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短編作品集

灯りがつく頃の嘘

作者: きら☆麿
掲載日:2026/05/17

 部活帰り。


 校舎の明かりがひとつずつ消えていく。


 グラウンドの音も、もうほとんど残っていない。


 帰る方向が同じなのは、ただの偶然だ。


 ——そう思っていたのに。


 気づけば隣を歩いている。


 沈黙が続く。


 靴音だけがやけに響いた。


「なあ」


 声をかけた瞬間、少しだけ後悔する。


 振り向いた彼女は、いつも通りの顔をしていた。


 それだけで逃げたくなる。


 ——でも、今日は。


 そう思った瞬間、心臓がうるさくなる。


 逃げる理由はいくらでもあった。


 今じゃなくていいとか。

 また今度でもいいとか。


 でも今日は、その“また今度”を潰せる日だ。


 ——エイプリル・フール。


「……ちょっといい?」


 声が思ったより掠れた。


「なに?」


 いつもと同じ声。


 それだけで少しだけ足がすくむ。


 用意していたはずの言葉が喉の奥で引っかかる。


 ——言え。今しかない。


「俺、お前のこと好きだ」


 言った。


 言ってしまった。


 空気が止まる。


「……え?」


 間抜けな声だった。


 でも、それは自分も同じだ。


 想像していたよりもずっと静かで、ずっと重い。


 ——違う。こんな空気になるはずじゃなかった。


 焦りが喉元まで込み上げる。


「……なんてな」


 無理やり笑う。


「本当だと思った? 今日はエイプリル・フールだぞ」


 言葉が軽くなる。


 軽くしたはずなのに妙に響いた。


 彼女の顔が、みるみる赤くなっていく。


 怒っているのか。


 それとも——


 考えるより先に身体が動いた。


「じゃ、じゃあな!」


 逃げる。


 振り返らない。


 振り返れない。


 背中に何か言われた気がしたけど聞こえないふりをした。


 ——最悪だ。


 校門を出た瞬間息を吐く。


 胸の奥がじんわりと痛んだ。


 何をやってるんだ俺は。


 静けさが戻る。


 彼女は、その場に立ち尽くしていた。


 さっきの言葉が頭の中で何度も繰り返される。


 ——好きだ。


 思い出すたびに顔が熱くなる。


「……ばか」


 小さく呟く。


 少しだけ俯いて息を整える。


 それからぽつりと。


 誰にも届かない声で、言った。


「エイプリル・フールって午前中だけだよ」


 街灯がひとつ点いた。

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