月見食べたくなってきた~The Rebellion Against ASKEN~
月見が食べたくなったので書きました。
あすけんアプリへの反逆。これは、フィクションです。
夜。
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人気ストリーマーが「秋といえばこれですよ!」なんて満面の笑みでかぶりつく。
かため卵。パティ。バンズ。そしてあのソース。
――月見バーガー。
やばい、もう頭の中があれ一色になった。
でも私は今、ダイエット中。
スマホを開けば「あすけん」がにこやかに微笑んでいる。
『今日の食事、バランスが良いですね! この調子です』
ふん。なんて爽やかなんだ、この栄養士。
ムカつく。
私の腹の虫の音なんて聞こえてないくせに。
「でも、月見バーガー食べたいんだよなあ……」
小声でつぶやくと、タイミングよく通知が飛んでくる。
『夜遅くの高カロリー食は脂肪になりやすいですよ!』
ぐぬぬ。
完全に見張られてる気分だ。
でも、私は気づいてしまった。
このまま我慢して布団に入っても、絶対に夢に見る。あの黄身が、空に浮かぶ月のようなあの黄身が、私を呼ぶに違いない。
よろしいならば――反逆だ。
夜道を駆け抜け、Mの店で紙袋を受け取る。
ジャンクな香りが嗅覚を刺激した瞬間、あすけんの声(妄想)が脳裏に響いた。
『本当にいいんですか? せっかくの90点が……』
「うるさい! 今日は私の勝ちだ!」
ベンチに腰掛け、包み紙を開く。
ひと口。このソースこそ至高。
幸福。
秋が口いっぱいに広がる。
罪悪感?
そんなもの、味の濃さでかき消される。
食べ終わってアプリを開いた。
記録するだけエライだろ。
スコアは――68点。
さっきまで「素晴らしい!」と褒めてきた女性栄養士は、微妙な笑顔でこう言ってきた。
『ちょっと食べ過ぎましたね。でも大丈夫、明日からまた頑張りましょう』
私は笑ってスマホを閉じた。
68点だっていいじゃないか。
秋の勝負は始まったばかりなのだ。