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「すごーい!」
目の前に広がるパノラマの水槽
そこには大きなジンベイザメやマンタを中心としたたくさんの魚たちが泳いでいた。
「おい、危ないぞ」
早く目の前まで行きたくてスロープを下ろうと足を進めようとすると手を引っ張られた。
どうやら、人の流れに逆らったような動きをしていたようで他の人とぶつかりそうになったのを助けてもらった。
「あっ、ごめん。」
ついついはしゃいでしまい周りを気にいていなかったことに恥ずかしくなった。
「ほら、行くぞ。」
グイッと手を引っ張り足を進めるよう催促された。
目の前の水槽にくぎ付けになりたいのに、私の意識は水槽でなく右手だった。
さっきの出来事で手を繋がれたはいいがそのままのなっていたのだ。
静かに繋がれた手を見つめて入れば視線に気が付いた彼が
「また、他の人に迷惑かけたらいけないからな。」
ニヤニヤと恥ずかしがっていることが分かっているかのような反応を示していた。
「もう。」
その反応に不服だが、言い返したとことで勝てないことはわかっていたので黙って目の前の水槽に集中することにした。
が・・・できるわけもなく・・・・
「あっ、座れるみたいだぞ」
繋がれた手を返事する間もなく引っ張り階段状になっているところまで進み素早く空いた席に座った。
もちろん、手は繋いだまま
今は繋ぐ必要ない。とそっと離そうとするがしっかりホールドされていて諦めた。
「お店見ていい?」
午前中の時間をたっぷりと使って満足した私は、出口にあるお店に目を奪われた。
たくさんのお土産、ぬいぐるみなどたくさんありテンションが上がった。
そんな私を見て彼は、意外そうな顔をするものの
「あーぁ」
と、返事をし繋いだままだった手を離してくれた。
いくつかのお土産と小物をかごに入れレジへと向かった。
「ねぇ、会社にも何か買っていく?」
ふいに、なにも考えずに彼にそう言った。
「二人からのお土産です。って渡すつもりか?」
と意地悪そうに笑いながら言った。
「そっか・・・そうだよね。」
彼の言葉に自分が何か勘違いしていたことに気が付いてしまった。
ついつい楽しくて本当に恋人と旅行に来ている感覚に陥ってしまっていた。
さっきまでの気持ちが一気に冷めてしまい彼の些細な意地悪にも気づけず改めてレジへと向かった。
「あっ、これ入れといて」
そんな私の変化に気づいたのか気づかなかったのかはわからないが彼がかごへ何かを入れた。
「なに?」
そういったと同時に彼は私からかごをとりあげ会計を済ましてしまった。
「まぁ、記念だな。せっかくだからな」
まとめられた袋から2つのキーホルダーを取り出した。
「ほら、家のカギにでもつけとけ」
手渡されたのはパノラマ水槽で優雅に泳いでいたジンベイザメモチ-フのものだった。
彼の手には同じものが握られていて自分のバッグへ早々に入れ、足早に出口へと向かっていった。
気のせいか彼の耳が赤く染まっているような気がして私はとても嬉しくなり一瞬で冷めていた気持ちがまた上昇したのだった。
その後、私は何も考えていなかったが食事をカフェでとったり、城址跡や景色なきれいなの見える展望台に連れて行ってくれたりときちんと予定を立ててくれていた彼
そんなスマートに行動する彼に好意を抱くなというほうが無理だ…と内心思いながらも心の端っこにある暖かな気持ちに気づかないふりをした。
「では、拍手でお迎えください。」
止まっているホテルから数十分のところになるチャペルに朝から足を運んだ。
壮大な海が広がるチャペルの正面に牧師といっしょに立ち花嫁を待つ花婿
司会の声と同時に扉が開き花嫁とその父親らしき人がバージンロードを進む
正面まで進むと父親と花婿にバトンタッチし挙式は始まった。
とてもきれいな花嫁だった。
確か、幼馴染と親友と彼は言っていた。
そっと、隣の彼を盗み見した。とくに意味はなかった。ただ、この幸せな空間を彼と共有していることを確認したかっただけだった。
後悔した・・素直にまっすぐ主役たちだけを見ていればよかった。
彼の表情があまりにも苦しそうで、でもほっとしたそんな表情をしていた。
きっと気のせい・・・そう思うことにした。
無事に挙式が終了し、そのままガーデンパーティーへと移った。
「昌人、来てくれてありがとう。」
立食しながら彼といると主役たちがやってきた。
「おう。」
彼女の言葉にそっけない返事をした彼
「はじめまして、本日遠いところ来ていただきありがとうございました。」
隣にいる私に向かって嬉しそうに御礼を言ってきた。
隣にいた花婿もペコリと一緒に礼をした。
「いえ、こちらこそ私まで招待していただき誠にありがとうございます。
そして、本日はおめでとうございます。」
二人に向かって事前に考えていた挨拶をした。
「ほら、あなたも何か言いなさいよ」
最初の返事から何もしゃべらない彼をつつき催促した。
「なにをだよ」
いつも以上に冷たい態度の彼
「えっ・・お幸せにとか?」
まさか、そう返されると思っていなかった私はとっさに出てきた言葉を言った。
「プッ・・てんぱりすぎだろう」
人がせっかく返したことに対して笑うだなんて・・なんて失礼な・・・
「・・昌人が笑ってる」
彼をジロリッと睨んでいると花嫁が驚いた顔をしてつぶやいた。
「あーぁ、普段かっこつけてますもんね。」
その言葉に悪びれもせず私はそう返した。
その言葉に彼は「おいっ」とだけいい何事もなかったかのように花婿に話しかけていた。
どれくらいの時間だろう主役たちと談笑していたが彼らは他のところにも行かなければとその場を後にしようとした。
「頼むぞ」
そんな彼らに・・いや花婿に彼はボソッといった。
「いわれなくとも?」
彼の言葉におどけるように返す花婿。
しかしその表情は真剣そのものだった。
不確かなものが確信に変わった瞬間だった。
それからの私たちは両家のご両親、彼のご両親に挨拶をして、特に会話もないままただ終わりの時間まで過ごした。