女のことも大事にしてきたことが分かった。
でもそんなことを知れば知るほど私は苦しかった。」
話し出した私の言葉にはっと苦々しい顔をした彼が顔を上げた。
「気が付いたら一緒にいる時間がとても心地よくなってて・・・でも同時に気づいてしまった気持ちに私はもやもやして気づいていないふりをすることにした。」
彼の手にそっと自分の手をおいた。
「だから逃げようとした。」
彼に持っていかれたあれ・・・もとい辞表。会社を辞めて実家に戻ればすべて何もなかったことにできるんじゃないかと浅はかに考えに納得しようとした
。
そんなことできないことはわかっていたけれど
「あなたから離れようと思った。でも・・・本当は離れたくない。」
私の手が置かれていないほうの手で私の頬へあて親指で何か拭った。
それまで泣いている自覚はなかった。
「好きなの・・・あなたが彼女のこと好きだってこと知っても・・「好きだ、紫苑」
今まで黙って聞いてくれていた彼が言葉を遮り言った。
彼の言葉にとめどなく溢れでる涙。それをキスで吸い上げていく彼。
そのままおでこ、目元、頬と軽くキスを落としいく。
「あいつが好きだったことは前にも言ったが事実だ。だが、学生時代の話だ。
もう何年経ってると思ってるんだ。今は、お前だけだ紫苑。」
そう話している間も顔周辺へのキス嵐は止まることなかった。
徐々に、落ち着いてきた私は現状を把握するとどんどん恥ずかしくなってきた。
「ちょ・・・離して・・・」
急な彼の甘々モードに耐え切れず彼を押しのけようと頑張った。
「だめだ。
今からもっとお前を堪能する。
もう、遠慮はいらないよな?」
そのままソファーに押し倒され彼が妖艶な笑みを浮かべ覆いかぶさってきた。
「いや・・・ちょっと待って・・・」
まずい。本能的にそう察したがすでにと遅いし・・・・
「愛してるよ紫苑」
そう呟いたのが合図とばかりにこの日私は彼の愛をたっぷりと堪能する羽目になってしまったのだった。
完結ですが・・・・ちょっことだかなり短い後日談掲載予定