見慣れない店
掲載日:2026/05/11
角を曲がった先に淡い紫のネオンが目印のバーがある。
見慣れない看板だ。
不思議に思いながら、ドアを開けてみる。
入っても、いらっしゃいませ、もない。
こじんまりとしたバーには、6席程度が座れるカウンターがある。
数人が静かにカクテルやハイボールを飲んでいる。
なんとなく自分も席に着く。
ただ静かに紙のコースターだけが置かれていく。
指で注文を指すと、バーテンダーは静かに作り出す。
カチャカチャと、ようやく音が生まれ出していく。
そっと、頼んだカクテルがコースターに置かれる。
グラスが冷たい。
一口飲むと淡い炭酸と甘み、そしてアルコールがあとから広がる。
ほう、と自然と息をつく。
ガタッ!
突然隣の客が立ち上がる。
何やらコースターを食い入るように見つめ、そのままお札を置いて飛び出していく。
コースターを握りしめたままだった。
辺りを見回すと、周りの人は、気にも留めず、淡々と酒を楽しんでいる。
ふと、自分のカクテルを持ち上げる。
コースターの表や裏を確認する。
何も、書かれていなかった。




