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もしも願いが叶うなら。

作者: さち




「あっ!流れ星!」


「えっ!?どこどこ!?」


「あ〜消えちゃった!」


「えぇーーっ!早く教えてよ〜っ!」








小学4年生の頃。


ずっと好きだった奏太くんと流星群を見に行った。






その年の夏休み。


ペルセウス座流星群が観られると知って、星を観るのが好きな私を奏太くんが誘ってくれたのだった。




月明かりがなく前日に雨が降った後の夜空は、綺麗に澄んでいてキラキラと輝く星から目が離せなかった…。








「あっ!また!」


「えっ!どこ〜?」


「もうっ!奏太くん遅いよ〜!」


「真琴ちゃんは流れ星見つけるの上手いね。僕は下手くそだなぁ。」


頭を掻きながら笑った奏太くんの顔が今も忘れられない。








夏休みが明けて奏太くんが5年生になる前に引越してしまう事を知った。


「真琴ちゃんあと少しだけどよろしくね。」


困ったように眉毛を八の字に下げて悲しげに笑った奏太くん。


私は「…うん。よろしくね。」と同じように困った顔で笑う事しか出来なかった。






その日の帰り道。


「どうしよう?まだ何も気持ち伝えてない…。もうすぐ奏太くんに会えなくなっちゃう。」


まだまだこれから思い出を作っていけると思っていたのに、突然終わりが決まってしまった。




その事実を受け入れようと考えるけれど、考えれば考えるほど涙が溢れて止まらなくなった。


「どうしよう…奏太くん…」








ポツッ…ポツッ…


トボトボと歩く私に冷たい雨がおりてくる。


降り始めた雨が熱いアスファルトを冷やして、ホコリっぽいあの匂いがした。




だんだん雨は強くなっていって涙でグシャグシャになった私の顔を綺麗に洗い流す。


もう涙なのか雨なのかわからないまま、私は誰もいない公園のベンチで一人泣いた。








その日の夜。


腫れぼったい目を冷たいタオルで冷やしながら、何度も何度も寝返りをうった。


真っ暗な部屋で天井をジッと見つめているとあの日の星空がそこに映し出されたように思い出される。




「綺麗だったなぁ、流れ星。願い事しとけば良かった。…あ、そうだ。そうだよ!流れ星にお願いしようっ!」


ペルセウス座流星群の後に観られる流星群を調べる事にした。






次の日。


学校が終わってから図書館へ行って調べてみる。


10月にまた観られる流星群を見つけた。


「…オリオン座流星群かぁ。観に行けるかな?」




長いお休みじゃないけど、秋休みにちょうど流星群の観られる日が重なった。


「お母さんにお願いしてみようかな…。」








家に帰って今までの事をお母さんに話す。


改まって話を聞いて欲しいなんて珍しいと思ったのか、お母さんは家事をする手を止めてちゃんと聞いてくれた。






ずっと奏太くんが好きだった事。


その奏太くんが転校してしまう事。


二人で観に行った流星群が凄く綺麗でお願い事をしたいという事。






お母さんは最後まで何も言わず聞いてくれた。


そして「うん。そっか…わかったよ。」と優しく私の頭を撫でてくれたのだった。


その手がとても暖かくて、私はまた泣きそうになるのを堪えながら無理に笑った。




「また会えますように…ってお願いしたいの。」


「大丈夫。会えるよ!お母さんも一緒にお願いしてあげる。」


ウチはお父さんが単身赴任中で別々に住んでいる。


夏休みに観に行った流星群はお父さんもお休みだったから一緒に行けた。




今回はお母さんと二人。


「ねぇ、お母さん。お父さんには内緒にしてね。」


なんでそう思ったのかわからないけれど、お父さんには言わない方がいい気がしたのだ。


「じゃあ、ふたりの秘密ね。」


そう言ってお母さんは笑った。






それからは流星群を観る為に毎日少しずつ準備をした。自分で図書館へ行ってどの方角で観られるのかとか、綺麗に観るために必要な道具や準備する物などについて調べた。






予定が近くなると、てるてる坊主を作って晴れるようにお願いもした。けれど当日の天気は曇り…。


観られるかどうか微妙らしい。




「せっかく準備したのになぁ。」


私がため息混じりに呟くとお母さんが言った。


「諦めるのはまだ早いんじゃない?さぁ!出発するよ!」


「えっ!?天気悪くて観られないかもしれないのに行くの?」


「真琴。やる前から諦めちゃダメよ!今回だけじゃない。何でもそうだけど、やらないで後悔するよりやってから後悔した方がいいでしょう?」


「…うん。でももし観られなかったら?」


「その時はその時!流れ星がダメなら他の方法を探すのよ〜!」


お母さんの目はキラキラと輝いていて、あの夏の星を観ているようだった。




「わかった。やれるだけやってみる!」


お母さんと二人で家から少し離れた高台にある公園に来た。夏休みもここで観たんだ。




街灯の少ない公園は暗くて怖かったけれど、お母さんと手を繋いで歩くのが久しぶりで二人で顔を見合わせて笑った。




「足元、暗いから気をつけるのよ?」


「大丈夫だよ!お母さんも気をつけてね?」


「ありがとう!…さぁ、もうすぐよ。」




暗い中で目が慣れてきて、少しずつ辺りの景色が見えてくる。木に覆われた小道を抜けると急に視界が開けて自分の住んでいる街の灯りが沢山見えた。




「わぁ〜!前にも見たけどやっぱり綺麗っ!」


「そうね〜!お母さんもこの景色は何度見ても好きよ。」


お母さんの横顔をこっそり見てみる。




目がキラキラ輝いて子供に戻ったみたいに見えた。


私はお母さんのこういう所が大好きだ。自分が将来お母さんになったらこんなお母さんになりたいと思っている。


…恥ずかしいから伝えてないけど。




その時、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。


「真琴ちゃん!」


この声は!




