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呪われたフィルム(3)

帰ってきたメリーさん・呪われたフィルム(3)


呪われたフィルム(3)


「呪われた、と言うと」とアマリ氏がたずねる。

「脚本も撮影も難航してにっちもさっちも行かなくなったんだ。なんとか脚本は仕上がったものの、小道具にろくな物ができない。高校の自主製作映画のレベルだと笑いものになる。そこで、私が一計を案じた。うちの寺の秘宝を貸し出したんだ」

「まさか、あの仮面?」

「そうだ。あれはアサイの()髑髏盃(どくろはい)だ」

……確か、織田信長が作らせたという漆塗りの盃だ。しかし、あれは三人の髑髏をそれぞれ盃にしたのでは?

 私の心を読み取ったかのように和尚さんが補足する。

朝倉義景(あさくらよしかげ)浅井久政(あざいひさまさ)浅井長政(あざいながまさ)の三人の髑髏をくっつけて作った大杯、それが本物のアサイの三ツ髑髏盃だ。アサクラとアザイの名からとってそう呼んでいる」

「そんなヤバそうなものを小道具に……」と笹田氏。

「君らは幽霊の寿命を知っているかね」

「約四百年と言われています」とメリーさん。

「その通り。まあ、これは関ヶ原古戦場で武者の亡霊が見られなくなった時期から推測してそう言われている。まあ髑髏の元となった三人もそろそろ成仏しとるだろう。というわけで私が蔵から持ち出して、ハナブサ君にかぶせようとした」

「というと万坊さんですね」

「ああ。スミレ君やアラカン君も遊びで頭に載せていた。が、万坊君は頑としてかぶろうとしなかった。そこで、役名を織田作太郎にすることで厄除けが出来る、アサイの三人は織田信長に敗れたから逆らうことはできないのだ、と理屈をつけて、お守りもたくさん渡してなんとかかぶってもらった」

……迷惑な坊さんである。というか、その頃はまだ僧侶にはなっていなかったんじゃないのかな。

「あの、刀なんかもひょっとしてお寺の物ですか」

「ああ、あれもウチの蔵から貸し出した。全て真剣だ」

……なんと剣呑な!

「ただし、撮影前にグラインダーで刃引きをした。刃がなければ銃刀法違反にはならない。ただの小道具だ」

 手間をかけた映画作りには頭が下がる。

「刀剣登録は面倒くさいし、破棄するのも可哀想だ。親爺もこれは許可してくれた」

……なーるほど!

「御所でつかまったときも、皆で土下座して許してもらえた」

……やっぱりつかまったんかーい!

「とまあ、撮影秘話としてはこのくらいだな」

 にっこりする和尚さん。

 笹田氏が追撃する。

「僕らが聞きたいのは、そのあとの断絶についてなのですが……」

「ああ、それな。単に人間関係がこじれただけだ」

「というと、やはり女性関係ですね」とメリーさん。

……あかん、こいつらを野放しにしておくととぐいぐい行きよる。

 和尚さんは苦笑する。

「まあ、八ミリカメラが壊れたという要因も大きかったが、ぶっちゃけそれだ。私らもまだ若かったんだな。スミレ君をめぐって主役の四人が対立していた。多欲多情、部内はギスギスしていた。……まあ、スミレ君は誰とでも寝ていたからなあ」

 女優さんにはそういうタイプもいるとは聞いている。が、実際にあった話だとなんかいやな気がするのが不思議だ。

「サラ・ベルナールみたいなのー」メリーさんが謎の発言をした。

「宝田先輩の死因は何だったんです」と笹田さん。

「ライトの落下だ。警察は事故と判断した。ただ、これは……」

 和尚さんは、少しためらってからオフレコにするようにアマリ氏に言う。

 素直に従う会長。

「いや、これは言うのはよそう。墓場の中まで持って行くと誓ったことだ。とにかく、宝田君が亡くなった一週間後、スミレ君が車の運転をミスして事故を起こして亡くなった。さらに数日後、部長の万坊君が事故死した。これで呪いのフィルムの噂が広まり、後輩たちも萎縮して活動どころではなくなったんだ」

 そこにメリーさんが突っ込んだ。

「宝田さんを殺したのは、アラカンさんですね!」

 修行を積んだはずの織田和尚も、これには驚いた様子だった。

「どうしてそう思ったのかね」

「技斗、の役職です。アラカンさんは、すでにスタントマンとして撮影所に出入りしていた。誰かの弟子としてついていたのだと思います。スミレさんをあきらめきれなかった彼は、撮影所で宝田さんを見かけて抹殺し、その後釜に入り込もうと考えた。けど、彼女にはすでにマンボウさんという幼なじみがいた。だから彼も殺した。その時にはすでにサキさんは事故死していた。けど、アラカン氏は別の大学に通っていたのでそのことを知らなかった。絶望したアラカン氏は、毒物が残った研究素材を食べて自殺した――そうではありませんか?」

