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キツネ坂  作者: 千ノ葉
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エピローグ ―キツネ坂にて―

 ある秋の夕暮れ。僕らは神社に来ていた。この鳥居をくぐるのも何回目だろうか?

 鳥居の脇においてある狐の像を見ると、あの子の姿を思い出す。

 あの日のことはまるで昨日のことのように思い出せる。

 横に居る亜矢も僕と同じことを思っているのだろう。


 境内を進むと、巫女服を着た女性の姿を見ることが出来た。


「やあ沙理奈」

 僕は彼女へと挨拶をする。


「こんにちは、裕くん。亜矢さん」


 沙理奈は僕らの真ん中で手を繋ぐ女の子のことを見て驚く。


「亜季ちゃん、大きくなったわね。何歳だっけ?」

「今年で3歳です」


 亜矢は穏やかにそう言う。


「そっかー。もうそんなになるんだ………」


 彼女は昔を思い出すような遠い目をする。


「ああ、結構あっという間だよな」


 そう。思い返せばあの頃からもう8年もの年月が経っている。

 僕らは高校を卒業し、同じ大学に進んだ。そして卒業をすると同時に籍を入れたのだ。

 そして生まれたのが、この子。津谷 亜季だ。


 僕は以前から女の子が生まれたら亜季と名づけたいと強く思っていた。

 その思いを叶えるかのように亜矢はしっかりと健康な女の子を産んでくれたのだ。

 これもどこかのちいさな神様のお陰なのかもしれない。


「せっかくだし、お茶でも飲んでいく?」

 沙理奈は僕らにそんな言葉を掛けてくれる。

「ごめん。先にやることがあるから後ででもいいかな?」

「あっ、そうね。構わないわよ」


 彼女は笑顔で承諾してくれる。

 そんな彼女と別れ、僕ら三人はお堂の前に来て賽銭箱に小銭を投げ込む。


「おとーさん、がらがら、あたしがやる~!!」

「はいはい」


 僕は亜季を抱っこして、綱を取らせる。

 亜季はその綱をがむしゃらに振り、上からする鈴の音が境内に響いた。

 僕らは手を合わせ、願いを込める。


 この願いを彼女は聞いてくれているのだろうか? いやそんなことは確かめるまでもないだろう。

 そして僕はお堂の中に入り、御神体の白い狐の前に小さな包みを置き一礼する。


「白狐、お前の好きなシュークリームだぞ。大事に食べろよ」


 返事が無いことを確認して、僕はお堂から出た。


「終わった?」

「ああ」

「おとーさん、おかーさん、はやく、ひがくれちゃうよ」

「はいはい」


 僕らは亜季に急かされるように、神社から出て、坂を登っていった。




 秋の落陽は3人の影を長く長く地面へと写す。亜季はその影の様子に気を取られ、何度も後ろを振り向く。


「ほら、亜季。もう見えるぞ」


 僕らが手を離すと、亜季は元気よく柵のほうに走っていく。


「わぁ~!!」


 そして彼女は感嘆の声を漏らす。

 そこには驚くほどの紅があった。夕陽はすべてのものを紅に染める。


 だがその景色は前見たものとは違っていた。

 無機質のビルは自然を削り、着々と思い出の風景を変えていく。

 だけど………


「景色は変わっても、ここが綺麗なのには変わりないね」


 亜矢はそう呟いた。


「ああ、景色が変わってもあの思い出は一生色あせないよ」


 僕は亜矢と見つめあう。

いつも見ている顔だが今日はいつも以上に綺麗に感じてしまう。


「あの子とお姉ちゃんも見てるかな………?」

「見てるよ、きっと………」


 亜季と白狐にもう逢えないと思うと少し寂しい。


「けど、僕らはもう奇跡なんて頼りにしちゃいけないんだよ」

「そうだね………」


 僕たちはもう十分に幸せにしてもらった。これからは自分たちの力で未来を切り開いていかなければいけない。


「あー、おとうさんとおかあさん、らぶらぶ~」

「こら、亜季。どこでそんな言葉を覚えてきたんだ!?」


 僕は亜季を抱き上げる。


「ふふ、亜季ったら」


 亜矢も僕へと抱きついてくる。

 動けなくなった僕がふと木の上を見上げると着物を着た少女がおいしそうにシュークリームを頬張っているのが見えた………いや、見えた気がした。


「おとーさん、なにみてるの~?」

「いや、なんでもないよ」

「む~? ほんとー?」

「ああ」


そういって僕は亜季の髪を撫でる。


「亜季ばっかりずるーい。私も!」

「おい、亜矢っ?」


 亜矢はいきなり、僕に抱きついてきた。

 いつも以上の積極性に僕は驚いた。


「まったく………さあ、神社へ戻るよ」

「は~い」


 二人は声を合わせて僕に返事をする。

 僕らは3人で手を繋いで坂を下りていった。


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