呪われたフィルム(4)
「この世の理法では説明出来ない方法?」
「呪いよ」
メリーさん、真剣な顔だ。
「でも、呪いなんて立証できないよね」
「うん。だから、これから話すのはあくまで仮定の話になるの。……サツキ、アケチミツヒデって知ってるよね」
「うん。本能寺の変を起こした人」
アマリ会長と笹田氏もうなずく。
「実は、その二週間前に『徳川家康の饗応失敗事件』というのがあったの。俗説だけど、その席でミツヒデが信長に縁側まで蹴り落とされて、その恨みが謀反につながったという話があるの。おそらくその席にも三ツ髑髏盃は置かれていた」
……でしょうね。部下たちを恐れさせる小道具だから。
「その宴席では、饗応役のミツヒデが最高のオモテナシを提供するために、滋賀で最高級のフナ寿司を用意したの。けど、それはあまりにも臭すぎた。そして、信長にも家康にも、腐ってドロドロになったフナ寿司には腐敗臭しか感じられなかった」
「まるでシュールストレミングだな」と会長。
「そう。それで信長が怒って、ミツヒデを庭に蹴り出したんだって。そのあとミツヒデは台所の食材と器を全て堀に投げ捨てて、悪臭が安土の町中に広がったという逸話まであるの」
「そ、それがどうして呪いに?」と私。
「おそらく和尚さんは何らかの理由をつけて、アラカン氏に三ツ髑髏盃でお酒を飲ませたの。映研の仲間の追悼のために、とでも言ったんじゃないかな。真空パックのフナ寿司を手土産に。そして、理由をつけて先に帰った。アレルギーがあるから自分は食べられない、とか、先祖の言い伝えで口にできない、だからあとで食べてくれ、とでも言ったのでしょうね。けど、研究者であるアラカン氏には、フナ寿司はどんなに臭くても平気。酔いが残ったままフナ寿司を口にしてしまったの。そこで信長の呪いが発動します」
……え? そんなことで人が死ぬの!? おそるべし、付喪神!
アマリ会長が口をひらいた。
「わからなくはないなあ。織田信長ってアスペルガーだったという説があるし、アスペルガーの人は嗅覚過敏が多いって言うからなあ」
そう。高校の保健体育でそんな話は聞いた。ほぼ半数が嗅覚過敏なのだそうだ。そして、織田信長がサイコパスだったという話もある。上司にはしたくないカリスマだ。
私は手を上げた。
「あのー、別の可能性があるのだけど、言ってもいいかな」
皆がうなずく。
「カッコマンって正義の味方じゃない。多分、アラカン氏はスタントマンをしつつその亡霊に捕らわれていたと思うの。殺人の記憶が自分をさいなんで、その結果として無意識に未熟なフグの粕漬けを食べてしまった。私は無意識が自分を処罰したという説」
「フロイトだね」と会長。
メリーさんもうなずく。
「……その可能性もあります。和尚さんはただお土産にフナ寿司を持って行っただけ。その記憶が強く残っていて、つい『フナ寿司で自殺はできない』と口走ってしまった、のかもしれない」
会長もうなずく。
「まあ、とにかくだ。笹田さん、映研三十年史には穏便なことを書いて済ませておいた方がいい」
「はい、そうします」
今やすっかり普通の人っぽくなった笹田さんは、おとなしくうなずくのだった。




