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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白昼都市サブマージ計画

作者: 東晴海

 私の生まれた場所でもあり、育った場所でもあるここ湊浜市葵区。県庁所在地でもあり、首都へも列車で僅か30分で行ける便利なところ。海も近いし潮風のにおいが私のにおい。夏には近所の向日葵が綺麗に咲く。ダメなところと言えば坂が多いくらい。それを除けば本当に良い、大好きな街だ。

「おはよぉ~ふわぁ….....ねむぅ」

「おはよう、少し遅いんだから早くご飯食べて、学校行きなさいよ」

「いただきまぁす、ううん.....」

ぼんやりと開いた目で朝ごはんのパンをもさもさと食べる。いつもとなにも変わらない日。お母さんがつけっぱなしにしているTVからは朝のニュースが流れてくる。

「次はお天気のコーナーです。○○さーん」

「はーい!、こちらは首都の高層タワーからの映像です。朝から雲が発達していますが、今日は雨が降る見込みはなさそうです。天気もカンカン照りの快晴で、気温も40℃まで上がります。熱中症には十分に注意しましょう」

そう最高気温が40℃。ここ数年で世界では今までに類を見ないほどの気候変動が起きていた。南極の氷は物凄い勢いで途轍もない音を立てながら次々と崩壊してったし、アメリカでは巨大ハリケーンが首都を襲って、洪水のせいで首都機能が一時的にマヒ状態になったんだとか。日本も例外ではなく気温が上がり、今や夏の気温は40℃がデフォルトとなり、熱中症で倒れる人が物凄い勢いで増加している。昔はよくやってた体育の「プール」という授業も私が生まれる前にとっくに廃止になった。

