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魔物討伐

慌ただしく国家運営をしているコービンの下へ一つの報告書が提出された。それをコービンは目を通した。

「魔物の被害報告書?」

「はい、通常は騎士団が村の周辺の魔物を狩っていたのですが、我が国は騎士団は編成されておらず野放しの状態が続いています。更にフーハイシティル王政の時代も予算削減により出動回数が大幅に減らされておりました」

 報告者を聞いたコービンは悩んだ。

「直ぐに対処したいのは山々ですが、今から騎士団の編成していては間に合わないですね」

「そうですよね」

「冒険者ギルドには依頼していないのですか?国からの依頼として」

「なんでもゴーエッド王国が今冒険者を大勢集めているとかで国内の冒険者は殆どいなくなっています」

「何でこんな時に限って……」

「特にビッグボアによる農作物の被害が深刻で収穫前の野菜を食い荒らされており、徴税を行わなくても生活は苦しいままだと」

 コービンは頭を抱えた。報告者を目の前にコービンは心の中で自問自答を始めた。

 ――どうする?このまま魔物の被害が増え続ければ食料問題や治安の悪化は避けられない。そうなると国民の不満は私に向くはずだ。その結果、最悪吊し上げられるのでは?アレクサンドラ様は王に飽きたら何処かに飛んで行けるが私はそうでは無い。誰が責任を取らされるかと言ったら間違いなく私だ。どうする?でも騎士団はいないし……この国の戦力になるのは……

 コービンは一つだけ解決策を思い付いた。それは自身の身の危険と隣り合わせの解決策であった。しかし事態を放っておいても身の危険が迫るのは変わりない。

「アレクサンドラ様に話してきます」

 そうコービンが告げ思い詰めた表情をして大広間から出てって行った。コービンが去ると大広間は騒めき始めた。

「そんなこと出来るのか?」「コービン様はアレクサンドラ様と親友と噂が」「本当なのか?」「だが話に行くと言っていたぞ」

 あらぬ噂が大広間をとんでもない早さで駆け巡る。

 コービンは頭を抱えながら書庫へと向かって行く。自分で提案しておいて今更後悔していた。

 ――アレクサンドラ様は簡単に魔物の討伐出来るはず。それも半日も掛からず。それで魔物の問題は一時的に解消される。だがどう頼めばやってくれるのだろうか。あのお方の行動原理が全く分からない。何百年も宝物殿に引き篭もっていた筈なのに突然王になる。私を顧みない行動をするが助けてはくれる

 そうやってぐるぐると考えている間にコービンは書庫の前に着いた。コービンは意を決して書庫の扉を叩いた。

「入れ」

 中からアレクサンドラの声がした。コービンは静かに扉を開けて中に入った。

 中ではアレクサンドラがソファに足を伸ばしながら座り読書をしていた。

「御寛ぎのところ失礼します」

「コービンか何の用だ?」

 アレクサンドラは本から目を離さない。

「この度はアレクサンドラ様に大変勝手ながら国民からの嘆願をお耳に入れたく参上しました」

「ほう?我にか?」

「はい、この国でアレクサンドラ様にしか出来ない事でございます」

 アレクサンドラは本から顔を上げてニヤリと笑った。コービンは嫌な予感がしたがそれでも逃げる訳にはいかなかった。

「申してみろ」

「はい、近隣の村では今魔物による農作物の被害が増えており、多くの農民が困窮していると嘆願書が届けられました。今までは騎士団が討伐に赴いていたのですが前国王フーハイシティル十三世が兵を引き連れ亡命をしたため、それも叶いません」

「それで我が出向けと?」

「お手を煩わせる様で誠に申し訳ないのですが、どうかアレクサンドラ様のお力を国民のために奮って頂くわけにはいかないでしょうか?」

「何故そんな事をせねばならん?」

 アレクサンドラは冷たい声でコービンのお願いを突き放した。

「この国は普く全ての物がアレクサンドラ様の所有物であり、赤子一人とってもアレクサンドラ様の庇護により生きております。今この国で国民を守れるのは我らが王!アレクサンドラ様、ただ一人だけなのです。我々脆弱な人間にはアレクサンドラ様の他に頼れるお方が存在しないのです」

「なるほどな。王たる者、それを守護する責務があると」

「前国王、フーハイシティル十三世はそれ行いませんでした。どうかアレクサンドラ様には奴とは違うのだと!アレクサンドライト王国にこのお方あり!と力を奮っては頂けないでしょうか?」

 コービンは頭を下げてアレクサンドラに誠心誠意お願いをした。

 少しの間沈黙が訪れた。口を開いたのはアレクサンドラである。

「お前の考えは理解した。このままではあの愚物と我が同列になってしまう事も」

「それでは!」

 コービンは顔を上げた。その顔は希望に溢れていた。

 ――助かった!これで問題は解決した!

「ただもう一押ししてみよ。それで考えてやる」

「え、あ」

 アレクサンドラは更にコービンを追い込んだ。希望に溢れたコービンの表情は一瞬で曇った。

「なんだ?何も答えんのか?」

 アレクサンドラは意地悪そうにコービンに聞いてくる。その顔はニヤニヤと笑っており、明らかにコービンを追い込んで楽しんでいた。

 コービンは頭を回転させてどうにかアレクサンドラが気にいる様な答えを考えた。あまり時間を掛けられない。そしてコービンが捻り出した答えは……

「討伐対象のビッグボアは焼くと美味いです!」

「はあ?」

 アレクサンドラは気の抜けた声を出してしまった。

「山の木の実ではなく、人が育てた農作物を食べたビッグボアは独特の臭みが消え非常に美味と聞きます!今日の晩餐はビッグボアの肉尽くしなど如何でしょうか?」

 アレクサンドラはコービンを見て黙ってしまった。コービンも何と言えばいいのか分からず黙っている。

「……」

「……」

 二人が黙り、コービンにとって地獄の様な沈黙が続いていたがアレクサンドラが急に笑い出した。

「はっははは!言うに事欠いて美味いから討伐しろとは!散々王の矜持を語って次はそれか!やはりお前は愉快な奴だ!いいだろうその美味いビッグボアとやらを獲ってきてやろう」

 アレクサンドラは大笑いをしている。

「ありがとうございます」

「では行くぞ。早くしないと晩餐に間に合わなくなるからな」

 アレクサンドラはソファから立ち上がると書庫が出て行った。

「はい!お供します!アレクサンドラ様の勇姿をこの目に焼き付け後世まで語り継ぎます!」

 アレクサンドラの後を追いコービンがついて行く。

「アレクサンドラ様がお通りになります!道を開けて下さい!」

 コービンが叫びと人々は廊下の壁に背中を付けてジッとアレクサンドラが通り過ぎるのを待った。

 アレクサンドラは正門に出ると竜の姿になり、飛び立った。コービンも召喚竜を出しアレクサンドラの後を追った。

 赤竜が王都から飛び立つ姿は多くの市民が呆然と眺めていた。

 数時間後、王都の上空にビッグボアを掴んだ竜が城に向かって機嫌が良さそうに飛んで行った。

 

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