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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
88/155

87.とある男について5

【魔暦593年07月03日13時17分】



 「とりあえず、外にでようか」というスカーの一言で、僕らは地下牢獄から脱出することにした。

 スカーが信用されているのか、はたまた放置されているのか。それはわからないが、帰路で誰かに会うようなこともなかった。行きが困難だったからこそ、帰りは拍子抜けだった。



 というか、それは当然だったといえる。彼は僕と立場が違うのだから。スカーは隠れることもなく、常駐の警備隊員に自身が持っていた鍵を返し、何の取り調べもなく大広場へとでた。

 どうやら、『カウエシロイ教室』という組織は、警備隊と協力関係にあるらしい。だからこそ、警備隊員が管理していた死体を、別の場所に移動させるなんてことを堂々と行えたというわけだ。



ーーもしかすると、ロイとラス隊長が奇妙な動きを始めた原因か?

ーー警備隊と『カウエシロイ教室』は対等な関係というよりも

ーー上下関係がある



 どちらかが偉い、というわけではないだろう。『カウエシロイ教室』のほうが多くの権限を持っているというのが適切か。

 何せ、警備隊員は自宅待機を命じられているのだ。なのに、『カウエシロイ教室』の連中は一切の制限を受けていない。



ーーロイとラス隊長は、僕らを関与させたくなかった

ーーこの教室の存在を秘匿していた

ーーそれほどの存在、ということが


ーー何者なんだ、カウエシロイという奴は



 そうなると、オルは無事だろうか。


 僕らを地下へ移動させるために、自らが囮になって『カウエシロイ教室』のアンダーソンに話しかけに行った。


 警備隊と協力関係を結んでいるくらいだから危害を加えられるようなことはないだろうが、それでも心配だ。外に出ても、姿が見えない。大広場で僕らを待っているわけでもないようだ。


「さて、どこから話そうかな」


 人の気配が一切ない大広場、その正面にあるレストランに僕らはいた。キッチンにもホールにも誰もいないので、机と椅子だけを借りている状況だ。


「どこからも何も、誰が犯人なのか名前で言えよ。それで終わりだろ。外部犯か、平井ショウケイか、村田アイカか、青木ユイか、如月ランか。立花ナオキ…、か。お前が犯人でないのは確定でいいんだよな?」



ーーそれを本人に聞いてどうする



 ルミは首を傾げながら僕を見る。彼女の考えなしの発言よりも、彼女が呪われた七人の名前を覚えていたことに驚いた。

 彼女は僕の前世の話を真剣に聞いていたということだ。ヘルト村で起きている殺人事件の手がかりになる情報として、固有名詞から何まで正確に。


 僕やオルのために動いてくれているのはわかっていたが、ここまで積極的だとは思わなかった。昨日、僕が拉致監禁されている間に何かあったのかもしれない。


 何はともあれ、ルミの疑問は単刀直入だ。雪山山荘密室殺人の犯人は、彼女の中では六人まで絞られている。



「こうやって一緒に机を囲んでる時点で、俺が殺人鬼ではないと、君たちが信じているようなものだろう」



 スカーは怒ることもなく、淡々と答えた。聖人のような彼をどうやったら怒らせられるか、気になるところだ。

 これで、残り五人まで絞れた。



ーーそれにしても

ーーとうとう、殺人鬼の名前が明かされる、か



 平井ショウケイの言う通り、『殺人とは対話』である。顔と顔を見合わせて、血と包丁を通して対話をする。つまり、立花ナオキが死ぬ瞬間に、目の前の殺人鬼と顔を見合わせた。

 まあ、僕も同じ考えで入江マキが犯人だと誤解していたわけだけれど。一概に信用していいわけではない。


 それでも、新たな視点が手に入る。見える角度が増える。これで、雪山山荘の解像度が上がれば、今世の殺人鬼のヒントに繋がる…。

 もともと、そのためにここに来た。前世の知り合いに会った衝撃で忘れていたが、僕はイアム・タラークの死体を見に来たのだった。



ーー僕も、殺人鬼の名前程度ならわかっている

ーー雪山山荘密室殺人の犯人は、自力で解けている



 雪山山荘密室殺人という、証明不能の前世の事件。その推理は妄想で仮説の域を超えない。それでも、できる限りの裏取りをしたい。



ーーイアムの死体と対話をして、確信が欲しかった


 

 それは、失敗に終わった。死体の場所は移動されていた。代わりにスカーに出会えたのは、失敗どころか大幅に前進だったが。



 いつものように僕が黙りこくっても、ルミは何も言わない。僕の仕事が考えることだと、彼女は理解してくれている。

 拳を振り下ろし、机を叩く。ルミは苛立ちのこもった目で、スカーを睨んだ。



「ムカつくやつだ。いいから、早く名前を教えろ」

「ふむ。そうだな。勿体ぶってもしょうがない」

「十分勿体ぶってんだよ!」

「ははは。じゃあ、言うよ。雪山山荘殺人事件の犯人は…」



 と、スカーが口を開いた瞬間、僕は立ち上がった。




「待って、聞きたくない」


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