「太平洋上の小さな島国が海水上昇によって沈みました。この島国は人口○○人が住む小さな島で~」

アナウンサーの声がリビングに響く。お父さんが読んでいる新聞にも島が沈没したニュースが一面にでかでかと載っていた。

「日本は大丈夫なのかしら」

お母さんがふと言葉を発した直後、TVからピロンピロン、ピロンピロンと警報がけたたましい音を立てて鳴り始めた。

「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」

ああ、嫌なんだよこの音。

「早く!机の下に隠れなさい!」

下に潜り込んで数秒後、グラグラグラと強い揺れが一気に来た。

「机の下に隠れてください!スタジオでも揺れを観測しています」

震度4ぐらいかな。そう思っていると揺れが収まった。

「今回の地震の震源地は○○湾、最大震度は××県で震度5強を観測しています」

うちのところは震度4の揺れだったらしい。

「しかし最近地震が多いな。落ちてきたものも壊れているものもなくてよかった」

お父さんがほっとしていた。

「早く食べなさい、高校に遅刻するわよ」

その声ではっとして、慌ててパンを口の中に放り込んだ。


 私は高校2年生になって、2年目の列車通学がはじまった。いつも駅まで坂を下って走り、急いで赤い列車に乗り込む。プルルルルーと発車ベルが鳴動する。

「1番線から列車が発車しまーす!」

扉が閉まるギリギリで滑り込み、20分くらいかけて学校の最寄駅まで向かう。学校に着くと友達の結月が後ろから来て、声を掛けた。

「やっほー夏子、おはよー!」

「結月、おはよー!今日の地震すごかったね」

「ねー、うちも結構揺れた」

朝、教室は賑やかな喧騒に包まれる。キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。

「はーい、みんな席について」担任が教室に入ってきて朝のHRが始まる。

「えーっと、休みはいないかな。んで遅刻は.....」ガラガラガラッ

「すんません~遅れました。列車が遅延してました。はい、遅延証明書です」

「おい星野、今月これで遅れるの何回目だ?」

「今日はしょうがないですよ、"のっぴきならない事情"ってやつです」

「まあ、いい。とりあえず座れ」

「はーい」

「今日は委員会があるから〜」

HRが終わって星野が話しかけてきた。

「青柳~、今日の地震結構揺れたな」

「うん、そうだね」

「次の日本史の教室まで一緒に移動しようぜ」

星野と私は文系で同じ大学を目指している。いつも私に話しかけてくるのだが、星野と授業がほとんど一緒なのと、どちらも社会系が得意で話が結構合うから悪い心地はしない。

1・2時間目は日本史。ぶっちゃけ得意ではあるが興味はない。授業も簡単だし、つまらないから何時も考え事をしてしまう。星野、あいつなんだかんだしゃべれるんだよな。ふと私は思った。友達と呼べるような人は作ってないけど、クラスメートとは仲が結構いい。ただ女子の名前を覚えられないのが欠点だけど。

「よし、じゃあ青柳。⑯の壬申の乱で負けた天皇は」

やべっ、聞いてなかった。どうしよ。日本史担当教師の雨木響、こいつの喋る時の音圧怖いんだよ。ざあざあ降りの雨みたいな怖さがあるからさ嫌なんだよ。

「あえ、えっ.....あはは.....すみません。聞いてませんでした」

「おい聞いてろよ、じゃあ次の人に行くぞ、星野」

「弘文天皇ですね」

「はい正解、んで弘文天皇が負けたことによって元々仕えていた貴族が~」

ああ、面倒くさい。高校だって大人たちの気まぐれに付き合っているだけ、そのことが正直面白くない。このまま世界が崩れるみたいなことがあればいいのに。そう思いながら授業が過ぎていった。

 

 4時間目の授業が終わってお弁当を広げていると、放送がなった。

「校内の先生方はすぐに職員室に集まってください」

切羽詰まってそうな教頭の放送だった。ちょうど結月と机を向かい合わせにしてお弁当を食べてながら

「なにがあったんだろうね」

「学校外で誰かがやらかしたんじゃね?」

「そんなものに付き合わされる教員もかわいそうだよね」

「ほんとw」

なんてことと世間で起きているくだらない事を駄弁った。

しかし、昼休みが終わって5時間目の時間になっても先生たちが来ない。そんなことを不思議に思った誰かが言った。

「先生のこと呼びに行かない?」

おい、呼びに行くなよ。委員長タイプかよw。授業なんて無垢な子供を似たような形に整える作業に過ぎないのに。そんなことよりさっさと帰らせてくれというのが本音だ。でも先生が来るまでは暇だし音楽でも聴いていよう。イヤホンを耳にのばしてはめると、流行りの曲。とくになんも考えずに書いたような有象無象が聞こえてきた。はあつまんない、結月は友達とソシャゲしてるし話す人もいないや。このまま聞いてるか。

しばらくして担任の先生が教室に飛び込んできた。息が乱れていて、シャツもヨレヨレ。息を整える間もなく言った。

「今太平洋で大きな地震があった。それの影響で巨大な津波が起きてここに1週間後に到達するらしい。週末には湊浜は沈む。今すぐ下校して親御さんと避難の準備をしてくれ、解散!」

一瞬みんなはポカンとした顔をした後、切羽詰まった状況だと知って大慌てになった。早く家に帰る人、先生に問い詰める人、放心状態の人、千差万別だ。一方私はと言うとどうしてか妙にゾクゾクしていた。ああ、なんか世界が終わるらしい。想像していたようなことが起こるなんて正直想定していなかったけど世界の終わりって本当に来るんだと、逆にワクワクしてしまっている自分がいた。


 帰ろうと昇降口で上履きから運動靴に履き替えていると

「なあ、一緒に帰らね?」

星野がいた。

「おお星野、帰ろうなんて言ってくるの珍しいね」

「まあな、女子一緒に帰るなんてこと2度と出来ねえかもしれないからな」

なんだこいつ、と思った。

「まあ、悪い気はしないからいいよ」

2人で歩いた。空は妙に晴天で、歩いてゆく人や駅を通過していく列車も心なしか速いような気がする。普通列車しか来ないし、閑静な住宅街にある静かな駅なのにやけに音が気になる。

