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玉葱忌  作者: ハト
2/2

当日

 僕がその日何をしていたかと言えば、朝から高校時代の友人とビールを飲んで、二人でダッチマスターのキャップを開けて、シガリロに染み込んだバニラフレーバーを楽しみながら白石ひよりのAVを鑑賞して、その後演劇部に入っている友人とその後輩が一緒にやってきたので、それからはずっと麻雀をやっていた。

「ローン、タンヤオ」

「西栗、お前もうちょっと高い手で上がれないんか」

 西栗というのは僕の名字で、この台詞を言った相手は点棒を僕に差し出してくる。つまり、さっきからせこい手で上がり続けている僕、西栗崇に飛びかけの彼はフラストレーションが溜まっているらしかった。

 今が夜の十時で、僕たち昭和六十三年生まれのセックスシンボルに筋肉隆々とした男共が劣情をはき出し続ける動画が終わったのは確か夕方五時過ぎだったから、かれこれ五時間ほど続けていることになる。その間に、三回ほどハコを被った彼がイライラするのも判らなくはない。とりあえず謝罪して、次は高い手を狙うと言っておいた。

 テレビからは、インフルエンザの特集が聞こえてくる。

「そういや、インフル流行ってるらしいね」

「あれやろ、豚インフル。なんか春先にいった介護実習でなってた人いたわ」

「マジで。それって実習どうなったん」

「夏休みに延長」

「パネェ」

 じゃらじゃらと牌を混ぜながら、そんな感じでくっちゃべる。

 山を積んでサイコロを振った時、後輩君があくびを一つした。

「先輩すいません。今日早かったんで、これ終わったら抜けますわ」

 後輩君はすまなそうに言うが、誰もそれを責めなかった。彼がパン屋でバイトしているのは演劇部の友人から聞いていたし、僕のサークルにいる子も一人、よくパン屋は朝方に仕込みの仕事があって大変だとぼやいていたからだ。

「ええよええよ、気にすんな」

 そう言って、僕は手牌を整理する。しかし、彼が抜けるとなると、この卓も今日はこれで解散だろうか。三麻は誰も好きではないのだ。もし続けたいなら、一人呼ばねばならない。僕は知り合いの中から、誰か適当な人物は居ないかと考える。そいつは麻雀を知っていて、下宿生で、京都市内に住んでいて、初対面であろう僕の二人の友人とコミュニケーションをとれる男だ。

 ああ、居た。

 僕はすぐに、杉谷という後輩を思い出す。僕と同じ文芸部に所属していて、上の条件に該当する好青年だ。友人達にそのことを話すと、彼らも杉谷を呼ぶことに賛成した。

 ケータイを取り出し、杉谷のアドレスを選択。

『いま、ダチと麻雀やってんだけど。

 君も来ないかい?

 場所はウチん家』

 そう書いて、送っておいた。もう片方の手で、字牌を選択し、捨てる。

「先輩、それっす」

 後輩君が役満を上がった。


 その後、いろんな意味で謝りながら帰っていった後輩君を見送り、杉谷からの返信を僕は待っていたが、十一時を過ぎてもメールが来る気配はない。

 もしかしたら、もう眠ってしまったのかも知れない。そう思うと電話することは憚られたので、その日はそれで解散となった。

 結局、そのメールの返信は、二度と帰ってくることがなかった。

 今でも時々思う。

 この時電話していれば、彼はまだ生きてたんじゃないかと。

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