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人形の館(4)

「どうもすみません。相方がお騒がせして」

 警備員さんに頭を下げる。

 そこにメリーさんが走ってきた。

「次の試合で使うのです。出刃包丁があれば、この子は百人力……」

「って、あんた何する気!?」

「アリーナで戦うのです。うちの(みやび)が」

「へっ?」

「雅が勝てば逆転ホームラン、全ての負けが取り返せるのです! 本人もやる気満々」

 雅の表情が読み取れるほど私は修行を積んでいない。

「えっと、出場者の方でしたか」

 警備員がおずおずとたずねる。

「そうでーす」

「それなら話は別です。どうぞ、お持ち下さい。ただ、開封するのはフィールド内でお願いします。騒ぎになるといけませんので」

 出刃包丁――が入っているらしい紙箱を受け取る。包み紙には、四条河原町の有名包丁店の名前が書いてあった。

 ヤバそうなおばさんは、カウンターで手荷物検査を受けていた。

 こっちを見てサムズアップ。

……いや、この人、つかまってなかったら絶対に殺傷事件起こしてただろう。

 私とメリーさんはそそくさとその場を後にしたのだった。


 マリオネットバトルのフィールド内ブースには、互いの戦績だけでなく、詳細なスペックも記されていた。

「思った通りなのです。過去の対戦相手は、試合中のここぞという場面で謎の機能停止を起こして負けています」

「というと、禁呪か何か!?」

「ノン。電磁パルスなのでーす」

「対ドローン用のアレ?」

「そうそう。ファラデーケージで対抗しようとした挑戦者もいたようですが、コードやアンテナの部分から電磁波が入るので、完全に防御は出来なかったようです」

「ということは、ゼンマイ駆動の(みやび)ちゃんは無敵!?」

「そうなのでーす」

 メリーさんがニヤリと悪い顔になった。

 試合前のブザーが鳴る。今回は特別試合(エキシビジョン)的な感じで少し余裕がもたされた。

 観客に公開されたスペックには相手方の電磁パルスに関する情報は出ていない。あくまで対戦者同士の秘密なのだ。対する雅ちゃんのスペックは……

「初代嘉兵衛作、明治初期のからくり人形。嘉月本店が本物と認定。ゼンマイ駆動式。人類似関節使用。素材、桐、他」

 わけのわからない内容になっている。

……オッズ、どうなった!?

 千倍を超えるオッズになっていた。

 さすがに十万ポイントを超える賭け金をからくり人形に賭ける人は少ない。けど、数少ない物好きがこの勝負を成り立たせてくれたらしい。

「あたしも賭けたよ!」

 メリーさんは、最後の涙金(なみだがね)を突っ込んだらしい。元手のない私には縁のない動きだ。

「そろそろフィールドにお願いします」

 係員の誘導でバトルフィールドへと進み出る。メリーさんは雅ちゃんを、私は磁石付き駆動台を抱えて。

 カリカリカリ……

 雅ちゃんの背後でゼンマイを巻く。メリーさんは開封した出刃包丁を雅ちゃんに握らせて真上に突き上げさせる。敵のマリオネットは、背中からたくさんのアンテナを生やした武骨なロボットタイプだ。

「合意とみてよろしいですね」

 メリーさんづやきとともに電子音が鳴る。

 ピッ・ピッ・ピッ・ポーン!

 敵はじりじりとフィールドの真ん中に出てきた。アンテナの展開具合を変えてこちらの電子回路を探しているようだ。

 真ん中に来たあたりでメリーさんが雅ちゃんを駆動台からはずしてフィールドに降ろした。

「行っけー!」

 その声と同時に雅びちゃんは駆け出す。自己の最高速度で。つまり人が小走りに歩く程度の速さで。

 そして相手の少し手前で……

 すっころんだ。

 出刃包丁がすっぽ抜けて相手の胸へと刺さる。それはそれは美事な投擲だった。

 バチッ……

 バッテリーに刺さったらしい。青い火花が散り、続いてオレンジ色の炎が吹き上がる。プラスチックが焦げるいやな臭いがした。試合中なので、誰もフィールドには上がれない。

 ころんでいた雅ちゃんは、ひょっこりと立ち上がるとこちらに向き直って歩き始めた。

 一仕事終えた勇者、いや、暗殺者の顔だった。

「ケケケケケ……」

 その声はフィールドにいた少数の者にだけ届いたのだった。


「勝者、京人形ミヤビ。オッズ、千二百倍。……よかった。勝ったね!」

 私の喜びようとは対照的に、メリーさんの表情は暗い。

「これでまた、挑戦者に狙われる日々が続くのね」

……地獄を見れば心が渇く、とか何とかつぶやいている。

「雰囲気をかもしだしているところ申し訳ないんだけど、それはないと思うよ。次からは誰も電子パルスを使ってこなくなるだろうし。そしたら、からくり人形に勝っても自慢になることなんて一つもないから」

 係の人たちの祝福の言葉とともに記念撮影、永代VIPカードの授与式、勝ち金の送呈があってようやく私たちは解放された。そのあと私たちは観客席には戻らず、裏側の出口へと案内された。

 私たちはリムジンで直接、嘉月堂本店前まで送ってもらった。そこで近くの外資系銀行に現金を預けた――貸金庫に。

「いやもう、大金なんて持ち歩くものじゃないです」

 そう言いつつ、ポシェットに札束を一つ突っ込んだメリーさんなのだった。


 


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