襲来
コービンは訴える時間すら与えられず城の地下牢にぶち込まれた。それもかなり手荒い扱いであり、まるで重罪人の様であった。
「私が一体何をしたと言うのですか!何で捕まらなければ……!」
コービンが身の潔白を叫ぶとカツカツと偉そうな足音を立てながら一人の男が牢屋の前に立った。それはヨーク宰相であった。
「私は全てを知っているぞコービン」
「宰相!知っているとは何を」
「お前が竜の財宝を手にして夜な夜な豪遊している事をな」
それは完全な誤解であった。コービンはアレクサンドラから貰った金貨で買い物はしていたがそれら全てをアレクサンドラの為に使った。
「いえ!それは!」
「口答えするな!」
宰相は牢屋越しに持っていた杖でコービンに殴った。杖で殴られたコービンの肩に激痛が走る。
「全くお前を信用した私が馬鹿であった。お前程度が財宝を持ち出せるなら最初から兵を派遣しておけばよかった」
「だから……それは……」
「うるさい!私が喋っている!」
宰相はまたコービンを杖で殴った。
「おや?珍しい指輪をしているな。それも竜の財宝だろう。どれ私が貰ってやる」
「いけません!これだけは!」
コービンは指輪隠す様に身を縮こませた。
「うるさい!早くよこせ!」
宰相は何度もコービンを殴り付けた。杖による打撃を何度も背中に受けたコービンは遂に力尽き、指輪を無理やり奪われてしまった。
「そこで大人しくしておけ。罪状は追って伝える」
宰相は息を切らせながらも上機嫌に去って行った。
暗くジメジメした牢屋には傷だらけのコービン一人だけが残された。
全身が痛む中コービンは考えた。
――あーついて行く人を間違えたか。でもこの国に生まれた時点で泥舟だったか……なら誰に仕えても同じかもしれないな。
それよりさっさと召喚竜を出して逃げ出せばよかった。説得しようとしたのが間違いだった。
私はいいが妻と娘はどうしてるだろう。二人も捕まってしまうのか。情けない父で申し訳ない。
眠い……そう言えば最近ちゃんと寝てなかった。体も痛くて起き上がれない……意識が遠のく……
次にコービンが目に覚ましたのは警報の鐘の音であった。
カーン!カーン!カーン!
地下牢まで響く鐘の音にコービンは飛び起きた。勢い良く飛び起きたせいで全身に激痛が走る。
「ぐっ!何事だ……いったい何が……」
コービンは外で何が起きているか知りたいが牢屋の中では何も分からない。フラフラになりながらも鉄檻の近くに身を寄せて何とか外の様子を確かめようとした。
ズドン!!ガラガラガラ!!
今度は何か建物を壊す音が聞こえた。その衝撃は地下まで響き、コービンは尻餅をつく程の揺れである。
遠くから悲鳴や絶叫が聞こえてくる。助けを呼ぶ声に泣き叫び命乞いをする声も聞こえる。何か恐ろしいものが城に侵入した様だ。
カツカツと遠くから足音が聞こえて来る。それはこの混乱の中で場違いな程ゆっくりと堂々とした足音だ。
「ここにいたのか」
足音の主はアレクサンドラであった。
「アレクサンドラ様!どうしてこの様な場所に!」
「約束の時間になっても来ず、外すなと言いつけた指輪を外す愚か者を少しばかり問い詰める為にな」
アレクサンドラの発言にコービンは背筋が凍った。コービンは直ぐにその場で土下座し謝罪した。
「申し訳ありません!アレクサンドラ様!私コービン!不徳の致すところでございます!」
「今の状況を見れば大体は想像はつくが何があったか申してみよ」
コービンは今日あった事を包み隠さず伝えた。帰ったところを捕らえられた事。財宝を私的に利用していると誤解された事。杖でめった打ちに合い指輪を奪われ気絶した事。
「全く世話の掛かる奴だ」
アレクサンドラはそう言うとコービンに指輪を渡した。指輪は宰相が持って行ったが何故かアレクサンドラの手にあった。指輪には何かの黒い燃えかすの様なものが付いていたがコービンは見ない事にした。
「次は無くすなよ?」
「は、はい!この命に代えても!」
「では行くとしよう」
「あの……アレクサンドラ様」
「何だ?」
「牢の鍵とか見ませんでした?」
「見てないな。全く人間は軟弱だな。その程度なら我が開けてやろう」
アレクサンドラは鉄檻を掴むとまるで髪を掻き分ける様に軽く曲げた。コービンは改めて目の前にいるお方が赤竜なのだと思い知った。
「あ、ありがとうございます」
「では行こう」
「そのえっと……どちらへ?」
「我がせっかく来たのに出迎え一人寄越さない、この城の主人の元だ」
アレクサンドラはそう言い切り堂々と歩き出した。