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天災

「アレクサンドラ様!見えてきました!敵軍です!」

 空を飛ぶコービンの前方には一万もの兵がいた。平原を埋め尽くす兵士は王都に向けて進軍している。

「ふむ、これだけ集まると中々に壮大だな」

 アレクサンドラの姿を確認したのか敵軍は動きを止めた。笛の音が響き渡ると武器を構えてアレクサンドラを迎え討とうと構えた。

 アレクサンドラは地上に降り立った。

 アレクサンドラは人の姿になりジッと兵士達を眺めている。コービンも遅れて地上に降り立ちアレクサンドラの側に駆け寄った。

 兵士達は武器を構えたまま立ち尽くしていたが奥から人をかけ分けてフーハイシティルが姿を現した。

「のこのこ出てきたな!この盗人め!我が国を好き勝手にしよって!しかも偉大なる王をトカゲもどきに咥えさせて城から放り出すとは万死に値する!お前の首を持ち帰り今日この日を持って王城に帰還する!」

 フーハイシティルはやいのやいの騒いでいるがアレクサンドラは全く気にしていない。それどころか――

「誰だこやつは」

 アレクサンドラはフーハイシティルの事を覚えいなかった。

「前国王のフーハイシティル十三世でございます」

「ああ、兵の後ろでビクビク野良犬の様に震えていた奴か。あの時はその惨めな顔が兵に隠れていて見なかったからな。通りで見覚えがないはずだ」

「そうでしたか、それは仕方ありません」

 コービンに迷いはない。前国王を前にしてもアレクサンドラに対して全力で胡麻を擦る。

「それでこの兵達を皆殺しにすればいいのか?」

「皆殺しにするとアレクサンドラ様のご活躍を国に持ち帰る人がいなくなります」

「なるほどな、それはそうだ」

「この場合はアレクサンドラ様の強大な力を見せ付け追い払うのが得策かと。全ての人間がアレクサンドラ様の恐ろしさを伝える生き証人になります」

「本当にお前は甘いな。敵軍にも情けを掛けるとは」

「根っからの商人でございまして。敵国に被害が出過ぎると商売にも支障をきたしますので」

「確かお前の父は商売人であったな」

「覚えておいででしたか」

「礼儀を弁えたよくできた男であったな」

「ありがとうございます。息子ながら誇らしいです」

「ワシを無視するな!」

 フーハイシティルと一万の軍を前にアレクサンドラとコービンが呑気にお喋りをしている事にフーハイシティルの顔は真っ赤になり声を荒げた。

「なんだ?無礼者。話に割って入るな」

「王を前に無視する貴様らの方が無礼だ!」

「王?何処の国の王なのだ?」

 アレクサンドラはわざとらしく辺りを見回した。

「フーハイシティル王国に決まっておるだろう!」

「そんな国にはもう無い。今は我が治めている。ならばお前が王たらしめる物は一体なんだ?」

「血筋だ!」

「下らん、自称王は我が国から早々に出てもらうぞ」

 アレクサンドラは再び竜の姿になった。コービンは巻き込まれてはいけないので慌てて召喚竜に乗り飛び立った。

「ひぃ!殺せ!奴を殺した奴は取り立ててやる!」

 大口を叩いたフーハイシティルは一目散に後方に下がっていった。その姿を見たアレクサンドラは呆れてしまった。

「玉座にも座れず、かと言って剣を取るわけでもない。情けない男だ」

 アレクサンドラは羽を広げてた。そして羽ばたいた。ただそれだけである。

 そうするとあたりに人を簡単に吹き飛ばす程の豪風が巻き起こった。風は凄まじい音を立て兵士達に襲いかかる。誰も立っていることさえ困難であり、兜も盾も簡単に吹き飛んでいった。

 アレクサンドラはまた羽ばたいた。

 すると次の豪風で兵士は倒れ込み情けない姿で地面を死に物狂いで掴んだ。掴めなかったものはなす術もなく後方へゴロゴロと転がっていく。誰も助ける事は出来ない。転がる兵士に当たった者も一緒になって転がっていく。

 これを戦争と呼ぶにはあまりにも一方的であっり、天災と呼ぶのが相応しかった。圧倒的な力の前に人間はいくら束になろうが無力であった。

 アレクサンドラは羽ばたくの止め、天に向かって大地を震わす咆哮を上げた。

 その轟音は辺り一帯を一瞬で震わし、兵士の心に恐怖を押し付けた。これで完全に兵士の心を折ってしまった。

 最前線にいた兵士達は次々に装備を捨て逃げ出していく。それを止める者は誰もいない。指揮官ですら我先にと逃げ出したのだ。

 コービンはその光景を見て改めてアレクサンドラに逆らわない事を誓った。

 逃げて行く兵を見てアレクサンドラは「帰るぞ」そう一言言い放った。

「は、はい!アレクサンドラのお力をこれでもかと実感しました!これは伝説でございます!この英雄譚はアレクサンドラ様の国で永遠に歌い継がれる事でしょう!」

「造作もない事よ。だが気が乗った、最後に奴等に見せ付けておこう」

 そう言うとアレクサンドラは空に向かって火を吹いた。それは火柱となり雲を突き抜け天を上っていく。

 その光景は遥か彼方から見る事ができ、この世には決して手を出してはいけない至高の存在がいる事を人間は思い知った。

 逃げて行く兵はこの光景を目に焼き付け、二度と赤竜に歯向かわないと心に誓った。

 

 アレクサンドラが王都に帰還すると国民は声を上げて喜んだ。

「アレクサンドラ様万歳!」「アレクサンドライト王国に栄光あれ!」「赤竜様よ永遠に!」

 国民はアレクサンドラをこの時初めて心の底から王と認めた。その誰もがこの国の永遠の繁栄を疑わなかった。

 

 

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