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軍事侵攻

コービンがいつもの様に大量の書類と問題に対応していると、大広間の扉が勢いよく開かれアイビーが息を切らせて走ってきた。

「緊急事態です!ゴーエッド王国とフーハイシティル王国の敗残兵が国境を超え侵攻してきました!その数およそ一万!」

 アイビーの報告に大広間にいた全ての人間が動揺した。

 赤竜から国を人間の手に取り戻す、願ってもない状況の様に思えるがこの場にいた人間はそうは思っていなかった。

 コービンが必死で国の立て直しを急いだおかげで確実に国民の生活は良くなっていたのだ。

 フーハイシティル国王がまた王座についた時、あの貧困に喘ぐ日々に戻るんじゃないかと想像してしまったのだ。

 今やこの国は誰もが認めるほど住みやすい国になっており、問題は山積みだが国民からの不満は出ていなかった。

 アイビーはコービンの前へ行き命令を待った。

 全ての人間の視線がコービンに注がれる。この問題を解決に導けるのはこの場においてコービンしかいないからだ。

 コービンは考えた。この危機的状況を打開する策を。

 ――騎士団は結成したが相手は一万の兵……まるで戦力が違う。そもそも私は軍事についてはからっきしだ。作戦の立案など出来るわけがない。やはりここはアレクサンドラ様に頼る他ないのか……

 コービンは立ち上がった。そして不安そうに見つめてくる周りの人間に向かって一言呟いた。

「アレクサンドラ様の下へ行ってきます」

 その一言で大広間から歓声が上がった。誰もが助かったと喜び、安堵の息を吐いた。

 ただアイビーは心配そうにコービンについて行った。

 コービンとアイビーはアレクサンドラの下へ小走りで向かっていく。

「大丈夫なのですか?」

 アイビーは不安そうにコービンに語りかけた。

「頼み事をしても喰われる様な事はありません。ただあのお方が簡単に首を縦に振るかはちょっと……ですがこの状況をどうにか出来るのはアレクサンドラ様の他に誰もいません」

「……そうですね。私は騎士を集めていつでも出立出来る準備をします」

「お願いします」

 アイビーはコービンと別れ自分の仕事に戻っていった。

 アレクサンドラはというと今日は中庭を散策していた。中庭は庭師によって綺麗に整備されていた。これもようやく庭師も雇えるくらいに財政を戻したコービンのおかげでもある。

「お寛ぎのところ失礼します」

 コービンは遠くからアレクサンドラに声掛けた。

「コービンか、ここに初めて来た時は荒れて見るに耐えない有様だったが、今は中々いい場所ではないか」

「お気に召した様で幸いでございます。アレクサンドラ様に喜んでもらえるよう腕のいい庭師を雇いました」

「このままサボらず手入れせよ」

「勿論でございます。庭師もアレクサンドラ様からお褒めの言葉を預かったと聞けば喜んで手入れするでしょう」

「それで?我に何の用だ?城の中がいつもより騒がしいが」

 アレクサンドラの問いにコービンは息を呑んだ。

「お気付きでしたか。騒々しくて申し訳ありません。と言うのも隣国のゴーエッド王国がこの国に軍事侵攻をしてきたと報告を受けました」

「ほう、人間は争いが好きだな」

「ええ、全くもってその通りでございます」

「それで?我が国を無断で侵攻してきた愚か者をお前はどうするのだ?」

「勿論、この国の全て物はアレクサンドラ様の物であり、それを強奪しようとする輩にはそれ相応の報いを受けるべきだと考えております」

「当然の事だな」

「そこで誠に申し上げにくいのですがまたアレクサンドラ様のお力をお借りする事は叶わないでしょうか?」

「なんだ?この前騎士団を創設したばかりであろう?」

「騎士団の総員は百名程度で、敵軍はおよそ一万の兵を引き連れていると」

「我はともかく、お前達では勝てないだろうな」

「はい、なのでどうかアレクサンドラ様の偉大なるお力で敵軍を追い払って頂けないでしょうか」

「足りんな」

 アレクサンドラの言葉にコービンの思考は一瞬停止した。言葉の意図が全く分からないからだ。

「えっと、足りないとは?」

「初めて我に会い財宝を借りようとした時は土産を持ってきた。魔物退治の時には思わぬ動機を考えて中々に我を楽しませたが今回は無いのか?」

「えっと……」

「人間を捕まえてきたら調理するのか?」

「いえ、それは流石にできかねます」

「それともまたつまらぬ王の矜持を説くのか?」

「いえ、アレクサンドラに説くなど恐れ多いこと私目には」

「なら他に言う事はないか?何か考え付いたらまたここに来い」

「お、お寛ぎのところ失礼しました」

 コービンはアレクサンドラに頭を下げて去っていった。

「さあ、どうやって我を満足させる?」

 アレクサンドラはこの状況を楽しんでいた。


 城の中に入りコービンはアレクサンドラから離れると必死に考えた。

 ――どうする?アイビーさんを勝てるはずのない戦に行かせる事になる。これまで必死に立て直してきた国もお終いだ。それは駄目だ。それとも降伏して敵軍を呼び込むか?それは無理だ。私は完全にアレクサンドラ様陣営の者だ、一族全員処刑は避けられない。ならば農民を雇うか?そんな金はこの国には無い。どうすればアレクサンドラ様に動いてもらえるのか。そもそも足りないとは何だ?また面白おかしい理由を付ければいいのか?魔物が美味しいなんてあれはギリギリの状況で出たものだ。いったいアレクサンドラ様が欲しているモノは何だ?地位も力も金もある。アレクサンドラが欲しいもの、足りないもの、持っていないもの……

 コービンは考えるが答えは出ない。それでも敵軍は着々とこの城を目指して進軍してきているだろう。

 コービンは何も解決策が思いつかないまま立ち尽くしていた。

 どれほど時間が経ったか分からない。

 心配したアイビーがコービンを迎えにきた。

「どうでした?アレクサンドラ様は出陣して下さるのですか?」

「残念ながら断られました」

 それだけ聞くとアイビーは動揺もせず次の行動に移ろうとした。

「分かりました。では今いる兵だけで遂行可能な作戦を立案します」

「そんな無茶ですよ。直ぐにアレクサンドラ様が動いてくれる動機を考えます。それまで……」

 コービンはアイビーを引き留めた。コービンの顔は追い詰められているのか顔色が悪く死人の様であった。

 そんなコービンの顔を見たアイビーはコービンの瞳を真っ直ぐ見て言った。

「私も頼って下さい。それにこの城で働く全員もです」

「ですが……」

「皆コービンさんが必死で働いているのを知っています。私だけじゃなく皆コービンさんを慕っているのです。一人で抱え込まないで下さい。ここは貴方だけの国じゃないんです」

 アイビーに諭されたコービンは少し冷静になっていた。

 そして一つの解決策を思いついた。

「分かりました。直ぐに大広間に行きます。そこで皆さんに協力を仰ぎます」

「何か思い付いたのですか?」

「はい、アレクサンドラ様がお持ちでないものを用意します」

 二人は大広間へ急いだ。

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