騎士団
「騎士団の結成?」
「はい、アレクサンドラ様にその許可をお願いしに参りました」
コービンは王座に座るアレクサンドラに先日の魔物討伐の問題を受け、騎士団の結成を提案した。
「我がいれば戦力など必要ないのでは?」
「騎士団は魔物の討伐の他に街の治安維持なども業務に入っており、酔っ払いの喧嘩をアレクサンドラ様に諌めてもらうなんてとんでもございません!」
「ははっ!それはそうだな。なら好きにせよ」
「ありがとうございます。それと騎士団の結成にあたってアレクサンドラ様に騎士団長の任命式が執り行われる事になります」
「そんなものが必要なのか?」
「はい、騎士団はアレクサンドラ様の物であり。アレクサンドラ様直々に任命する事に意味があります。そこでアレクサンドラ様に忠誠を誓うのです」
アレクサンドラはため息を吐き、面倒臭そうに答えた。
「人間とは誠に面倒くさいことを考えるな。まあいい、やってやろう」
「ありがとうございます」
「それでその騎士団長になる者に心当たりはあるのか?」
アレクサンドラの問いにコービンは言葉が詰まった。
「あるにはあるのですが……」
今まで見た事の無いコービンの反応にアレクサンドラは追求した。
「何だ?申してみよ」
「はい、私の妻のアイビー・ヘツラウェルが適任ではないかと……国内が政変により不安定な今は私に近しい者にすると話を通しやすいので……」
大した事の無い話にアレクサンドラは気が抜けた。
「ならそうすればいい」
「しかし、一族で要職を独占すると腐敗や汚職の温床になり得ますし」
「何だ?お前は我の国で好き勝手しよう言うのか?」
「滅相もありません!言わば一般的な話でございます!私はアレクサンドラ様に忠誠を誓った身でございます!私はアレクサンドラ様の不利益になるような事は一切致しません!」
コービンは必死に否定した。
「安心しろ。お前がそこらの下らない愚物に成り果てた時には我が直々に手を下してやる」
「その時にはお手柔らかにお願いします」
アレクサンドラの笑顔にコービンは精一杯の笑顔でお願いした。
「ふふ、覚えていたなら」
その日の夜、コービンは屋敷で妻であるアイビーに騎士団結成の話をした。
コービンの前に座ったアイビーは長い金髪を束ねており、女性ながら凛々しい顔つきをしていた。背筋を伸ばして座っている事でスラっとした長い手足がより強調されていた。
一般的な貴族の女性としたら服もシンプルな物を好み、宝石やアクセサリーなどで着飾ってもいない、たいへん珍しい女性であった。
「そういうわけで騎士団長になってくれませんか?勿論、断っても結構です。その時は他の人を探します」
コービンの誘いにアイビーは動揺した。凛々しい顔も崩れ困惑の表情を浮かべている。
「何故私なのですか?私より腕の立つ者はいくらでもいる筈でしょ?」
「アイビーさんが国に不信感を持ち、騎士団を辞めたのは知っています。騎士として悩んだアイビーさんだからこそ、強大な力を持つ騎士団を正しい道へと率いる事が出来る、そう思ったのです」
「私にそんな資格はありません」
「少しでいいんで考えてみて下さい、無理にとは言いません。アイビーさんの思いを尊重します」
アイビーは黙り思い巡らせた。これからの事をこれまでの事を。