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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
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89.とある男について7

【魔暦593年07月03日13時20分】


「如月ラン…、って、確か二日目に死んだ男だっけ?ええと、雪山山荘の玄関で見つかったとかいう」

「よく覚えてるわね」

「メモってるからな」



 と、ルミは空中を見つめる。何度か瞬きしたあと、「性格は楽観的、明るい、佐藤ミノルが苦手なタイプ、か」と何かを読み上げるように呟いた。

 おいおい。何だその魔法は。僕には見えていないけど、空中にノートでも展開しているような。AR空間が実現できちゃってるの?2023年の科学を超えちゃっているじゃん。



 まあ、僕の驚きは置いておこう。ルミが魔法を披露する時のしたり顔が見れないのは残念だが、今は情報共有だ。

 彼女の言う通り、如月ランは雪山山荘の招待客だ。七連続女性刺殺事件によって母親を殺された、呪われた七人の子供のうちの一人。

 つまり、僕とオル、スカーと同じように、この村に転生したと言うわけだ。

 

 ガバッと勢いよく起き上がるルミ。チラリとスカーを見て、すぐさま僕に目線を戻す。

 スカーは走りながら手と首を横に張る。聞こえていないアピールだろうか。律儀な男だ。



「セリュナーの魔法で、あいつが異人だと判明したところまでは理解できている。なんだけど、その先は何が…。てか、ラーシーの家で何を見つけたかさっさと話せよ。あたしは火だるまになった報酬をまだ貰っていない」

「そ、そうね。そういえばそうだった」



 今思うと、僕はめちゃくちゃ酷いやつだ。地雷を踏んでもなお、僕らを守るために魔法を発動したルミ。彼女の善意に対し、僕は何も返していない。

 こうして話している内容だって、ルミのためにはならない。結局、全て僕に回帰する。


 彼女への借りが増えていく一方だと考えつつ、僕は話を続けた。



「そもそも、僕はラーシーが異人だって知ってたんだよ。セリュナーの魔法の前からね」

「はぁ?」

「だって、そうじゃなきゃおかしいでしょう。昨夜、僕が副院長の元に行ったのは、伝達魔道具を借りるためなんだから」



 伝達魔道具、警備隊員のみが所有する携帯電話と考えてもらって良い。僕はラーシーに直接電話をして動向を探るために、わざわざロスト山の副院長の元まで行ったのだ。

 セリュナーの魔法で、ラーシーに魔力が宿っていないことがわかったのはその後だ。ルミには申し訳ないが、僕は魔法という抽象的なものに頼るつもりはなかった。セリュナーはサブプランとして考えていた。


 結果的にセリュナーに会って良かったとは思う。けれど、もし、早朝にラーシーの家に向かっていたら生前の彼と会えたかも知れな。殺されなかったかもしれない


ーーそう考えると、やるせない



「いつからだ。もしかして、ずっと異人だって気がついていたのか?」

「まさか。そもそも、僕は自分以外に転生した人がいるなんて、事件が起きるまで思いもしなかったもの」


 未だに痛むお尻を摩る。その手を、ルミは止めた。早く喋れ、と言うことだ。


「僕がラーシーを異人だと気がついたのは、7月2日のお昼頃。副院長と洞窟で遭遇し、下山している最中だ」

「随分と具体的だな」

「エリク・オーケア。副院長に会えたのも、運が良かったわね」



 僕はスカーから見えない位置で、ローブのポケットからある物を取り出した。

 ごとん、と机に置く。重量がそこそこあるそれは、黒く、硬く、そして僕たちにとってはとても怖い物だった。


 僕たち…、つまり、異なる世界から転生してきた元地球人にとっては。



「何だこれ。魔道具…、いや魔力が全く感じられない」



 ルミは何か思いついたかのように、自分の首元を見る。首からかけられていた白い笛を見て、納得をしたように声を漏らした。



「ああ、異物か」

「そ。昨夜、お父さんからもらった誕生日プレゼント」

「これが何だ?それこそ、時系列がおかしくないか?ロイ村長にその異物を貰う前に、お前はラーシーの正体に気がついたんだろう」

「これと同じ物を、副院長も持っていたって話だよ」



 7月2日の流れを時系列を整理すると、こうなる。

 

10時40分

 副院長と出会う

11時40分 

 副院長と別れる

 僕はラーシーが異人だと気がつく

12時00分

 オルに拉致監禁される

19時00分

 ルミに助けられ、牢獄から出る

19時20分

 ロイから誕生日プレゼントをもらう

00時14分

 ロスト山に行く

 副院長に、魔道具と一級魔法閲覧許可状を借りる

 



 こう思うと、昨日は活発的に動きすぎだ。途中でオルに拉致され、気絶する時間がなかったら大変だった。彼に感謝することはないが。



「ふむ、流れはわかったけど。何だよ」

「まあまあ、見てなって。おおい、スカー!」



 僕はその異物(・・)を握り、人差し指をかけ、そのまま立ち上がる。それを、スカーに向けた。


 大声を上げなければ反応しないほど遠くにいた彼は、首を傾げて僕を見た。優しい微笑みを浮かべた彼だったが、次第に表情が変化していく。金髪の青年は整った顔を崩し、瞳を大きく開く。



「ちょ、正気か!」



 スカーの叫びは、大広場中に響き渡る。彼は両手を天に向かって挙げながら、無抵抗を主張する。思ったよりオーバーなリアクションに僕は苦笑しながら、「大丈夫、弾は入ってないから」と叫び返した。

 「そう言う問題じゃねー!」というスカーの声は無視した。大丈夫、心の広さでギネス登録されてもおかしくないやつだ。立花ナオキならば許してくれるだろう。



「何だ?何が起きた。というか、その異物(・・)は何なんだ」

「これより、スカーの反応に注目して欲しかったんだけれど、まあいいか」



 僕は誕生日プレゼントを丁寧に懐にしまい、満を辞してその凶器の名前を告げた。


 命を奪う黒い鉄塊、科学の至宝、死を司る存在。

 そして、本来ならばこの世界にあってはならないもの。



 拳銃である。


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