序章
きっと、その手に再び触れることはない。
そう思っていた。
だからもう一度会えるかもしれない、
そうわかったとき、
どうしても会いたいと思った。
もう一度、君の笑顔が見たいと思った。
***
「久しぶりだなあ、ここに来るの」
わたしは久しぶりの祖母の家に心弾ませていた。
以前は近くに住んでいて、よく遊びに来ていたけれど、父の転勤により遠くに引っ越してしまった。3年前を最後にあばあちゃんの家には来ていない。小さいころは、裏に山や川があって、自然豊かなおばあちゃんの家が大好きだった。よくおばあちゃんと一緒に野イチゴを摘みジャムを作ったものだ。
遠いので盆や正月もなかなか帰れなかった故郷に今年のお盆は両親と帰ってきたのだ。
「日和ちゃん、久しぶりね」
そう優しく声をかけたのはおばあちゃんだ。
「おばあちゃん!」
わたしは駆け出し、おばあちゃんに抱き着いた。
「日和ちゃんはいつまでたっても甘えんんぼさんだね。お茶を入れるから中にお入り」
中は西洋の家具や小物があったり、日本の古い壺があったり、不思議な空間。そんな不思議な空間もわたしが心惹かれている要素の一つになっていた。
「おばあちゃん、ちょっと探検してもいーい?」
「日和ちゃんは私のコレクションが好きだったものね。いいわよ」
久しぶりに見たそれらはさらにわたしの心を惹きつけていた。
そのなかでも一番好きな部屋があった。おじいちゃんの部屋だ。おじいちゃんは何年も昔に亡くなっていて、わたしは会ったことはなかったが、おばあちゃんの不思議なものコレクションはおじいちゃんの影響だと聞き、きっと素敵な人だ、と決めていた。
ドアを開けるとそこは不思議の詰まった空間だった。きらきらと光る石や、不思議な国がたくさん載った地球儀。見たこともない動物たちの絵や、知らない文字。
(……より……)
何か聞こえた?
見渡すが、何もない。
おばあちゃんが呼んでるのかな?
そう思い、ドアに手をかけた時だった。
(……ひより)
おばあちゃんとは違う、男の子の声。
「誰なの?」
返事ははい。
(こっち……日和)
それは確かに聞こえた。わたしの名前を呼んでいる。少し不気味な気もしたが、なぜかその声に惹きつけられた。どこか懐かしいその声はとても優しく、わたしを呼ぶのだ。
声がしたほうを見るとそこには小さな扉。
(……おいで、もう一度)
わたしは誘われるようにその扉を、開けた。