慌てて振り返るとそこには奏太くんがご両親と一緒にこちらへ向かって来ていた。




「えっ!?どうして奏太くんが?」


私は訳がわからずお母さんの顔を見上げる。


お母さんはアイドルのようにパチッと可愛くウィンクをした。




「えぇ〜っ!お母さんが呼んでくれたの?」


お母さんは少しかがんで私の耳元で言う。




「まだ奏太くんに気持ち伝えてないんでしょ?後悔しないようにね。実はね、お父さんもここでお母さんに告白してくれたのよ〜。」


と言っていたずらっぽく笑った。




「大丈夫!頑張れっ!真琴!!」と軽く肩を叩いて背中を押してくれた。




「えぇ〜っ!気持ちの準備が出来てないよぉ〜!」


予想外の展開に星を観ることも忘れて頭の中でぐるぐる言葉を探す。




ゆっくりこちらへ歩いてきた奏太くんがまたいつもの八の字眉毛で困ったように笑った。


でも今日は何だか嬉しそうだ。




「真琴ちゃん、急に来ちゃってごめんね。びっくりしたでしょ?」


「う、うん。お母さんたら何も言わないんだもん。」


顔がアツい。きっと真っ赤になっているんだろうなと思い、手の甲で抑える。




公園の中の展望台なので少し街灯はあるが、きっと顔色までは見えないと思う。それが救いだった。




「でも、来てくれて会えて……嬉しかった。」


この明るさなら恥ずかしいけど素直に伝えられる気がした。街の灯りも応援団になったみたい。






大人達は少し離れた所で「突然すみませんでした。」「いえいえ、お誘いありがとうございます〜。」なんて大人ならではの会話をしている。




「あ、あのね!」「あ、あのっ!」


二人の声が重なった。




顔を上げて奏太くんを見ると真剣な顔でこちらを見ている。真っすぐなその目は初めて見るかもしれない。胸がドキッとした。




「ぼ、僕から話してもいい?」


「…う、うん。」


ドキドキが体に響く。




何の話だろう?


今ここで改めてサヨナラを言われたら泣いちゃうな…と思っていると……。




「いつもありがとう。優しくしてくれて、そばで笑ってくれて嬉しかった。」


胸がぎゅーっと痛くなる。


私も奏太くんも手を当ててふぅっと息を吐く。




「ずっと伝えたかったんだ。でも恥ずかしくて言えなくて。こんなのカッコ悪いよね。真琴ちゃんの笑顔が大好きなのに。」


今度は泣きそうな顔でこちらを見つめている。


私は同じ顔で奏太くんを見つめ返した。




もう心臓は耳まで上がってきたんじゃないかと思うくらいドキンドキンと音を立てている。


「わ、私も奏太くんの優しいとこも頑張りやさんなとこも、笑った顔も大好き。…でもずっと言えなかった。同じ気持ちかわからなくて怖かったの。」




奏太くんが泣きそうな顔になったのがわかった。


好きな人に気持ちを伝えるのってすっごく怖いんだ。でも頑張りたいって思うから泣きそうになる。




「わ、私っ!!」


気持ちを言いかけたその時。


「待って!!それは俺に言わせて!」


奏太くんが私を止める。




「えっ!?」


戸惑う私に奏太くんは一歩、二歩と近づいてくる。


「真琴ちゃん!」


真っすぐな奏太くんの瞳にはキラキラと星空がうつっていて吸い込まれそうだった。




私の両手を持って真っすぐ見つめて奏太くんは言う。


「俺、真琴ちゃんが好きだ。ずっとずっと大好きだった。………やっと言えた。」


「私も………奏太くんが大好き。嬉しい。」


気づかぬうちに私の頬には涙が流れていて、奏太くんも同じように泣いていた。




「二人とも…空を見上げてごらん?」


奏太くんのお父さんが優しく声をかけてくれた。




手を繋いだまま二人で見上げるとそこにはピークを迎えた流星群から沢山の流れ星が。




「一緒にお願いしよう!」「うんっ!」


二人で空を見上げたまま大きな声で言った。










『ずっと一緒にいられますようにっ!!』










街の灯りにも届きそうなぐらい大きな声で言った。
























その後、お母さんは誰よりも泣いていて、話を聞いたお父さんは「俺も参加したかったよ〜!」と仕事で来られなかった事を嘆いていた。興奮したお母さんを帰ってからもなだめるのが大変だった。


奏太くんのご両親は「また必ず会えるから大丈夫だよ。絶対に会おうね!」と言ってくれた。




『離れても絶対絶対また会おう!』


と二人で約束して奏太くんは転校していった。


























































あの星空の告白から17年。


私と奏太くんは今も一緒にいる。










「奏太〜?そろそろ起きないと本当に遅刻するよ〜?」


「うぅ〜ん。わかってるぅ。」


「全くもう〜ねぼすけなんだからぁ。」






「ねぇ、パパまだ起きないの〜?幼稚園行ける〜?」


息子の流星が心配そうにパンをかじっている。私達は結婚し、息子の流星と3人で幸せに暮らしている。








家族の夏の一大行事は、相変わらず星空を観に行く事だ。




『これからもよろしくね、奏太。』

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― 新着の感想 ―
とても爽やかで優しい作品ですね。 真琴ちゃんと奏太くんも素敵ですが、ふたりのご両親がまた……(*´ω`*) ラストも微笑ましくてすごく癒されました。 さちさん、ありがとうございました。
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