普通列車が来た。いつも通りの赤地に白帯の列車。乗ると思いのほか空いていたから席に座った。そりゃこんな早い時間に私たち学生は帰らないもんな。星野も私の隣に座った。列車は音階のような音を奏でながら走ってゆく。知らない間に鼻歌が出ていた。なんか気分はいい。

「この街が沈むってことなのか」

星野がふと呟いた。

「そういうことだね」

「青柳はどうするんだ?」

「たぶんおばあちゃん家に行くと思う。首都に家があるから洪水対策がしっかりされていると思うし。」

「俺は長野の親戚のところに行くってさっき親からメールがきたよ」

「そっか。学校も明日から無いって言われたし、これで最後だね」

「新しい所でもがんばれよ」

「そっちもね」

途中の駅で星野は降りて行った。あいつの背中が少し丸くて寂しく見えたのはなんでだろうか。

突然肩を叩かれた。後ろを向くと結月がいた。友達の明日香、なつ、希空、希空の彼氏の時行も一緒にいる。

「あれ、いつの間にいたの?」

「駅からよ。もしかしてさ。夏子って星野のこと好きだったりする?」

「そ、そんなわけないじゃない!別にただの話相手よ」

「割とお似合いだと思ってたんだけどね」

「別に違うからね!」

こんな恋愛話もできないんだなと思うと少し寂しくなった。他人の恋愛話を聞くのは少し楽しいものだった。けどいざ自分に振られるとドキッとしてしまう。好きという気持ちを持ったことがないからわからないし、本当にあいつを男として見たことも一度もなかった。恋していたのかな、私。分からないけど。

「じゃあね。また会える日まで」

変な挨拶だなと思いながらも返す。挨拶をする友達がいないなんてことにはならなくてすんでホッとした。最後の別れ、なんか照れくさいような気持ちになってしまう。また会えるかもしれないのに。

「ただいまー。ん、誰もいないや」

洗濯を雑に籠に放り込んで居間のTVを付けると、総理大臣の緊急記者会見が流れていた。

「今日太平洋上で発生した地震で津波が発生し、気象庁の予測の結果、湊浜付近を直撃することが分かりました。住民の皆さんはすぐに避難をお願いします。我々日本政府も自衛隊を動員して全力で避難をサポートします。また、全国民の皆さんは湊浜市民の方を受け入れてください。お願いします。」

総理大臣が深々と頭を下げ、その後は記者からの質問が飛び交った。他の県や首都への被害はないのか、到達するまでに全員の避難は完了するのか等々。ぶっちゃけ私にとってはどうでもいい。この街がどういうふうに沈んでゆくのかをただ考えていた。15時30分、玄関からガチャンと鍵の開く音が聞こえて両親が帰ってきた。

「ああ、お帰り」

「今から急いで避難の準備をするよ、必需品だけでいいから持ちなさい!」

「でも今から避難するなんて到底無理じゃない?」

指をさしたTVのなかには避難する人で埋め尽くされている湊浜駅のホームがあった。見ると転落した人がいるらしく、またそれでパニックを引き起こしている。さすが首都圏なだけあるわwと今だけは思った。

「これじゃあ無理だな」

大きなため息をついてお父さんが言った。掌に握られたスマートフォンのマップアプリには渋滞情報が映っていて、周辺のどこの道路にも赤い印がついていた。

「でも準備だけはしておきなさい、いつでも逃げれるようにね」

避難の準備をしながらTVをつけっぱなしでニュースを聞く。地震と湊浜の話題で持ち切りだが、そんなことより準備が先だ。取り敢えず最低限の服と飲食物をリュックに詰め込む。モバイルバッテリーも充電しておこう。両親はどうやったら逃げれるかを話し合ってた。けど夜になって自衛隊による避難計画が発表された。自衛隊の人たちが助けてくれるらしい。

「自衛隊の人が来てくれるのなら少しは安心ね」

お母さんはホッとしていた。

避難計画は沿岸部を優先して、離れたところはそこの避難が終わってかららしい。いつ避難できるかわからない。両親は不安で少しパニック状態。でも不思議なことに私はどうしてか平常心を保っていられた。計画は深夜から始まって、沿岸部の避難が終わったのが4日目。あと3日で全員避難できるはず。