「君は、想像力が豊かだなあ。だが、フナ寿司で自殺はできないよ」

「えっ? フナ寿司って毒がないの!?」

 メリーさんは、心底驚いたようだった。どこかでフグの粕漬けと混同していたのだろう。

「ああ。その推理の前半はあたっている。宝田君を殺したのはアラカン君だ。スミレ君と将来を約束していたのに奪われた、と思い込んだんだ。実際は違う。スミレ君が、将来有望そうな宝田君を選んだ。アラカン君も、映画の世界にのめり込んで退学はほぼ決定していたからね。私は、彼女自身の口からそうきいている」

 確かに、大学中退のスタントマンと、京大卒の映画会社の正社員では、将来性が大きく違う。

「今、アサイの三ツ髑髏盃はどうなっているんです?」

 笹田氏がたずねた。

「うちの閻魔堂にしまってあるよ。檀家さんにも、申し出があれば見せている。見てみるかね」

 当然、誰もが見たがった。

 和尚さんは事務所から鍵を取ってくると、先に立って案内してくれた。

 相応寺の横の道を行と、そこにはいかにも古そうな建物があった。庭木の姿がひねこびていて、樹齢何百年かがわからない感じだ。

「こちらが閻魔堂だ。一応、参拝の形をとるが、よろしいかな」

 皆がうなずく。

 警報器を切って、鍵を開く。お堂の扉に警備会社のシールが貼ってあるのが意外だ。

 和尚さんは雨戸を開いて中に光を入れた。

 確かに、真ん中には閻魔大王の大きな像が鎮座していた。大きな口を開いていて、まるでデフォルメされたマンガのキャラクターのようだ。

 和尚さんは『般若心経』をあげると、閻魔像の裏側へと案内した。そこには位牌や何かが置かれた壇があり、和尚さんはその下の隠し戸棚を開いた。

「これがアサイの三ツ髑髏盃だ」

 深紫の風呂敷包みに入った何かを取り出す。

「さあ、明るい所で見てくれたまえ」

 閻魔大王の像の前で包みが解かれる。

 それは確かに、三つの頭蓋骨を接合した奇っ怪な盃だった。髑髏はつややかな黒漆に覆われ、頭上の盃の内側は金色に塗られている。たぶん金箔だ。これを作れと命じられた職人は、きぞかし怖い思いをしただろう。

「メリーさん、何か感じる?」

 首を横に振る。

「これはただの抜け殻でーす」

「そう、これはただの古い工芸品だ。……君たちは、焼き肉は好きかな」

 みんなが沈黙で応える。

「骨付きカルビ、怖いかな? 怖くないでしょう。骨付きチキンも怖くないでしょう。人間もそれと同じだ。人は死ねば転生する。まあ、たまに現世への執着が強すぎて幽霊になる者もいるにはいるが、それも一世代もたてばこの世を去る。チベット密教にはカパーラという人の頭蓋骨を使った法具がある。カンリンという人の大腿骨を材料とした法具や、ダマルという頭蓋骨を二個結合したでんでん太鼓のような法具もある。……ただの骨に怖さを覚えるのは、見る人の心が生み出した幻想――妄念なんだよ」

 和尚さんは、三ツ髑髏盃をひょいとかぶって見せた。

「人はみんな死ぬ。たとえ祟りがあったとしても、せいぜいが死ぬだけだ。恐れる必要はないのだよ」

……すごく説得力のある話、いや説法だった。

 メリーさんがささやいた。

「霊はついてないの。でも、多分、付喪神化しているの」

「え?」

「普段は何ともないけど、何かのきっかけがあるととっても怒りそうな気配がする。お寺に封印しておいてもらうのが最善なの」

……餅は餅屋、ということか。

 というわけで、私たちは相応寺を退散した。

 笹田さんは「伝説の小道具」が寺宝の古器物と知って放心している。

 ちなみに、ポケットマネーで買ったお菓子はお供えとして和尚さんに献上してきた。まあいい、また買いに行けばいいのだ。

 その帰り道、メリーさんが妙なことを言い出した。

「おそらく、アラカンさんを殺したのは和尚さんなの。でも、それはこの世の理法では説明出来ない方法でなの」


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