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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

修羅と愛〜Boy Meets The Angel〜

作者: 薔薇まりあ

恋愛って、救済的な面があるんだと思うんですよね。そんな『カレカノ』好きのUP主が送るお話。


※事後描写があるので、念の為15禁にしています。

「決めた」

「何を?」

慈雨の問いには答えず、ウルンはガバリとその小柄な身体に覆い被さると、床に優しく押し倒した。

カーペットの上で、キョトンとした顔が自分を見上げてくる。

慈雨のさらさらとした金髪を、慈しみを込めて梳きながら、出来るだけ何でもないように言い放った。

「俺が一番に守りたいもの、お前にする」

慈雨は両の瞳を閉じた。

涙が滲み出し、頬を伝って流れて行った。

「…ありがとう」

やっとの事で絞り出す。それでも、出来る限り誠意を込めて。

ウルンはこみ上げてくる愛しさのままに、その唇に口付けた。


慈雨は、一切を受け入れ、一切を許すヤツだ。

この俺でさえも。

これから俺が事に及んでも、何も言わないだろう。

だからこそ、精一杯優しくしてあげたい。

不器用な自分に対して開いてくれたココロとカラダ。

ウルンは慈雨の耳元に、

「愛してる」

と囁きかけないではいられなかった。



翌朝。

慈雨がスヤスヤと眠るベットを背凭れに、ウルンは着替えて物思いにふけっていた。

こうやって、心から他人(ひと)を愛せた事などあっただろうか?



忙しさに、恋をする余裕なんてなかった。

母国で拾った7人もの浮浪児たち。

義理の弟妹たちのお陰で、戦争の道具でしかなかった自分に生きる理由が見つかった。

だけど、彼らを食わせるためにも、そして弱者を搾取する大人達から守るためにも、金が、力が、必要だった。

だから、裏稼業に手を染めた。

両手は瞬く間に、また血まみれになった。

『修羅に堕ちたら、もうどうしたって天国には行けねえな。運命は、どこまでも転がり落ちなきゃ気が済まねえみたいだ。』

そう自嘲して自分を誤魔化す日々。


弟妹たちの前では、努めて優しい兄を演じた。

彼奴らが地獄を見ないよう、自分だけが悪魔になればいいだけの話だ。そう割り切って毎日をやり過ごした。

罪の意識に、何度も吐いた。

クスリに手を伸ばしかけた事も一回では無い。だけど、廃人になった少年兵の同僚達を思い出し、なんとか踏み止まった。


そして裏稼業の指令で、弟妹共々日本に密入国する事となる。

そこで遂にヘマをやらかし、放り込まれた堀の中で、ウルンは天使の様な弁護士に出会う。

渡された名刺には、英語でこう綴ってあった。

「移民問題専門弁護人

慈雨・ミリエル」

何でも曾々云々々々祖父さんは、ユゴーの小説にも紹介された司祭様なんだとか。

「Mr.ウルン、どうぞよろしく」

その微笑みは、今でも忘れられない。


それは、奇跡だった。

それは、救済だった。

国家や政治、社会の歯車に飲み込まれるしかなかった自分が、正式に日本に住めるようになるとは。


「どうか彼に、健全な人間として社会に奉仕するチャンスをお与え下さい。

それが、奪ってしまった命に対する最大の償いなんです!

そしてこの日本には、彼のような移民を受け入れる使命があるはずです!」


法廷での慈雨の訴えは、裁判官の心までも圧倒した。

ウルンには理解出来なかった。

なんでこんな自分の為に、そんなに熱くなれるんだ!?

だから思わず、なじってしまう。

「俺は人殺しなんだ。そんな俺を許そうとするなんて、お前ただのバカだ!」

面会所のガラス越しに、ウルンは慈雨に食ってかかる。

その身勝手な想いさえも受け止め、慈雨は静かに笑った。

「もしぼくが君の立場なら、して欲しい事はこういう事かなって、思ったんですよ。

それに、神さまも同じ事をされるだろうなって」


ぼくが信じているのは、愛の神さまなんだ。

それは学校でイジメに遭っていたぼくを、救ってくれた存在なんだよ。

こんな惨めなぼくでさえも、神の子・仏の子として生きているのが許されていて。

そう分からなかったら、今頃ぼくは心が死んでいた。

その恩返しに、この一生をかけるって誓ったから。


「だから君にも知って欲しいんだ。

君にも神さまの子供の欠片、仏性があるって事。

君は弟妹を守ろうとして、自分から辛い目に遭ってきたんだ。

本当に君は、優しい人だ。

ぼくはそれを、よく知っているんだよ」



『君は、本当に優しい人だね』

ずっと、誰かに言って欲しかったコトバ。

目頭が熱くなった。

それからだ、慈雨を特別に想うようになったのは。


自分が留置場にいる間、慈雨はなんと俺の寝ぐらを聞き出し、弟妹達の世話をしていた。

そして心配するあいつらに、何度も何度も念押しして。

「『大丈夫。ウル兄は絶対に帰ってくるよ』って約束してしまいましたから、明日の判決、絶対に勝ちましょうね♪」

「つくづく思うが、お前バカだな。

だけどあんたみたいなバカは、世界を救う気がするよ」

そう言って俺は笑ってやった。

そしたら慈雨も、微笑んでくれた。

お前みたいなバカに愛されて、俺は本当に幸せだよ。



その当の本人が、目を覚ましたようだ。

自分が好き勝手振舞ってしまった後、一緒に抱き合って泥のように眠った仲。

目覚めた時の腕の中の温もりに、自分がやっと『幸せ』を掴めた事を実感した。


「おはようございます」

寝ボケまなこをこする慈雨を見やり、ウルンは優しく笑う。

「おはよう。お前、身体の調子はどうだ?」

「…やっぱり、腰が痛いです。

自分、童貞だったもので」

慈雨は、恥じらいを含ませて苦笑いをした。

「…や、男が初めてなら誰だってそうなるって。女を知っていようがいまいが関係無く」

だから気にすんな。

そう言って、慈雨の頭に手を置き、髪をくしゃりとさせた。

慈雨は、嬉しそうに頬を染めた。


とても、敏腕弁護人には見えなかった。

それも、弁護士と被告人という関係ではもう無いだろう。

だけど、ウルンに会う前も相当なキャリアがあるわけで。

実力があってこそ、『法廷の天使』の肩書きがついたのだ。


(本当に優しいヤツって強いんだなあ)

ウルンは胸の内で、独りごちた。

俺知ってるぞ、お前俺より強いこと。

武器持ってるとか、そんな事全然関係無く。

そんなお前に、一生ついて行くような気がするんだ。


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