「高台にお住みの住民の皆さん。もうすぐ避難できます。必ず一人も残しません」

そう総理大臣は言った。なんか妙に確証が持てそうな言いようだった。

「駅前広場からヘリに乗って避難するそうよ」

お母さんが避難計画の紙を見せてくれた。私たちの家は高台にあって、坂を下ると駅がある。そこの広場にヘリが着陸するそうだ。さすがにここまでくると私も平常心を保っていられなくなってきた。下の人達はほとんど避難してしまっているから、人っ子1人いない。ふと散歩したくなった。

「非日常を体験したらワクワクするかな?いやワクワクしなきゃやってらんないよなぁ?」

 

 平日の夏。誰もいない街を大声で歌いながら歩いてみる。

~一緒に世界を変えようぜー~

耳にはイヤホンからメロディが流れ出している。

カラカラッ、ピッ、ピッ、ガコン。熱すぎるから自動販売機でスポーツドリンクを買って、3分の1を一気に飲み干した。美味い、今なら何かできる気がする。試しにあなたたちは大丈夫なの?なんて蝉に話しかけたら、大丈夫と言わんばかりに蝉時雨が降り注いできた。その後鳩に話しかけても反応すらしてくれなかった。悲しい。

「知らん世界で一人旅をしているみたいだ」

そう独り言を言っていると肩に雨粒が降ってきた。ポツ.....ポツ.....ザアアア。まるで夕立が夏の世界を洗い流してゆくみたいだ。

「ヤバい!傘持ってきてない!」

慌てて坂を上って家に飛び込んだ。

「こんな時間に何してたの?」

「あはは.....ちょっと遊んでた。誰もいない街が楽しくて」

「雨が降るって言ったでしょう?風邪ひくかもしれないし、もしかしたら今津波が来るかもしれないのに.....まったくもう」

お母さんが苦笑しながらびしょ濡れになった私をタオルで拭いてくれた。ふと実感が湧いてきた。ほんとに沈むんだ。なぜか星野のことも気になった。

「そういえばお母さん、星野のお母さんと仲良かったよね」

「そうね、何回かお茶を飲んだし、PTAでも一緒だったからね」

「もう長野に行っちゃった?」

「もう着いたみたいよ、SNSが更新されてるからね」

お母さんのスマートフォンを覗くと田舎の景色が映っていた。松代というところらしい。なんで急にあいつのことなんて思ってしまったのだろうか。もう2度と会えないかもしれないのに、もう少し話しておけばよかったな、なんて思うのはなんでなの?

「今星野のお母さんと電話できる?」

「なんで?でも無理よ、さっき電話したけどつながらなかったわよ」

「星野にメールしてみる」

自室に戻り、メールを打つ。数分、いや数十分待っても返信はない。はあぁ、まるで遠距離恋愛みたいじゃない。なんなんだこんな気持ちは、むかむかする。電話もメールもつながらないってことは、今のこんな現実を見ろって話だよね。こんなときだけ不条理じゃないか、世界は。無性に愛のような気持ちが浮かんだって、どこにも吐き出せやしない。唯一あるとするならば体育祭の時の写真くらいだ。あいつは背が低いから女子と一緒の列になっちゃって、そのときの隣が私だった。写真なんていう2次元の偶像に吐き出せるわけもないよな。こんなことで夢想の恋で終わってしまうのか。いつか私とどっかで巡り会って語って笑ってる、なんてね。馬鹿な想像ばっかしちゃってる。

「ああ、ぜんっぜん眠れない!もし明日逃げなかったらどうなるんだろう。現世の感想文でも書いてよっかなあ」

自室ベッドの上。避難の前日に変なことが思い浮かんだけど、そんなこと面倒くさい。

「まあ、逃げないなんて臆病な私ができるはずないんだけどね。所詮私は強がりだもん」

最後に夜の街を見ておこうと思って、外に出た。さすがに今日は晴れ。雲1つなく、満月が煌々と光を放っていた。からっぽ街月夜の下に私1人、あの時と同じ。でもすべてが終わる。

