change of Ring
この作品はショート・ショートになります。
短編です。
喪失感っていうのは、こんなに苦しいものだったやろか?
無くしたオモチャにはそれほどまでに感じないものなのに。
亡くしたのが君だからこんなにも苦しいんやろか…。
今でもまだはっきり覚えてる。
まだ君に依存しているんやと思う。なんていうか…体の力が抜けて心にポッカリと大きな穴が開いたみたいで。
なんにもする気が起きひんで一日中ずっと、ボーッとしてんねや。
そん中で思うこと。
ただ、ただ、君に逢いたい。朝、身体を揺さぶられて目をさます。
目の前には愛しい彼女の顔があった。
まだ寝ぼけてる目を擦りながらカーテンを開けた。
外はどしゃ降りの雨やった。
テーブルの上には朝ごはんが既に出来上がっとって、おいしそうやった。
ご飯を食べている時、彼女は何やら着替え始めた。
『どっか行くんか?』ってまるで留守番する子供みたいに尋ねた。
彼女は『ちょっとコンビニまで』って言うた。
こんな天気なのに?大丈夫やろか?
『何、買いに行くん』
『レポート用紙。提出期限明日なんだ』
『そうか。なんやったら、俺も一緒に行くで?』
俺はパンを頬張り牛乳を流し込んだ。
『大丈夫だよ。すぐそこだしね。』
寝癖の付いた俺の頭を二回撫でて彼女は笑った。
『そか。気ぃつけてな。』
お気に入りの赤い傘を広げて家を出た。
『行ってらっしゃい』
『じゃあ、行ってきます。』
俺と彼女、最後の会話。彼女は5分もかからん場所へ辿り着くことは出来へんかった。
遅いなぁ…思て何度も携帯にかけたのに留守電や。
やっと電話が通じたと思たら『警察です』なんて言いよる。
冗談か…思て聞いてたら『ひき逃げ』だの『病院』だの不吉な単語ばかり聞こえてきよる。
そん中でもはっきり聞き取れたんが…
『即死でした。』
これだけや。
視界の悪い道を走っていたトラックが彼女をひいたらしい。
内容なんてなんも耳に入ってへん。
気が付いたら病院に向かって走ってた。彼女は病院に居た。
<霊安室>なんて看板が下げられてる部屋に寝とった。
白い肌はアザだらけやった。
かすり傷もぎょうさん…
暗い部屋で彼女は寝とった。
『さ、帰るで。』
返事なんてあるわけない。でも、返事を待たなきゃいけない気がした。
『ほら、帰るよ。』
掴んだ彼女の腕は氷より冷たかった。俺の体温が残酷に思えた。
なんや、死んだんか?
まだ18年しか生きてへんやないか。
あん時、俺が一緒に行ったら良かったんやな。
そしたら 守れたかもしれん。
…もう、遅いな。卸したての喪服に身を包んだ。
自分の時間は止まってるのに周りはどんどん変わってく。
まさか喪服を卸すのが君のためだなんて。
考えてなかったで。
思いもせぇへんかったよ。
上から下まで真っ黒や。
君の好きだった色は赤やのに。
堪忍な。今はその色を身に付けることは出来へんのや。
だから、白と黒で堪忍してや。
棺の中で横たわる君の左薬指に俺の指輪をはめた。
やっぱりぶかぶかやな。
我慢してや。
そして君の指輪は今、俺の指に光ってるで。
指輪の交換。ホンマは結婚式場でしたかったな。
ここは葬儀場…場違いにも程があるな。
『おかしな話やね』
一人で苦笑した。
そして同時にこぼれる大粒の涙。
『病めるときも健やかなるときも愛することを誓います』
冷たい冷たい君に誓いのキスをした。
読んで下さりありがとうございました。
感謝いたします。