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また小説を書こうと思います

作者: 神崎メルシ

 内陸方向には雪山が連なる、少し寒い小さな港町(パシスラ)にレール・グラディエスという、ダークブラウンの髪を持つ十歳の青年が住んでいました。彼は肩書は持たないけど色々な魔術を扱える母親の影響を受け、魔術師を目指して自由気ままに日々を送っています。ですが、パシスラで起こる事件を受けて、彼の生活や心境は一変してしまいます……。

 果たして、レールは立派な魔術師になれるのでしょうか!?

第一話 星空から来た少女

「昔々あるところに、十六人の偉大な魔術師がいました。彼らはそれぞれが生まれ育った大地で独自の強力な魔術を司っていました。しかし、仲はあまり良いとは言えず、互いに反目し合いながら、それぞれの地を統治していました。そんな中のある日、世界の中心に悪夢のような存在が現れ、多くの命と街を奪い去ったのです。その脅威に立ち向かうため、十六人の魔術師たちは協力し、自らが持つ協力な魔術を扱い、力を合わせてその存在を封じ込めました。それ以降、世界には平和が訪れ、今でもその平和が続いているのでした。めでたしめでたし」

 黒髪のウルフヘアが特徴の女性、シア・グラディエスは柔らかな声で語りながら、窓の外に降りしきる雪を眺めていた。月明かりが部屋を包み込み、静かな寝室の中で、彼女は二人の子どもたちに夜の物語を聞かせていた。

「そうなんだ! それで、その魔術師たちの力ってどんなものだったの?」

 茶色みがかった黒髪と透き通った青い瞳を持つ十歳の少年、レール・グラディエスが目を輝かせて質問する。隣では、長いブロンドの髪と金色の瞳を持つ七歳の妹、ユーリエが眠たげに兄の腕にしがみついていた。

「それはとても恐ろしく、強力な力だったそうよ。中には世界を滅ぼすほどのものもあったらしいわ。」

 シアは不気味に指を動かしながら、少し怖がらせるように語り続ける。それを聞いてレールの好奇心は更に高まり質問を続けた。

「そんなに強い人たちが束にならないと勝てなかった相手って、どんなものだったんだろう......?」

「それは……知らなくていい存在よ。さて、もう夜も遅いから、おやすみなさい。」

「教えてくれないの?」

 レールの問いには聞く耳も持たずシアは急に話を打ち切り、指を鳴らして部屋のランプを魔術を用いて消すと、静かに部屋を後にした。その直後、寝室のドアの向こうから聞き取れない呪文のような声が響き、レールは頭がずしんと重くなり、深い眠りに落ちていった。

________________________________________

 数時間後、レールはユーリエに揺り起こされた。

「お兄ちゃん! 外から声がするの!」

 半分眠ったままの意識で聞き返す。

「こんな夜中に? 雪が降ってるのに、誰も外にはいないだろう。」

 しかし、ユーリエの真剣な表情に根負けしたレールは、上着と厚手のズボンを着込み、二人で物音を立てないよう慎重に外へ出た。

 外は粉雪が舞い、地面には一面の銀世界が広がっていた。視界の先に見える果てしなく広い海の上に光る満月が雲の合間から顔を出し、水面を反射し作り出す一本の光の筋は、まるで天国へ続く階段のようだった。

「どこら辺から聞こえたの?」

レールが問いに答えるべく、ユーリエは耳に手を当て再び周囲の音に集中するためまぶたを閉じる。風が吹き荒れる音、海岸の砂浜で波打つ音、何かしらの小動物が雪の中走る音、雪が落ちる音。それら全てをかき分けた先で一つ、月の方向から一瞬、轟音が鳴り響くのを感じた。『何かが来る——!』すかさず、ユーリエは月を指さしながら目を見開きレールの背後に隠れて抱きついたまま、怯えながらこう指示を出す。

「お兄ちゃん、何かがすごい勢いでこっちに向かってきてる......!」

「分かった。それって人なのか?」

「うん、そうみたい。」

 レールは片膝を地面につき、構えるように両手を伸ばした。彼の右手から青白い魔力が放たれ、渦を巻くように月に向かって広がる。稲妻を伴う風が雪を巻き込む、筒状の突風が果てしない程遠くまで発生した。

