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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
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95.七人目の異人4

【魔暦593年07月03日19時15分】


 当初の僕たちの計画は、『カウエシロイ教室に取り入る』だった。そのために下っ端から仲良くなり、代弁教師まで辿り着こうと思っていたが、見事に失敗した。

 注目を浴びるということは僕が恥をかいただけだし、代弁教師であるアンダーソンは行方をくらました。

 

 本日のカウエシロイ教室は終了している。これ以上この教室にいても仕方がない。僕たちは雑談もそこそこに教室を後にした。

 スカーは他にも、操作の人員として親友がいる。デルタはそちらと合流をするらしい。




 さて、ここで僕らが現在いる、ヘルト村の教育機関について触れておこう。僕とルミが青春を謳歌しているこの舞台は、日本でいう学校とは形状が異なる。

 所詮は田舎の学校だ。学年毎に部屋が分けられていて、それを長々と廊下で繋げている。二階など存在しない。小学校、中学校、高校などで分けられているわけではないので、全学年が同じエリアに集結することになる。

 体育館や音楽室など特殊な部屋はない。移動授業なんてものはないので、使われていないだけであるかもしれないけれど。



 つまり、僕はほとんど一部屋しか利用したことがない。職員室なるものがさらに北側にあるのは知っているが、入ったこともない。

 


「さて、どうしたものかな」



 と、スカーは目を細めながら天井を見る。



「どうするも何も、死体を探すのよ。僕がスカーと手を組んだ理由を忘れたの」

「忘れてないけれど…。死体を探すことに拘りすぎていないか。殺人鬼を捕まえればそれで終わりじゃないか、君。ここまで来たら、七人目の異人を探す方が早いだろう」

「うーん、まあ、そうだけど」



ーーあまり視野を狭めたくないんだよなぁ



 僕は口にはしないけれど、心の中でつぶやいた。

 そりゃ、殺人鬼を捕まえられるに越したことはない。次の被害者がいつ出るかわからないし、僕とスカーが明日生きている保証はない。

 だけど、順番は大切だ。


 消去法で犯人を決めるのは危険だ。それは、多数決で犯人を決めるのと同じようなものだ。



 異人に魔法の残滓は残らない。証拠を見つけ出すのも苦労する。


 だから、理想は『雪山山荘殺人事件の犯人を当てる』と『異人の前世を自白させる』を同時に達成させることだ。

 この二つが揃えば、殺人鬼は白をきるしかない。嘘をつくしかない。前世のアリバイを証明するしかなくなる。


 そうすれば僕らの勝利だ。

 異人は前世を忘れることができない。これは、魔法が効かないのと同じ異人の特性だ。前世に関して言えば、嘘をつくことも白をきることもできない。

 こちらには、佐藤ミノル、入江マキ、立花ナオキの三人がいる。全員の証言を掻い潜ることは難しい。


 僕は先ほどいた教室の正面にある教室を開ける。ガラリと音を立てて開いた部屋の中には、明かりすらついていない。人も、死体もない。

 

 村民外出禁止令が出てる現状、通常の授業は行われない。教育機関はカウエシロイ教室の管轄下だ。だからこそ、死体は教室のどこかにあると思っていたのだけれど。

 といっても、今見た教室で二つだ。まだまだ調べる場所は無数にある。諦めるにはまだ早い。



 僕は次の部屋に向かおうと一歩踏み出すが、スカーに手を握られる。かくん、と後ろに倒れそうになった。



「な、なによ」

「モニ、今日は解散して明日また集まろう。夜も遅いし、ここまで人気がないと危険だ」

「人気がないからこそ、探索日和なんだけど」

「明日もロックダウン状態だから人は少ないよ。それに、カウエシロイの動向が読めない今、下手に動かない方がいい」



 今までは、デルタがアンダーソンの監視をしていたので、カウエシロイ教室の動きは読めていた、とのことだ。

 さすが、前もって参入していただけある。カウエシロイ教室への警戒度も、慎重さも僕の数段上だ。



「一つわからないことがあるんだけれど、カウエシロイ教室が何か悪いことしたの?お父さんも、ラス隊長も、やたらここを警戒しているけど」



 異人の常識を植え付け、魔王を育てる教育機関と捉えることもできる。しかし、それは長い目で見た話だ。現在起きている殺人事件と関連性があるわけではない。

 警戒はしても、協力ができないわけではない。回りくどいことをせずに直接話してみるのも良いだろう。



 だが、僕の考えは一瞬で一蹴された。



「創設者のカウエシロイは異人だ」

「うん。こんなわけのわからないことをやる奴なんて、異人でしかないでしょう」

「七人目の異人だ」

「…」



ーーまあ、そうなるわな



 僕がうっすらと考えていた、だけれど口にしないことをスカーは言った。

 七人目の異人。つまり、ヘルト村の殺人鬼であると言いたいのだ。



 そうなると、カウエシロイ教室の在り方にも納得がいく。異人の常識を植え付けて国家転覆を目論んでいるのではない。『カウエシロイ教室を怪しい』と思い込んで近づく、僕たちのような異人を集めているのだ。



 宛ら、異人ホイホイだ。現に、二人目の死体であるクナシス・ドミトロワ、スカー、僕の三人がカウエシロイ教室に近づいている。僕繋がりで、オルも釣れるだろう。

 僕が知らないだけで、ラーシーもイアム・タラークも関わっていたかもしれない。

 そうして集まった異人を、殺害した。そのための教室。殺人事件の続きを異世界で行うための装置というわけだ。



「だから、カウエシロイ本人は姿を現さない。代弁教師という役職を用意して、裏で殺人を犯していた。だからこそ、アンダーソンが消えた今、ここを離れた方がいい」



 スカーは神妙な顔つきでそう言った。彼は随分と前からこの結論に至っていたようだ。

 僕に協力したのも、カウエシロイの正体を暴くためだったのかもしれない。スカーの目的は、最初からそれだった。



「じゃあ、あと一教室だけ確認させて」


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