灯りがつく頃の嘘
部活帰り。
校舎の明かりがひとつずつ消えていく。
グラウンドの音も、もうほとんど残っていない。
帰る方向が同じなのは、ただの偶然だ。
——そう思っていたのに。
気づけば隣を歩いている。
沈黙が続く。
靴音だけがやけに響いた。
「なあ」
声をかけた瞬間、少しだけ後悔する。
振り向いた彼女は、いつも通りの顔をしていた。
それだけで逃げたくなる。
——でも、今日は。
そう思った瞬間、心臓がうるさくなる。
逃げる理由はいくらでもあった。
今じゃなくていいとか。
また今度でもいいとか。
でも今日は、その“また今度”を潰せる日だ。
——エイプリル・フール。
「……ちょっといい?」
声が思ったより掠れた。
「なに?」
いつもと同じ声。
それだけで少しだけ足がすくむ。
用意していたはずの言葉が喉の奥で引っかかる。
——言え。今しかない。
「俺、お前のこと好きだ」
言った。
言ってしまった。
空気が止まる。
「……え?」
間抜けな声だった。
でも、それは自分も同じだ。
想像していたよりもずっと静かで、ずっと重い。
——違う。こんな空気になるはずじゃなかった。
焦りが喉元まで込み上げる。
「……なんてな」
無理やり笑う。
「本当だと思った? 今日はエイプリル・フールだぞ」
言葉が軽くなる。
軽くしたはずなのに妙に響いた。
彼女の顔が、みるみる赤くなっていく。
怒っているのか。
それとも——
考えるより先に身体が動いた。
「じゃ、じゃあな!」
逃げる。
振り返らない。
振り返れない。
背中に何か言われた気がしたけど聞こえないふりをした。
——最悪だ。
校門を出た瞬間息を吐く。
胸の奥がじんわりと痛んだ。
何をやってるんだ俺は。
静けさが戻る。
彼女は、その場に立ち尽くしていた。
さっきの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
——好きだ。
思い出すたびに顔が熱くなる。
「……ばか」
小さく呟く。
少しだけ俯いて息を整える。
それからぽつりと。
誰にも届かない声で、言った。
「エイプリル・フールって午前中だけだよ」
街灯がひとつ点いた。




