帳簿整理
帳簿整理は多くの人員を費やした。
貴族達の汚職による不正流用、改竄、隠蔽、そんな穴だらけの帳簿を整理するには多くの時間が必要だった。
更に隠された多額の負債も発見され、この国の本当の財政状況を知るのに時間が掛かった。
城内の価値のある物は大広間に次々に集められ鑑定人が値段をつけていく。
財政はボロボロであったが王族は散財をしており、城内から宝石、調度品、ドレス、コート、アクセサリー、絨毯、飾りの付いた実用性のない武器の数々が発見された。
商人達も呆れるほどの数であり、多額の税金を納めて生活苦を強いられていた人間は怒りに震えた。
コービンが帳簿整理と資産鑑定を急いだ理由は二つある。一つは王城で人を雇う為、これはコービンが一人では仕事が回らない為必ず必要な事であった。
次にコービンは衝撃的な宣言をした。
「アレクサンドラ陛下が国王に即位した事により恩赦として一年間の税金の徴収を行わない」
コービンは国内で大々的に宣言し国民の関心を集めた。
そもそも徴税官もいなければ税金も決めていないので徴税は出来ず、そんな事をわざわざ言う必要はないのだが宣言する事が大切である。税を徴収しないのはあくまでアレクサンドラによる恩赦であると。
これが二つ目の理由、コービンは債務整理する事により一年間徴税しないでも人を雇える様にしたのだ。
この一年間がコービンにとっての勝負であった。一年間で国家が正常に運営出来るように人を雇い、法律を決めなければならない。
数日間に及ぶ帳簿整理を終えた商会は皆王城から引き上げていった。
帰り際にコービンはユーノンに報酬を支払った。報酬を受け取るとユーノンはコービンに質問した。
「これからお前はどうするつもりだ?」
「まずはアレクサンドラ様のお世話が出来る人を雇います。父上の料理人を三ヶ月お借り出来ませんか?」
「高くつくぞ?」
「構いません。それと侍女と職人の手配をお願いします。城の中は荒れたままので見掛けだけでも戻さなければ。それに事務員も雇わないと」
コービンは次々に要求をしていく。
「分かった。給与はどうする?」
「通常の二倍は払います」
「払い過ぎでは?」
「そうでもしないと集まらないでしょう?それに王城にはもう金の掛かる貴族は居ません。それくらいの余裕はあります」
「まあ、やるだけやってみろ。駄目なら私は国を出てそこで商売するだけだ」
ユーノンは去って行った。帰り際には多くの職員がコービンに労いの言葉を掛けた。
「坊ちゃん頑張って下さい」「また何か仕事があればお申し付け下さい」「お体に気をつけて」
それぞれがコービンを心配し励ましていった。コービンは一人一人に頭を下げて感謝の言葉を送った。
コービンはアレクサンドラの下へ行くとこれからの予定を提案した。
「帳簿整理も終わり本格的に国家運営に移ろうと思います」
「終わってしまったか。あやつの料理には中々に美味かったのだが」
アレクサンドラは少し残念そうな表情をした。そこでコービンはすかさず料理人を雇った事を伝えた。
「それはご安心を。こちらでまた雇う事になりましたので引き続きお料理を堪能できます」
「相変わらず準備がいいな」
「ありがとうございます。それで城内の修繕と掃除の為、人を雇おうと考えております。アレクサンドラ様のお部屋がいつまでも扉が無いのは心苦しいので」
「ふむ、それで?」
「その後は来年の徴税に向けて法整備をしようかと」
「好きにしろ。我はしばらく書庫にいる」
「承知しました。読書の邪魔にならない様努めます」
後日、ユーノンが募集した人員が城に集まった。
高給に釣られて集まった者達だがやはり赤竜を恐れていた。
コービンはアレクサンドラと関わるのは自分だけだと説得し、書庫に近付かなければ問題ないと安心させた。
城の壊された城壁や扉、焼けた壁等修復していった。
城の整備はひと段落したがコービンの仕事は終わらない。料理人の貸し出し期間が終わる前に新たな料理人を雇わなければならない。ここを疎かにすると文字通りコービンの首が飛ぶ可能性がある。
他にも街の公共事業も再開しなければいけないのでその為の人員も必要となる。
それら全てをコービンがまとめ上げて、更にアレクサンドラの相手もしなければならない。とにかくコービンは忙しかった。
多くの人と会議して書類を用意しなければらない。外からの訪問客の相手も必要になってくる。
苦肉の策としてコービンは城の入り口から入って直ぐの大広間に作業机を置き、そこで全ての仕事をする事にした。
事務員も大勢雇い、大広間はかつて貴族達が宴を行っていた絢爛さとは程遠い役場の様な様相になっていった。
連日コービンの机の前には列ができ、コービンは書類と格闘する毎日を送った。