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イベント・春 (2025)

失敗したから知ったこと

「失敗した……」

 卒業後に就職して営業先へと先輩と一緒に(おもむ)いた。

 

 今僕は会社の営業部内にいる。

 そこで僕はやらかしたことを思い出す。

 

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 

「先輩のおかげでアポ取れました。ありがとう――」

「アポとってからだからね。営業は」

 先輩の力添えもあり僕は先客と会う時間が取れた。

 アポはアポイント、つまりは面接。

(そうだよな。契約を結ぶことこそがゴールなんだ)

 僕は有頂天になっていた気を引き締める。

 そして先輩と先客の会社へ足を踏み入れていく。


   ☆   ☆   ☆   ☆   ★


「では今回は貴社にお願いするということで」

「ありがとうございます」

 先輩のセールストークによって目的を果たす。

 僕はいるだけだった。

(相手の対応、先輩の話術、学ぶことは多いなあ)

 学校を卒業しても学びは続くとつくづく思う。

「この時期は――」


 先方が契約書にサインを終えると雑談が始まった。

「暑かったり寒かったり花粉飛んだり大変ですな」

「じきに夏が来て暑くなりますね」

「そうなると電気代がかかりますな」

 セールスチャンスのにおいがする。

 

(疑問点を明確にできればチャンスありそう)

 僕は身を乗り出して先方の話を聞くことにした。


「そうですね。暑いと冷たいの食べたくなりますね」

 先輩も相手の話に乗っている。

「どんなのがおすすめかな?」

「うーん……夏野菜ならキュウリやトマトですね」

「キュウリか。あれはほぼ水だろう?」

 先方が僕の話に乗ってきた。

「そうですね。だから冷やせば涼が取れるかと」

「冷たくねえ……」

「河童もキュウリで涼をとってるかもですよ」

 

   ★   ☆   ☆   ☆   ★

 

「河童が逆鱗にふれたのかな」

 先方が学生時代から河童だったと仮定してみる。

(河童かあ……そんなに似てたかな?)

 先方の容貌(ようぼう)を思い起こす。

(ってそれは済んだこと!問題はこれから!)

 悪い考えが僕の頭によぎる。


(契約破棄されたらどうしよう。会社の損失だよな)

 せっかくとれたのにと僕は途方に暮れていく。

(僕の責任重いよな。会社を辞めてお詫びを……)

 入社してすぐにやらかしたことに僕自身も戸惑(とまど)う。

「おーい」

(それだけで済むかな?やはり死んでお詫びを――)

 

「おーいってば。聞こえてる?」

「あ先輩。おかえりなさい。いつからそこに?」

「ただいま。百面相やりだしたあたりかな」

「契約はどうなりました?ひょっとして流れたとか」

「大丈夫よ。ほら」

 先輩は先方のサイン入りの契約書を僕に見せた。

「よかった……」

「どうしたこの世の終わりみたいな顔して」

「主任!お疲れ様です」

 ホッとするのもつかの間、主任が来て席と立つ。


「おう。なんかやらかしたと聞いて飛んできたぜ」

 先輩の言葉が僕の胸に刺さる。

「この度はお手数かけて――」

「いいってことよ。あと菓子買ってきた。食うか?」

「これって一日限定数個のお菓子!?」

 人気商品で幻のお菓子を目の当たりにした。

「ひょっとしてお詫びとして買ったりとか……」

「はっはっは。ならどうしてここにあると思う?」

「あっそうか。考えすぎか」

 限定生産で幻のお菓子なら先方は受け取るはず。

 ここにあるのは主任の好意なのだろう。

 

「まあ今回に限ってはどっちもどっちよね」

「ああ。それで先方も理解してくれたよ」

 先輩と主任が上手に立ち回ってくれたと僕は悟る。

 僕はもう一度深々と頭を下げてお礼を言う。


「ありがとうございます」

「だからいいって。連帯責任なんだから」

「こういうのって自己責任では?」

 主任の言葉に僕は疑問を投げかけた。

 

   ★   ☆   ☆   ★   ★

 

「昔はな。『責任は全員で』が我々のモットーだ」

 主任の励ましの気持ちが胸に響く。

 

