玉座制圧
アレクサンドラは迷う事無く歩いて行く。コービンは初めて来るはずの王城をズカズカと進むアレクサンドラが向かう先が理解できた。
――この順路、間違いアレクサンドラ様は玉座の間に向かっている。
「アレクサンドラ様。よく玉座の間の道をご存知で」
「ああ、やはりそうか。やたらと厳重に守っている気配がするのでな。どうせ奴もそこにいるだろう」
玉座へと続く扉の前には槍を構えた兵士がいた。その誰もが震える手で槍を握り締めている。
「邪魔だな」
アレクサンドラが何か手を上げて何かしようとしたのでコービンは慌てて兵士とアレクサンドラの間に割って入った。
「何をしている!このお方は人間の姿をしておられるが偉大なる赤竜様であられるぞ!貴様らも見たろ!いとも簡単に城壁を崩す強大なお力を!武器を捨て直ぐに退け!このお方のお手を煩わせるな!」
更にコービンは召喚竜も出して兵士を威嚇した。コービンの発言と召喚竜の出現により怯え切った兵士は武器を捨て我先にと逃げ出して行った。
その光景をアレクサンドラは見守っていた。
「甘い奴だ」
「申し訳ありません。見知った顔もいたもので」
「まあ、いい。行くぞ」
「はい」
しばらく歩くとアレクサンドラは遂に大きな扉の前に着いた。他の部屋とは違う、豪勢で堅牢な玉座の間の扉である。
アレクサンドラが扉に手を掛けると、
「ふ、この程度で我を止められると思うとは」
アレクサンドラが片手で扉を押すと巨大な扉は簡単に開き、その衝撃で扉は枠から外れて中へと弾け飛んでいった。
凄まじい音を立てて玉座の間へと吹き飛んで行った扉をコービンはただただ呆然と眺めた。
「入るぞ」
アレクサンドラはさも当然の様に玉座の間に入っていった。
中では兵士達が槍を構えてアレクサンドラを迎え撃とうとしている。その兵士達の後ろで王は縮こまりながら侵入者を見ていた。
「誰だ貴様!我がフーハイシティル十三世と知っての狼藉か!」
兵士の影でコソコソ隠れている国王がアレクサンドラに向かって叫んだ。その姿に王の威厳など微塵も感じられない。
「コービン、あそこで叫んでいるのがこの国の王なのか?」
「はい、フーハイシティル王国の現国王。フーハイシティル十三世陛下でございます」
「ふむ、この国の王とは兵の後ろで野良犬の様に震えながら吠える奴の事を言うのか」
アレクサンドラは国王を見て呆れた様な表情で言い放った。
「やれ!あの女を殺せ!我を侮辱した事を後悔させろ!」
アレクサンドラの言葉に国王は激怒し、兵士に命令するが誰も動けないでいる。最早王の権力など無いに等しかった。
そんな状況を見てアレクサンドラはコービンに問いかけた。
「なあ、コービン」
「は、はい!なんでしょう?」
「奴と我、一体どちらがこの国の王に相応しいと考える?」
「貴様何を言っている!我こそがこの国の王だ!」
コービンにとっては板挟みの質問であった。現国王と赤竜の目の前でどちらかを取らなければならない。そんな意地悪な問いをアレクサンドラはコービンに突きつけた。
しかしコービンの答えは決まっていた。即答である。
「はい!勿論アレクサンドラ様でございます!」
元気よく全くの迷いを感じさせぬ答えであった。コービン全力の保身である。ここで付き従う者を間違える程コービンは愚かではない。
「貴様も殺してやる!殺せ!殺せ!」
向こうでは国王が真っ赤な顔をして喚き散らしている。
「だそうだ。玉座からその薄汚れた尻をさっさと退かせ。今日から我がそこに座ってやる」
アレクサンドラはとんでもない事を言い放った。
アレクサンドラは兵士など気にも止めず玉座に向かって進んでいく。
「うわああぁぁぁぁ!!」
一人の限界を迎えた兵士がアレクサンドラに叫びながら槍を突き立てた。
しかし槍はアレクサンドラに届く事無く、肌に触れるか否かの所で音を立てて槍先からドロドロに溶けていった。
「ひぃ!!」
無様に溶けた槍を見て兵士は腰を抜かした。誰が見ても勝機などありはしなかった。
兵士達は国王を置き去りにし次々に逃げて行った。元々兵士達に忠誠心なんて物は持ち合わせていなかった。
「待て!逃げるな!我も連れて行け!」
国王の周りには誰も居なくなった。この国の国王としてはあまりに惨めな光景である。
「一人で逃げ出す事も出来ないとは情けない男だ」
アレクサンドラがそう呟くと召喚竜を出した。のしのしと召喚竜は国王に近付いて、国王の襟を咥えるとそのまま持ち上げた。
「何をする!放せ!こら!」
国王は空中で手足をバタバタさせながら足掻いているが召喚竜は放さない。
「外に捨ておけ」
アレクサンドラが命令すると召喚竜は国王を咥えたまま歩き出して玉座の間を出て行った。遠くから国王のギャーギャー文句を言う声が聞こえたが、それも少しづつ小さくなり遂に聞こえなくなった。
アレクサンドラは玉座に我が物顔で座った。その堂々とした佇まいはフーハイシティル国王より国王らしかった。
「中々いい眺めではないか」
満足気なアレクサンドラにコービンは恐る恐る質問した。
「アレクサンドラ様、これからどうなさるおつもりで?」
「この国の王は居なくなった。だから我が王になる」
「本当なのですか!」
「何を驚いている。お前も我こそが王に相応しいと言ったではないか」
確かにそう言った手前コービンは何も反論出来ない。そもそもその発言が無くともコービンが反論など出来るはずがないのだ。
「まさか本当になるとは!喜ばしい限りでございます!私コービン・ヘツラウェル、アレクサンドラ様にお仕えでき幸せでございます」
「そうだろう、我に心から尽くせよ」
「勿論でございます!この身朽ち果てるまでアレクサンドラ様にお仕えします!」
今日この日より王国はアレクサンドラが支配し、コービンはこの国で二番目に偉い役職に就いたのであった。