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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
四章.最後の異人
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85.とある男について3

【魔暦593年07月03日18時47分】


 僕がカウエシロイ教室にて、スカーといちゃついているのを、脈絡もないと不思議に思う人もいるだろう。

 ここで、この金髪の美青年との馴れ初めについて語るとする。



***

【魔暦593年07月03日13時15分】


「まずは、身の潔白を証明しよう。俺が信頼にあたる人物だと、君たちに説明しよう」



 魔法学院警備隊ヘルト村支部、隠された地下二階。その最奥の牢獄に佇んだ三人の男女は、お互いを見合う。

 金髪の青年スカーは、威圧とも取れるルミの視線から逃げることなく、飄々と口を開いた。




「雪山山荘密室殺人のことは、俺よりも後に生きていた君たちに語るまでもないね

「西暦2023年2月4日。立花ナオキは赤い包丁を胸部に突き付けられ、命を落とした。俺の正義は、悪の前で朽ち果てた

「そして生き返った。呪いの連鎖は、途切れることはなかった。ヘルト村という、異世界に誕生した。



「ここまでは君たちと同じだろう。もしかして、君たちは自分以外に転生者、ここで異人と呼ばれるものがいることに驚いているかも知れないけれど、この世界では普通に起きることだ



「俺自身、異人の存在に気がついたのは随分と後の話なんだぜ。なぜなら、スカー・バレントの人生は満たされていて、過去を思い返す必要がなかったから。偉大な両親、親愛なる友、優しい村民と恵まれた人生を送ることができた



「異人という存在の影に気がついたのは、今から一年前。やや発展の遅れた田舎のヘルト村に、パラスから最新情報が流れてきた

「この田舎に、パラスで話題のあの『教室』が開催されるらしい。大広場で情報通の老人達が話していたのを耳にした


「俺自身はあまり興味がなかった。放課後に勉強をしたいと思うほど、学に惹かれていない

「それでも、無視するわけにはいかなかった。リエットとシエラが興味を持ってしまったからだ



「リエットとシエラは俺の親友だ。その二人にデルタという男を加えて、普段は四人で動いている。その親友が入学すると言い出したのだから、俺は監視も兼ねて入学することになった




「カウエシロイ教室。後に根源的破壊者と恐れられる教育機関は、明らかに異人によって作られたものだった。この世界にない常識を浸透させ、人類の進化を促す




「俺は震えたね。この平和に満ちた世界に、再びあの事件が起きてしまうのではないかとね

「あの事件。七連続女性刺殺事件。あるいは、雪山山荘密室殺人。どちらでも良いが、猟奇的な殺人鬼による悲劇は二度と起きてはならない


「俺はただ、そうあるだけ。立花ナオキでも、スカー・バレントでも。殺人事件が起きる可能性があるなら、命をかけてでも止める。正義はあるんだと、俺が証明する。そうやって、心に決めた



「だけれど、やはり起きた。君たちは第一発見者だから知っているだろうが、イアム・タラークは殺された

「さっきも言った、親友のシエラはタラーク家の長女だった。イアムの義妹にあたる。だから、俺は早い段階で動き出すことができた。どうにかして、犯人を突き止めなければならない




「そこで、俺は運命的な再会を果たした。殺人鬼に立ち向かう、頼りになる仲間と出会ったというわけだ




「君だよ、ルミ・スタウ」




***

【魔暦593年07月03日13時15分】



 ラーシーの独白は終わりを告げた。彼は僕たちの表情を瞬きを交えながら見つめて、満足げに頷いた。

 名指しで呼ばれた、ルミの表情から警戒が解かれたのである。睨むような目線も、威圧感のある握りしめられた拳も、今はない。

 口を抑え、目線を地面にずらして、俯く。考え事をしているかのような彼女の肩を僕は叩いた。


「何があったの?」


 彼女はぴょんっと飛び跳ねる。随分と考え事に熱中していたようだ。


「うわっ、なんだモニか」

「僕以外に誰がいるんだよ。で、何」

「いや、何も。別に、あたしが…」



ーースカーがこうして、僕たちの正体を突き止めている

ーーそれはつまり、ルミが何かをしたからだ

ーー異人に繋がる、決定的な何かを



 目を泳がせ、やや焦り気味の彼女はこの風景に適していた。罪から逃れようと言い訳を口から紡ぐが、自分自身が理解しているかのような。推定有罪の少女が、牢獄の中にいるのは正しい。


ーールミはこう見えて責任感が強い

ーー全くもって、彼女は悪くないのに

ーーそもそも、異人の事件に巻き込んだのは僕だ



 僕は残された片手を、優しくルミの頭に乗せる。できるだけ声を落ち着かせ、彼女の燃えるような赤髪を撫でる。



「大丈夫。話してみて。怒らないから」

「あたしは何もしてない」

「ちょっと、発言と表情が一致してないわよ。僕に謝りたいのか、僕を殴りたいのか、どっち?」

「両方だ!」



 謝罪パンチ。照れ隠しとも言えるルミの拳は、あたしの胸部に打ち付けられる。僕の薄い胸部はクッションの役割は果たさず、そのまま肋骨に当たる。しかし、暴力女の攻撃とは思えないほど、力が込められていなかった。

 


「まあまあ、ルミさんを責めないで上げて、モニ・アオストさん。俺が君たちを異人だと気が付いたのは本当に偶然だったんだから」

「何があったのよ」


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