「お兄ちゃん、すごーい!」

 ユーリエは歓声を上げるが、レールは一切集中を切らさず、魔術を展開し続けた。そのとき、遠くから轟音が近づいてきた。

「これは......!」

木の陰から二人を偵察していた男はこちらへ迫る物体を目視して悟った。

 ——レールのそれだけでは、明らかにこちらへ向かってきている物体を止めるには出力不足だ。それに、これが直撃すれば町が半壊するほどの衝撃が起こる。とはいえ、これ以上レールに出力を上げさせれば魔術結骨(まじゅつけっこつ)の暴走を起こすことになりかねない。だから——

「レール! 月方向に吹く風はゼロでいい。だから、周囲の雪を物体の進路にもっと集めることだけを考えろ! あとは俺がやる!」と男は叫んだ。その声の正体は、レールの父、シーヴェルト・グラディエスだった。

レールが振り返る間もなく、レールの父、シーヴェルト・グラディエスが剣を抜き、飛来する物体に向かって飛び立った。レールも父が真っ先に先陣を切る異様な光景に、緊急事態だと悟り、指示に従い魔術で雪を中に集め続け父の援護を行う。寒さと己の限界に近い規模の魔術を展開し続けた影響からか、レールの手の甲は激しく痛む。それでも止めることなく、限界まで魔力を振り絞る彼の隣で、ユーリエがそっと手を重ねた。

「お兄ちゃん、頑張って......!」

 その言葉に勇気づけられ、レールは最後まで力を緩めることなく物体を迎え撃った。


 ギンッ——と鈍く金属がぶつかる音がし、続けてザンッと水しぶきが上がる音が響いた。

「みんな、大丈夫かな......?」

 ユーリエは心配そうに呟くと、海の底から藻を被った男が、長い青く黒い髪の少女を抱えて浮上してきた。

「無事でよかった」

「レールとお父さん、その子を助けてくれてありがとう!」

 二人は安堵のため息を付きながら言うと続けて、「でも、寒くない?」とレールは尋ねた。

「幸か不幸か俺は寒いのにはなれてるんでな、大丈夫だ。それより、レール、ユーリエ、よくやった! お前たちのお陰で誰かは分からんが助けることができたぞ」

 藻を振り落として顔を出したシーヴェルト・グラディエス、茶色い短髪でガタイの良い二人の父は満面の笑みを浮かべながら二人を褒め称えた。

「よかった......」

 ユーリエは嬉しそうに泣きながら呟き、全身の力が抜けるようにレールにもたれ掛かる。

「レール、疲れてないか?」

「全然平気だよ!」

「それじゃあ、お前はユーリエを家まで担いでくれ」

「は~い」

 レールもユーリエと同様に今にも膝から崩れ落ちそうなほどに体力を消耗していたが、最後の力を振り絞って妹を連れて自宅へ帰るのだった。

 レールとシーヴェルトは家に到着すると赤レンガの暖炉に火を付け、少女を見た。顔の所々に氷の結晶が付着しており、悪夢でも見ているのだろうか、恐怖にひきつった顔をしている。レールと同じくらいの背丈で少し胸に膨らみがあり、長いまつ毛が大人びた印象を与えている。

「でも、なんでこの子がいきなり空から降ってきたんだろう」

「さあな? 脈はまだあるようだし、起きてくれれば教えてくれるだろう」

 父と話していると、「その子はだーれ?」とニッコリと尋ねながらシアがレール達の後ろからやってきた。

「おお、シアも起きてたのか。俺も知らん」

「えー、知らない子を連れてきたの? 怪しい」

 目を補足しながらシアは少女を睨む。

「まあ言えてるな。なんせ空から降ってきたんだからな」

 シーヴェルトは外にも聞こえる程の大笑いをしながら言う。

「空から降ってきたの!?」

 目を丸くしてシアは問うた。

「うん。ユーリエが教えてくれたから助かったけど、そうじゃなかったら今頃大変な目に遭ってたかもしれないよ」

 レールがそう言うと自分だけ何もできなかったため疎外感を感じたのか、「そうなの!? 私も呼んでくれればすぐ助けにいったのに......!」と頬を丸くしながら拗ねた様子で応えた。

 家族は夜明けまで、救った少女のことを話し合いながら穏やかな時間を過ごした。

 物語の始まりを読んで下さりありがとうございます。大方の物語の構成は考えているのですが、如何せん今のままでは風呂敷を広げすぎてしまい無事に物語を終わらせることができるのか心配なところではあります。そのため、本編の投稿が始まるのは当分先になるとは思いますが、お待ち下さると幸いです。

 以上で今回のところはおしまいとさせていただきます。ではまた!

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