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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
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98.山並みは燃えて1

【魔暦593年07月03日20時05分】


 カウエシロイ教室の三人しかいない『代弁教師』

 異人協会の魔王討伐に選ばれた人材、『勇者』

 そして、年齢が固定される呪いを受けた『幼女』


 一つ持てば十分キャラが立つような肩書きを、ケイウィ・クルカは当然のように所有していた。彼女はその全てを隠すことなく全面に表に出し、有効活用する。


 今回使用したのは彼女の持つ力の一つ。権力の行使である。



 僕が幼馴染と親友の間に生まれた娘だからか、幼女はとても協力的だった。ケイウィは僕に、その力の一端を見せてくれた。

 秘匿された死体を見せてくれる、とのことだ。


 警備隊から移された、死体の安置所。その場所が、元警備隊のラーシーの住居という時点で、カウエシロイ教室の力の強さがよくわかる。

 葬儀を行うまでに自宅で遺体安置することは、日本でもよくあることだった。しかし、その家に全く関係のない別の死体を、しかも二人分追加で安置するのは訳が違う。



 異質で歪。



 数時間ぶりに戻ってきた僕は、ラーシーの家前の一本道で背筋を凍らせていた。

 


ーーあのラス隊長が、ここまでの愚行を許すのか?

ーーカウエシロイ教室には逆らえない?

ーーだから、なんなんだよカウエシロイって奴は



 怖い。異質な組織の有り様に、殺人事件とは別の意味で怖い。こういうことにも、僕がよく言う『未知とは恐怖』が該当するだろう。




「んー、安心して、カウエシロイ教室はそんなにやばい所じゃないから。変人の集まりではあるけれど、活動内容は至って普通だもの」

「唯の勉強塾が、殺人事件に何の用があるんですか」

「生徒のクナシス・ドミトロワには身寄りがないだから。カウエシロイ教室が見てあげたい、ってのはあったんだろうけどね」



 ケイウィは、真面目な表情でこう続けた。



「カウエシロイ先生が死体を見たいっていってたんだよ。モーちゃんと同じだね。その彼だか彼女だかには恩があるから、その願いは叶えてあげたいよね」



 随分と変な言い回しだ。

 カウエシロイ先生とやらの性別を知らないかのような言い草。姿を世間に表さない、謎の異人という情報だけを知っている僕からしたら、感覚は近い。

 でも、唯一カウエシロイに会えるのが、代弁教師なんじゃないのか。そのうちの一人であるケイウィは、実際に今も、カウエシロイの言葉を代弁しているようだし。



「んー、違うよモーちゃん。私も会ったことはないんだよね。カウエシロイ先生は、そのミステリさも売りなんだわ。全く、誰なんだろうねー」



 ケイウィの手がラーシーの住居の扉にかかる。午前中の時と同じく、鍵はかかっていなかった。彼女は会話をそこそこに、扉を乱暴に開いた。



「いらっしゃい」



ーーあんたの家じゃないだろ

ーーというか、モーちゃんと同じ?


 カウエシロイもまた、死体を見たがっていた?僕と同じと言うことは、死体から表情を読み取ろうとしていた、と言うことか?

 いや、見透かしたような幼女だが、流石にそこまでは分かっていないだろう。僕と同じく『死体に固執している』程度の認識のはずだ。


 立ち止まる僕に、足元の幼女は首を傾げた。

 



「んー、どうしたのモーちゃん。目的地終点だよ。イアム・タラーク、クナシス・ドミトロワ、ラーシーの三人は、この先にいる。他の代弁教師が来る前に、ちゃっと確認したいことは確認してくれるかにゃ」



 彼女はそう言って、そのまま土足で廊下を歩く。僕はついていくしかなかった。


***

【魔暦593年07月03日19時30分】


 ラーシーの正体が、雪山山荘の招待客である『如月ラン』であることは明白だ。

 どれだけ転生しても、年齢が変わったとしても、死後の表情は変わらなかった。如月ランも、ラーシーも、驚愕に満ちた、恨めしい表情だった。



 死体と対話を行うことで、殺人鬼の情報を得ようとする、というのが本来の目的だった。結果として、殺人鬼よりも死体の解像度が上がるばかり。


 対話することで、その物の前世を言い当てることができる。これは、異人特有の能力と言ってもいいかもしれない。僕のような、死体を運んだという強いトラウマを前世で持った人間ならば、その対象は死体になる。



 空調を魔道具で調整しているのか、やたらと寒い。それとも、目の前の光景に寒気を感じているのか。



 三人の死体は、川の字で寝る家族のように並べられていた。


 右からイアム・タラーク、ラーシー。一番左にいる見覚えのない男が、クナシス・ドミトロワだろう。

 死者に対する考え方が、日本とは違うのだろうか。彼ら三人は、変わらず心臓に包丁を突き立てられたままだった。

  イアム・タラークに至っては、死後2日は経過している。それなのに、彼女の死体は、僕が目撃した時と全く変わらなかった。



 魔法が効かない異人の特性は、死後に適用されないのかもしれない。状態保存の魔法がかかっているとしか思えなかった。


 それとも、魔王討伐戦線の支持かもしれない。異人の専門家である彼らが到着するまで、現状維持を命じられているとか。


「あの、この死体を見てどう思いますか?」

「んー、死んでるねー。間違いなく」

「あ、はい」



 異物協会『勇者』担当もまた、魔王ーーつまり、異人の専門家であると思ったが…。ケイウィは「んー?」と僕の質問の意図を測りかねているようだった。


 まあいい。この幼女については後回しだ。


「ケイウィさん、ちょっと後ろ向いておいてもらえますか」

「良いけれど。どうしたの」

「ラーシーは友達だったんで。最後に顔をちゃんと見てあげたいんです」



 と、咄嗟に嘘をついた。ラーシーの死体は数時間前に見尽くしたので、用事はないのだけれど。

 そんな事情を知らないケイウィは、「良い趣味してるねー」と軽口を叩いので、僕は無視した。

 僕の目線は、最初の被害者イアム・タラークに向けられていた。明らかに外から持ってきた白いシーツの上に、彼女の遺体は置かれていた。


 僕はケイウィが後ろを向いたのを確認して、彼女の死体に馬乗りした。上から、顔を直接覗き込むような形で。


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