「ここで月はもう見れないんだろうね。沈む実感が湧かないけど、本当にどうなるんだろう」

そんなことを1人愚痴る。


 避難の日、いつも通りの1日なはずだった。唯一違うのは今日がここに居ることのできる最後の日だってこと。朝から目がパッと覚めた、目覚め良くないのに。パンを食べて、自室でスマートフォンを触っていると、突然ウーー、ウーーとサイレンが鳴り響いた。

「津波が迫ってきています。すぐに避難してください」

「夏子!お母さん!早く広場に行くぞ!」

予定より津波が早く来てしまったようだ。3人で坂を走り下るとすでにヘリコプターが待機していた。

「はやく乗ってください!死にますよ!」

最後のヘリコプターに私たちが乗るとすぐに飛び立った。数秒後、今までに聞いたことのない音、心の底から恐怖心を煽る音が聞こえてきた。ドドドドドドドドド、見たことない高い波が一気に街を押し流していった。駐車してあった車、駅、線路、そして家までもが押し流されていった。

「うわああああああああああああああ!」

みんなが泣いていた、震えていた。朝まで普通にいた街が、まるで自然に回帰していくように、全てを無に帰すように、瓦礫と泥となって消えていった。私も泣いていた。好きな街が消えていく。まるで私が街と一体化してラムネ色の水槽に溶けていくような感覚だった。

「うわあああ……」

ヘリコプターはそのまま首都の方向へと飛んで行った。背後では津波が私をあざ笑うかのように街を奪っていった。

「太平洋上で発生した津波は湊浜を飲み込んでいきました。現在避難が遅れた方はいないものと思われます」

首都のおばあちゃん家に無事到着することができた。TVは波によって飲み込まれた街を映し出していた。

「湊浜はもう駄目ですね、これから復旧するなんて無駄なんじゃないんですか?」

「そもそも首都を守るために湊浜を犠牲にしたなんていう話もあるじゃないですか、政府は責任を取って湊浜住民に莫大な補償をするべきでしょう」

「湊浜は必ず復旧させます。皆さんの力を貸してください!」

「あーあ、湊浜オワコンだな、住んでた人カワイソ」

TVからは当事者ではない外野の意見が流れてくる。お前らがこっちの立場になったつもりでもの語るんじゃねえよ。

「お母さん、私たち何時になったら帰れるの?」

「暫くは帰れそうにないわね」

「暫くって何時までよ」

「排水が終わるまでだって。何十年もかかるみたいだけど」

「そんな.....」

「家が決まるまではおばあちゃんに世話になるね」

「ごめんね。狭くって。でも今はゆっくり休みなさい」

おばあちゃんとお母さんの会話も上の空だった。残酷だ。身構えていたといっても、やっぱ悲しいや。もうあの街に戻ることはできないと、そう言われているのと等しいことだった。日常が、思い出があの津波のように押し寄せてきた。もう駄目なんだって。おい、余計に悲しくなるじゃないか。「うわああああああああああああああん!」また泣いた。もう駄目だ。泣いても泣いても泣ききれない、寂しい花。枯れるまで泣き続けた。外には世界が終わったのにも関わらず一等星が輝いていた。


          ー2年後ー


 私は大学生になった。あの季節になると追悼の儀が湊浜の手前で執り行われる。あの津波で死んだ人はいなかった、全員助かったのだ。しかし、街は無くなってしまったので"追悼"の儀が毎年行われているのだ。私はまだあの時の映像がフラッシュバックする。精神科で治療している最中だけど、今回は行くことにした。お医者さんからも心配されたよ、思いださないかってね。でもたぶんイケる、というか行く。夏の夢に染まっているだけ、そう言い聞かせた。そんなわけでこの儀式に参列した。あの災害の時から湊浜へつながる道路は封鎖されている。そこに建っている堤防の扉がギイーッと開くと、目の前には水没した故郷、湊浜の姿があった。私が立っているのは湊浜へ向かう国道。屋根がないバス停があって、傍には向日葵が咲いていた。目の前は透明なラムネ色の液体に満たされている。休日にいつも友達と服を買いに行った駅前のデパート、いつか泊まりたいと思っていた沿岸部の高級高層ホテル、社会科見学で行った地元テレビの電波タワー、全てが水に浸かりながらもあの日の原型を留めていた。向こうの空にはモクモクとした入道雲が漂い、飛行機雲が尾を引いていた。

