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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
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86.とある男について4

【魔暦593年07月03日13時15分】



 どうやら、こういう会話があったらしい。

 親友の義姉であるイアム・タラークが死んだ翌日。仲良しグループで集まり、シエラ・タラークを慰めているときにロイとルミが現れた。



 「イアムの交友関係は」とか。「最後にイアムと話したことは何か」とか。「最近、様子がおかしくなかったか」とか。


 被害者家族に尋ねるだろう、ありきたりの質問をロイは投げかけただろう。それに対して、健気に答えるシエラを支えるスカーの目には、赤髪の少女が写っていた。



 村長であるロイはともかく、ルミがこの場にいるのはおかしい。暴力女と悪評が流れる彼女が、遺族の顔でも見に来たのか。それとも警備隊長の父親の代理できたのか。どちらにせよ、いい感情は抱かなかっただろう。面白半分で踏み込んでいい領域ではない。


 だが、彼女の瞳を見てその邪推は百八十度変った。面白半分では決してなく、かといって面倒くさそうでもない。怒りに満ちた、意思の固い瞳。彼女が自分の意志でその場に立っているのは明白だった。



 興味を持ったスカーは、あえて尋ねたらしい。『第一発見者だからといって、ここに来るのは余計じゃないか』と。



「それに対して、ルミさんはこう言ったんだよ。『呪いを解くためだ』ってね」



 スカーは嬉しそうに、体を震わせながらそう言った。照明に照らされ、彼の金髪は星のようにキラキラと輝いた。



「『呪い』という単語が耳に届いた時の感情を言葉にするには難しい。一瞬で、前世の記憶が脳内で再生された気がしたよ。七連続女性刺殺事件、雪山山荘密室殺人。俺にとっては、そのすべてが呪いで、正義として否定するべき対象だ。そして、それを知っている人間が俺の他にもいることを理解した」



 こうして、地下牢獄で僕らのことを救ったのも、偶然なんかじゃない。彼は、殺人事件を追うものとして、僕たちに注目していたのだ。

 すでに警戒心は解けていた。彼の行動原理、考え方、そのどれもが立花ナオキを連想させた。僕は、彼を疑うことを止めた。



「でも、僕たちの前世の名前まで知っているのはおかしくないか?」

「そうでもないさ。君達は、前世でも常に一緒にいただろう。苗字は違っても、兄妹なんだと言っていたっけ。それは現世でも同じようだね」

「ふぅむ。まあ、そうか。うん。わかった。立花ナオキ。いや、今はスカーか。とりあえず、助けてくれてありがとう」

「俺はただ、そうあるだけさ。その結果、君が救われたというのならば、偶然だ」



 僕は一歩前にでる。鉄格子の内と外というだけなのに、気分が随分と楽になった。僕についてくるようにルミも外にでたので、三人が面と向かって顔を合わせる形になった。

 笑顔を浮かべるスカー、呆れにも近い表情のルミ。確かに、この二人の性格は合わなそうだ。といっても、一方的にルミが苦手とするタイプというだけだが。正義だとか、正論だとか、何かを正すことを嫌いなルミは立花ナオキと相性が悪い。


 その嫌悪感も、彼の前では無意味だが。スカーは嬉しそうに口角をあげ、両手を突き出す。片方の手はルミに、もう片方は僕に向けられていた。



「俺は自分の信念に沿って、殺害鬼を必ず突き止める。もし、君たちが同じ意思を持つ仲間ならば協力しないか」



 握手。お互いの意思が合致した時のみ行われる儀式。

 彼のような存在に必要とされるのは悪い気分じゃない。僕は一切の迷いなく、彼の手を握り返した。


 

「はっ、協力って。お前と協力して、あたしたちに何の得があるんだ?」



 ルミはくだらないと言い捨て、その手を振り払った。僕が握手を完了してからやるなんて、性格が悪い。彼女なりに考えての行動だろうが、僕への嫌がらせが全く含まれていないということはないだろう。

 だが、その彼女の反発も、金髪の正義の擬人化の前には無意味だった。寧ろ、肯定さえされてしまった。



「ルミさん。君の警戒心は至極真っ当だ。それは大切にしたほうが良い。だが、協力したほうがスムーズに事を進められるという事実は確かだ」



 彼は髪の毛をあげ、目を輝かせた。



「俺は雪山山荘密室殺人の犯人の顔を見ている。その情報を、ここで明かそう」

 



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