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父と子

赤竜アレクサンドラが国王に即位した事は今や誰もが知るところだ。

 フーハイシティル王国は滅びアレクサンドライト王国が樹立した。ただこれは正式に発表した訳でもなく、アレクサンドラが勝手に言っている事だ。

 今は政治体系も法律も何も無い、無法の国家である。赤竜が王になった事で国民は怯えて大きな犯罪を起こしていないが今の状況が続けば国民生活は崩壊するのは目に見えていた。

 王城で働いていた貴族達は全員自身の領地に帰ってしまった。残ったのは帰る場所も無い下働きの平民だけである。

 貴族達が逃げ出し政治の混乱が続いても国民の生活は変わらず送らねばならない。王がいてもいなくても明日は来るし腹は減る。

 そんな国の混乱を一人で支えなければならない男がいた。

 コービン・ヘツラウェルである。

 強制的に国のナンバー2になったコービンはアレクサンドラが王になった時に質問した。

「アレクサンドラ様はこの国をどの様に導くのですか?」

「我が何かするのか?」

「は、はい……新たな国を興すと言う事は国の法律や税制、人事など多くの課題がありまして」

「面倒だな。コービン、お前が代わりに王になるか?」

「とんでもございません!私など到底王の器ではありません!」

「ならお前に政は任せる、好きにせよ」

「は、はい……」

 そんなやり取りがありアレクサンドライト王国はコービンが仕切る事になった。

 コービンまずアレクサンドラがいなくなった宝物殿に行き全ての財宝を王城へ移した。赤竜がいなくなった宝物殿は誰でも侵入でき、財宝は野晒しと同じ状況である。

 その為コービンはその日のうちに財宝を全て運搬した。コービンの体は宰相に杖で殴られてボロボロだがなんとかやり遂げた。

 次にコービンはヘツラウェル商会に出向き父であるユーノン・ヘツラウェル会長にお願いをしにいった。

 会長室に通されたコービンを見てユーノンは大きな溜息を吐いた。深いシワは眉間に大きく寄っており、キッチリと整えられた白髪をぽりぽりと掻いていた。

「赤竜相手に商売していると思ったらまさか国取りとはな、どこまで出世すれば気が済むんだ?」

 ユーノンは我が息子の予想を上回る行動に呆れていた。

「私だってこんな事になるとは思ってなかったんです!父上!どうかお力をお貸し下さい!」

 コービンは父に頭を下げた。父であろうとコービンの態度は変わらない。頭を下げるときは誰であろうと頭を下げるのだ。

「それで?私に何をさせようと言うんだ?」

「商会の人間を使って国の帳簿を洗いざらいにして欲しいのと竜の財宝と城の宝の価格査定をお願いします」

 コービンの要望にユーノンは更に呆れた。

「お前本当に国を支配するつもりか?」

「とにかくやらないと私もこの商会も大変な事になりますよ!国が安定しないと商売どころではないでしょう?」

 コービンは必死に父を説得する。

「分かった、分かった。直ぐに人を遣すからお前は赤竜に人が来ると報告してこい。城に行って喰われたら冗談じゃないからな」

「ありがとうございます!」

 コービンは勢いよく会長室から出て行った。

「昔からおかしな奴だったがまさかここまでとは……」

 コービンが出て行った扉を見てユーノンは大きな溜息を吐いた。


「と言う訳で、今日から商会の人間が城を訪れ財政の健全化をするべく帳簿整理をします」

「わざわざ面倒な事をするのだな人間は」

「人間は弱いもので、お金が無いと生きていけないのです」

 アレクサンドラは何かに気付き遠くに目をやった。そして頬を緩ませた。

「どうやら来た様だな。お前と同じく礼儀を知っている様だ」

「なんと!それでは私は迎えに行きます」

 コービンは急いで玉座の間から出て正門に向かった。

 正門の前にはユーノンを先頭に多くの商会の人間が待っていた。

「父上が来たのですか!」

 父の姿を見たコービンは驚いた。

「当たり前だろ。国王に挨拶するのに部下を寄越すわけがないだろ」

「それはそうですが……」

「まずは私が赤竜様に謁見する。案内してくれ」

 コービンはユーノンを玉座の間に連れて行った。父と二人で王城を歩く事など無かったコービンは少し変な気持ちになった。

 扉が破壊された玉座の間に着くとユーノンは部屋の前で膝を付いた。

「この度はアレクサンドラ陛下にお目通しが叶い大変嬉しく思います。私はユーノン・ヘツラウェルと言い、ヘツラウェル商会の会長をしております」

 ユーノンはそれはそれは礼儀正しく挨拶をした。

「ほう、もしやこやつの父か」

「はい、日頃息子がお世話になっております。どうぞ息子をこき使ってやって下さい。それとその息子の要請により城内で帳簿整理をする事になりました。数日の間城内慌ただしくなりますがご容赦下さい」

「それくらい構わん」

「寛大なお心誠に感謝します。商会の人間が出入りする間アレクサンドラ陛下に少しでも快適に過ごして頂けるよう、こちらで料理人を用意しました。我が商会の自慢のシェフが腕によりをかけてお持て成しを致します」

「それは楽しみだな」

「それと陛下はお酒を好まれると聞いております。お近付きの印として商会秘蔵のワインを用意してまいりました。どうぞ料理と一緒にお楽しみ下さい」

「コービンと同じくお前も気が利くではないか。なら急ぎ料理の準備をせよ」

「仰せの通り。それでは失礼致します。直ぐに準備に取り掛かる様指示をして参ります」

 ユーノンは立ち上がり頭を下げて去って行った。コービンもそれに合わせて出て行こうとした。

「それでは私も仕事に戻ります。料理ができ次第直ぐにお伝えします」

「ああ、そうしてくれ」

 コービンもそそくさと去って行った。

「あやつの父も中々の人間だな。だがコービンの方が愉快だな」

 アレクサンドラは一人残された王座で不敵に笑った。

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