戻れたらいいな。そう思わせるほどに綺麗だよね。いつも、ねえ。

「なあ、綺麗だよな」

隣に星野がいた。

「うえっ!?」

言葉が口から出ずにしばらくもごもごしていると、

「えっと……4月から首都に引っ越してきたんだ、大学は青柳と違うところだけど」

星野から話しかけてきた。そういや学校でもいつもこいつから話しかけてきたっけ。

「そうなんだ.....あの..........おかえり?でいいのかな」

「久しぶりじゃないw?そういう時は」

「じゃあ、久しぶり.....」

「久しぶり」


 儀が終わると、扉は閉じて再び湊浜は陸の孤島となる。

「おーい!夏子〜」

後ろを振り返ると結月たち高校の友達がいた。

「結月たち、久しぶり!元気で良かった!今どうしてるの?」

「私たちは国の合同宿舎に住んでて、そこから大学に通ってるの。それにしても夏子髪凄い伸びたね」

「そうかな?そっちも可愛くなってるじゃん」

暫くは友達と話していた。結月は大学で新しい友達が出来たことを嬉しそうに話していた。湊浜出身の子ー真夏という女の子が偶々同じ授業でグループになったみたいで、すぐに打ち解けて友達になったようだ。

「夏子は友達できた?」

明日香が聞いてきた。

「ううん、まだ出来てない。そんなに話しかけるの得意じゃないし、高校の時の人と繋がってるのが救いだよ。サークルも面白くなさそうだもん」

「私たちは未だに仲良しだけど、夏子は本当に仲良しにならないと友達になれないもんね」

「あははは…」

人見知りだもん。仕様がないと言えばそこまでだし。

「ああ、そうそう星野がさ。同じ大学なんだけど、結構モテてるらしいよ。」

時行がぼそっと言った。

「えーっ!夏子。告白しないと他の女の子に奪われちゃうよw」

「だから違うって!」

否定はしたけど、実際図星だった。同じ授業になった時から星野のことは気になってたのかもしれない。けどあの時の私は好きという気持ちが全く分からなかったから。でも今なら少しは好きと言えるかもしれない。好きな要素は?と聞かれても分からないと答えてしまうだろう。けど心の奥で渦巻いてるこの気持ちは好きなのかもしれない。

「このあとカラオケでもいかない?」

「いいね!近くにある?何歌おうかなー」

ピロン。スマートフォンの通知が来た。相手はー星野から。

「私ちょっと用事が出来たから先帰るね」

「え?カラオケ行けないの?」

「ごめん!緊急の用事だから行けない。今度何か奢るから!」

そう言って脇目も振らず一気にダッシュした。待ち合わせ場所は近くの堤防。

[鉄道の陸橋がある近くの堤防で待ってる]

星野からメールが来たから私は行くんだ。星野からじゃないと行くわけないんだ。

「はあっ……はあっ……ぜぇ…」

ガタンガタン、ガタンガタン。列車が通り過ぎる。

そこには星野がいた。さっき会ったばかりだから何も変わっていない。列車が通り過ぎると蝉時雨が私たちの周りを360°覆った。超が付くほどの夏だ。近くからは湊浜の水を排水しているポコポコポコという音が聞こえる。誰かが自動販売機で飲み物を買っている。ピッ、ピッ、カラカラッ、ガコン。

