84.とある男について2
【魔暦593年07月03日18時46分】
「モニちゃんもこういうのに興味あったんだね」
「モニちゃんと話すのは随分と久しぶりだ」
「モニちゃんは相変わらず逞しいや」
「モニちゃんは」
「モニちゃんが」
「モニちゃんに」
「ええと…」
訂正しよう。
机を囲み、質問責めする転校生イベントは確かにあった。誰しもが僕に注目し、質問をする。
だけれど、それは僕の望んだものではない。純粋な興味によるものではなく、社交辞令のようなものだ。
カウエシロイ教室といっても、ヘルト村で開催されている時は村民のみで行われている。つまりは、僕達は全員、知り合いというわけだ。
ーー正確には、ロイ・アオストの知り合いだけど
次期村長候補筆頭モニ・アオストとして彼らは話しかけてきている。勿論、やましい気持ちを持っている奴はいない。別に、僕に媚びたり気に入られたりしてもメリットはない。
ロイ・アオストという正義の塊のような男に、借りがある人間は多い。その娘となれば、放置するわけにはいかないだろう。
どれだけ興味がなくても、挨拶くらいはする。
ーー帰りたい…
ルミやオル、ラーシーなど対等な友達としか話していなかったツケが来た。同級生なら暴言を吐いてお終いだが、純粋な善意とはタチが悪い。
僕は愛想良く笑顔を振り撒き、適当に相槌をし、ロイ・アオストの娘を全うした。質問責めが終わり、解散したのは授業終了から三十分が経過した頃だった。
「そこまで卑屈になることはないと思うけどね」
と、授業が終わったにも関わらず、机に座り続けている金髪の男は言った。
「モニ・アオストをロイ・アオストの娘だと認識していない人はいないけれど、ロイ・アオストをモニ・アオストの父親だと認識している人も、それは一定数いるんだぜ」
「そうかなぁ」
僕のため息に近い言葉も、彼の前では霧散していく。弱音を吐いても、悪口を言っても、立花ナオキの前では全てが無駄だった。感情を吐露しているというだけで、人を褒めることができる男だ。
無論、その性格は転生後も引き継がれているらしい。ラーシー・バレントは、立花ナオキと何ら変わりもない、正義の心を持っていた。
「特に、俺たち若い世代はそうだな。ロイ村長はそりゃすごい実績を残し、パラス王国の中でも英雄として呼ばれることもあるだろう。だけれど、それは過去の話だ。数年前の、ただの伝説に過ぎない。学校という小さなコミニティに限っていえば、モニとルミさんの暴走ガールズの方が有名だ」
「暴走ガールズねぇ。僕って、そんなに大きな騒ぎを起こしているつもりはないんだけれど」
「そこが、モニがロイ村長と違うところなんだろ。ロイ村長は実績で注目を集めたが、モニは存在感から周りと違うね。煌びやかで、美しく、浮世離れした、この村の異物だった。誰しもが、君を特別な存在として見ていた」
「やっぱり腫れ物じゃん」
僕はわざと落ち込んでいるふりをして、机に突っ伏した。スカーの方を目線だけ向けて、あえてため息をつく。
いやいや、本当にどうでもいいことなんだ。僕が周りからどう思われていても。
それこそ、ロイの娘として見られることは、嫌なことじゃない。僕だって、父親のことは尊敬している。
ただ、らしくもなく。僕はスカーに意地悪がしたかっただけだ。彼のような聖人を揶揄ってやりたい、困らせてやりたいと思った。
「高嶺の花、と言った方が聞こえはいいね。いや、君はこの村の中で一番美しいからね。そして、それは努力の末に手にしたものだろう。だから、村民のああいう態度に対して、寧ろ誇るべきなんだよ」
「タチバナ…、いや、スカーは前世の時からそうだよね。人を鼓舞するのが上手い」
「そんなことはない。俺はただ、そうあるだけさ」
そう言い切って、スカーは椅子に寄りかかった。
『俺はただ、そうあるだけさ』
これは、立花ナオキがよく口にする台詞だった。雪山山荘密室殺人事件で、唯一仲間のために立ち上がった正義のヒーローは、その行動を特別でも何でもないと言い切った。
夜間の見張りを一人で行い、僕らの睡眠を保障した。その行動は何ら特別ではなく、ただそうあるだけ。
呪われた七人の子供たちの中で、問答無用で信用できた。立花ナオキはそういう男だった。