「仕事を任せたという任命責任もあれば」

「指導や教育の責任を問われることもあるわ」

「責任の裏側は権利だから」

「義務だと思ってました」

 僕は素直な気持ちを口にした。

 

「学生時分はそれでいい。社会に出たら少し変わる」

 初めて知ることばかりで聞きながらメモを取る。


(先方はきゅうりが大好きすぎて河童だったのか)

 主任の話の中でいろいろ知っていく。

「あれはあまめはぎにしとくのが妥当だったかな」

「もしくは一本だたらですね」

 妖怪から優しさを感じ僕は癒やされる。

「思うことをそのまま口にすると痛い目を見ますね」

「うんそうね。わかってくれた?」

「はい。骨身にしみて」

 話していると出入り口から気配がした。

 

「盛り上がってるな」

「なんの話かね」

 課長と係長が姿を見せる。

「妖怪の話ですよ」

「課長と係長はなにが好きですか?」

 先輩と主任が簡潔に状況を説明した。


「私は塵塚怪王(ちりづかかいおう)だね」

「そうだな……毛羽毛現(けうけげん)かな」

 課長と係長がそれぞれ口を開く。

「渋いっすね。牛蒡種(ごんぼだね)とか言われると思ってました」

「お。いける口かね」

 主任と係長と課長の妖怪トークが始まった。

 

「引き出し多いと対応の幅が広がるからね」

 ぽかんとしている僕に先輩が話しかける。

「これも営業のテクニックですか?」

「そうよ。まずは相手からの信頼を勝ち取ろうね」

「そういうものですか?」

「主任は簿記の資格持ってるからね」

「相手に合わせるため、ですか?」

 僕のいる会社は総合商社でいろいろ売っている。


「そ。相手の土俵で相手にわかる言葉で話すの」

「専門的知識がいる先方に備えるんですね」

「うん。常在戦場、備えよ常にってね」

 先輩を話をしてると主任側の話も落ち着いていく。

紙魚(しみ)……確か和歌山の妖怪だったかな)

 いろんな妖怪の話で盛り上がっていた。

 

   ★   ★   ☆   ★   ★

 

「そうだ。限定の菓子あったんで買ってきました」

「このお菓子好きなんだよね。ありがとう」

 課長がお礼を言って席に向かう。

 僕はお茶を入れに給湯室に行った。

 

「なにかあったのかね?」

 係長の(いぶか)しげな小声が聞こえる。

「地元の限定品の味、教えておこうと思いまして」

 主任が上手に切り返す。


「契約が取れた祝いかな?」

「それもありますね」

「ああ。私もISOに入ってた頃に頂きました」

 係長が納得した声を出す。

「9001と14001と25001でしたね」

「そう。結局コストがかかるでとりやめたと聞く」

「営業としては剣であり盾だったのに」

「まあまあ。上の決めたことだ」

「ISOと我々のやり方を混ぜようになったから」

 先輩を納得させようと主任と係長の声を聞く。

 

「なにかあったらこれまで通りで頼むよ」

 課長の声で空気が引き締まったのを感じる。

「あ!お茶入れてくれた?ありがとね」

 たたらを踏んでると先輩が気づいてくれた。

 先輩にお盆渡すと先輩は配り始めていく。


   ★   ★   ★   ★   ★



「えーっと……」

 どうしたらいいか状況の理解を試みる。

「なにかあったらまず先輩に聞くといい」

 課長の声が僕の耳に届く。

「先輩には荷が重かったら?」

「そんときゃ俺の出番だな」

 僕の質問に主任が答える。

「主任には荷が勝る案件なら?」

「その時は私が対応しよう」

 係長が胸を張って僕に言う。

 

「先輩の顔を立てて動いてくれると我々も助かる」

「はい。かしこまりました」

 課長がまとめた言葉に僕は言葉を返した

「よし。ならいただくとしようか」

 僕たちは机の前のお菓子とお茶に手を合わせる。


(なんか給食を思い出すな)

 ボクは卒業した学校生活に思いを馳せる。


「いただきます」

 全員の声がお茶と慰労の始まりの時間を告げる。

 お菓子は先方から突き返されたパターンもあります。

 もしくは主任が2個買ってきたとかですね。

 一人称は裏側を想像できて楽しくなれます。

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