「ごめん、待った?」

「いや、全然待ってない。逆に呼び出しちゃってごめん」

「呼び出したってことは何かあるんでしょう?」

「うん。言いにくいんだけど……青柳、お前が好きだ」

「はっ?」

「お前が好きだ、大事なことだから2回言った」

虚をつかれた。狐に.....化かされているわけじゃあないよな。うん、そんなわけない。

「あっ、なんかごめん。俺のこと好きじゃないかった?」

「ふふっ。ふふふっ、ぶあっはっはっは!」

なんか可笑しく思えてきた。

「何が可笑しいことしたか俺?」

「どうやらお互い似た者同士だったようね、ふふふっ」

「んっ?てことは?」

焦らすなよ全く。こいつはいつもなんか変なところはな、人を読めるんだよ。それも可笑しくて堪らない。

「星野。お前のことが………好きだよ!」

刹那、ガタンガタン。列車が大きな音を立てて通過して行く。

「ごめん、聞こえなかったからもう1回!」

「だーかーら!星野、好きだよ!」

「よっしゃー!有り難う。俺告白なんて初めてだったからすんげえ緊張したよ。ああー、良かった〜」

「あれ?時行がモテてるって言ってたけど?」

「んなもんウソウソ、勝手に女子が周りに集まってるだけだっちゅーの」

「なんだ、そんなことかw」

「なんだってなんだよ、まあ、うん、うん。これからも友達として宜しく」


 2人で堤防の上を歩いた。青空も終わりすっかり夜空の始まりが近づいている。ここからは湊浜がよく見える。夕焼けのせいなのか、横顔が少し悲しそうに見える。暑い、汗が噴き出してくる。

「なあ、今日夏に咲く花を植えたんだ」

突然花の話?どうして?

「ペチュニアって花なんだよ。知ってる?」

「知らないよ」

星野の影が時間が経つにつれ伸びていった。私の影は星野の影に吸い込まれていった。

「沢山の色があるんだけど2つ買った。1つは彼処に植えた、赤色の華を咲かせるんだ。花言葉は"決して諦めない"いつか湊浜に帰るんだって思いを彼処に託してきた。もう1つは紫色の華を咲かせる。その花は今ここにある。さて花言葉はなんだと思う?」

花言葉なんてよく知ってるもんだ。でもこいつすごいもの知りだもんな。

「わからないよ」

「花言葉はね"一緒にいると落ち着く"なんだよ.、青柳と俺にぴったりだと思った」

と言って紫色の花束を差し出してきた。え?待って、結婚したいってこと?そんな将来像考えてなかったんですけど!?取り敢えず受け取っとくけど。

「結婚を前提にお付き合いってこと?それは無理よ」

「違う違う!これからもずっと落ち着けるような友達、じゃなくて彼女でいてくれってこと!湊浜に帰れるまでずっと」

「くどいねぇw、ホントに。結婚したいですって言っちゃえばいいのに」

「ホントに違うんだってw」

「なんで笑うの?可笑しいじゃないw」

とか言いつつもこっちにも笑いがこみ上げてくる。

これから知らない土地で私たちは何十年も生活してゆくのだろう。その度に躓いたり、遠回りしたり、もう立ち直れない時があるかもしれない。それでも何時か帰ることのできる日まで、毎日のように夏を叫ぶよ。

明日何を失っても未来へ向かうからさ。あの夏を忘れてしまうくらいなら、涙も代償と笑顔で歌える私でいい。毎年、赤色の華を何十回も咲かせていきたいと私は思うんだ。


 何処かの部屋。窓の外には湊浜から夏空を染め上げる光が見える。部屋には重厚感ある机、其処に1つの紙束が置いてあった。

題名はーーー白昼都市サブマージ計画ーーー





著:東晴海

原作:Orangestar

この小説をお読みいただきありがとうございます。Orangestar様の楽曲である"白昼都市サブマージ計画"から着想を得てこの小説を書いてみました。他の楽曲要素もありますので、この後書きを読んだ後に、Orangestar様の楽曲を聞いてから本編に戻っていただけると、より一層楽しめると思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。コメント宜しくお願いします。

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