会議
メイクーンは早足で会議室に向かっていた。その顔は強張っており、額からは一筋の汗が流れ事態の深刻さを物語っている。
その焦っている表情は王の威厳などなかった。
メイクーンは会議室に着くと勢いよく扉を開けた。
メイクーンが入室したのを見て大臣や部下達は一斉に立ち上がったがメイクーンはそれを止めて急いで椅子に座った。
そして席に座るや否や大声を出した。
「赤竜が国境近くに出没したのは本当か!」
メイクーンは先程執務室にいる時にそのような報告を受けた。国家の緊急事態を聞き急いで会議室に向かったのだ。
一人の男が立ち上がり報告をした。
「はい、赤竜が国境近くを飛行しているところを国境警備兵が目撃しました」
「それで赤竜はどうなった」
「現在も監視を続けておりますが今のところ国境を超えたとの報告は入っておりません」
報告を受けて一同は安堵した。自国にいない、それだけでも安心感は段違いである。
そんな中メイクーンの表情は険しいままである。
「赤竜の目的は何だ?威嚇飛行か?」
「それが全く分からないのが現状です。ただ同じ場所を何度も旋回しており、何かを探しているのではないかと」
赤竜の目的は誰も分からなかった。そもそも赤竜の生態も何も分かっていない。この行動が何かを意図したものかそれともただの気まぐれか、何一つ分からないのが現状である。
そんな停滞した空気の中、突如会議室の扉が開かれた。
「会議中失礼します!赤竜に動きがありました!」
入ってきたのは一人の兵士であった。一同兵士の方を一斉に向き声に耳を傾けた。
「赤竜は国境近くで魔物を狩り、捕獲したのち王都の方向へ飛んで行きました。現在赤竜の姿は確認できません!」
兵士の報告に会議室の緊張は解けた。皆、肩の力が抜けて大きく息を吐いた。
危うく赤竜との総力戦もあり得たこの事態が何事もなく終結したからだ。赤竜とやり合えばどれほどの被害が出るか想像もできない。この国にそんな余裕はないのだ。
赤竜ご去って行ったのは吉報だが新たな問題が浮上した。
一人の大臣が疲れた声で呟いた。
「赤竜が狩りをする度に我々は集まらないといけないのか?」
それ皮切りに次々に発言が飛び出す。
「行軍ならともかく赤竜の襲来となると全く前兆が無い。次は本当に攻めてくるかもしれませんぞ?」
「国境近くの行動は本来制限されるべきでは?」
「それは人間の理屈だ。赤竜に通じない」
「そもそも赤竜に国境という概念があるのか分からん」
会議室の人間が口々に己の考えを漏らしている。
赤竜が飛来した時の今後の対応は非常に難しい問題であった。
メイクーンは赤竜の話を切った。
「赤竜への対応は一度騎士団に持ち帰ってくれ。赤竜を視認できた事により立てられる対策もあるだろう。次にコービン・ヘツラウェルについて何か報告はあるか?」
すると一人の男が立ち上がり報告書を読み始めた。
「はい、今のところ調査結果は、コービン・ヘツラウェル。三十二歳。ヘツラウェル商会、会長の御子息であり、宰相秘書官として王城で勤務していました。妻と娘がおり、妻はフジュー男爵家の三女であります。貴族の娘と婚姻した事からコービン・ヘツラウェルは野心家であり出世欲の強い人物だと推測されます」
「その推測は合っているのか?」
メイクーンが疑問を呈した。
「はい、現在の王城ではコービン・ヘツラウェルが全ての業務を取り仕切っており、赤竜に次ぐ権力を有しています。更に恩赦による一年間の納税免除を布告し急速に国内からの支持を集めています。既に彼の地位は盤石なものになっております」
報告を受けて会議室はざわざわと騒ぎ始めた。
「そんな野心家が一国を支配するだけで満足するのか?」「赤竜を従わせている以上侵略戦争は容易な筈だ」「また戦争を起こすのか?」「納税の免除とはなんて大胆な奴だ」
こうしてまた何も解決しないノイガー王国の会議は続いていった。