朝食
そろそろサブタイトル苦しいです。二文字熟語きついです。
『今日、部活が終わったら何か食べに行かない?』
そんなメールが来たのは、試合前日の朝だった。どうせ今日も自主練習で会うのになあとため息をつきつつ返信した。ため息をついたはいいが、本当にいやだとは思っていない。いつもの口調ではなく、やけに女の子みたいな喋り方のメールを見たのが、少し嬉しかったようだ、と自分で分析してみる。昔の松崎も、言いにくいことや言って恥ずかしいことを言う時は男口調が消えていた。あのウインクのとき以来『片鱗』は見えていなかったから、改めて嬉しい。これがしょっちゅうならこれほど嬉しくは無かったと思う。
――そういえば、松崎の記憶って戻るのかなあ?
ふと脳裏を過った。
陸上部に入ってずいぶん忙しかったからすっかり忘れていたけど、私は松崎にとって『高二のときに知り合った転校生の女の子で、どうやら幼馴染だったらしいが何も思い出せない』奴でしかないのだ。
でしか?
無意識にそう思ったが、その三文字の意味をもう一度考えてみると、体中が熱くなる。私は松崎に何を期待しているんだろう。誰かが思考を読んでいるわけではないのに穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。
「ちょっと! お姉ちゃん! 聞いてんの? 朝ごはん作ってくれなきゃ私、空腹で死んで、その間際に今までおねえちゃんが相談したことすべてを拡声器使って訴えちゃうかもよ。皆さん、私はこんなに相談を受けたのに餓死しましたって!」
「あーうるさい。拡声器使わなくてもいけるって。はいはい、今から作るからさあ、気長に待っててよ」
口ではそう言っていても、手は反射でスカートのポケットの位置にあった。私は苦笑する。
朝ごはん係は、五年前に両親が蒸発してからずっと二人で住んでいる私たちにとっては重要な役目だ。だから三十分、妹より早く起きたつもりだったのに、結局茉弥と同じ時間になってしまったようだ。時間に気づかないほど松崎のことを考えていたと思うと、また恥ずかしかった。