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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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78.地下二階1

【魔暦593年07月03日13時00分】


「なんというか、世界が終わったといわれても信じちゃうような光景だ」

「うん…。こういう人が全くいない町景色は、佐藤ミノル時代だったら好きだったんだよね。異世界観というか、非日常観が感じられたし」


ーー実際に、異世界で非日常だからか

ーーそして、その当事者だからか

ーーこの景色にまったく、笑えない



 今思えば、前世では景色だけに注目していたのだ。そうなった経緯や原因、裏で起きている物語に一切の関心がなかった。シャッター商店街や廃墟など、それに至るまでの葛藤や騒動が必ずあったはずなのに。


 僕らが住むヘルト村でも、似たような現象が起きていた。

 感染病対策ではなく、殺人事件によるさらなる被害者を予防するためのロックダウン。村長ロイ・アオストによって、ヘルト村には外出禁止令が発令されたいた。とはいえ、この村に法令があるわけではない。村長の人望と信頼によって、ほとんどの村民が従っているのだ。


 僕たちのような事件当事者たちは、こぞって動き出しているだろう。人が誰もいない、自由に動きやすいこの状況を、見逃すわけがない。

 

 僕とオルは、ほどよい緊張感を保ちながら、ルミの帰りを待っていた。人の気配が全く感じられない、時の止まった空間のような大広場。そこに隣接する魔法学院警備隊ヘルト村支部もまた、侵入者を拒絶するように、扉を固く閉じていた。


「にしても、ここに地下二階なんてあったっけ」


 オルは一切の疲れを見せない表情で、肩をすくめた。


「知らないよ。俺もあんま来ないもん」

「いやいや、スタウ隊長の息子じゃん。僕よりは詳しいでしょ」

「今思うとだけど、俺に転移魔法が使えないことを、父さんは知っていたんだろうね。だから、用もなしにここまで歩いてくることはない。俺は、そもそもヘルト村支部による機会がなかったのさ。お姉ちゃんは、良く転移されて連れてこられてたけど」


 そして、用が済んだら自力で帰っていた。行きは転移で帰りは歩き。隊長室が最上階にあることを考えると、ルミがこの建造物に詳しいことも納得ができる。


「それで、ラーシーのところで何がわかったのさ」

「癪なことだけど、平井ショウケイの言いたいことがわかった。あいつは、三日目の時点で雪山山密室殺人の犯人を突き止めていたのかもしれない」

「んん?それはおかしくない?だって、その次の日、つまりは最終日に平井ショウケイは死んだじゃ」



 西暦2023年02月04日、雪山山荘密室殺人四日目。佐藤ミノルと入江マキの命日であり、あの事件が終わった日である。未解決かつ、登場人物全員死亡という形で。

 平井ショウケイは、青木ユイ、立花ナオキと共に、死体で見つかった。僕とマキは、三人の死体を目撃し、二人で生死を確認した。


「あんだけ偉そうなことを言っていたのに、呆気なく死んでた」

「あいつのこと嫌いすぎるだろ…。まあ、マキの嫌いそうなタイプではあったけど。それはともかく、犯人が分かっていたからと言って、事件は解決するわけじゃないってことだね。何よりも、あの場で平井ショウケイが殺人鬼を言い当てたとして、誰が信じるのよ」

「そりゃそうか。俺はずっと、あいつが犯人だと思っていたし。犯人であれと願っていたし」


 願望が強い。強くあろうと自分を偽る入江マキに対して、一歩引いて俯瞰して物事を莫迦にする平井ショウケイは相性が悪い。事件の最中は恐怖に怯えてその欠片もなかったが、転生して落ち着いて考えると、怒りが再発したのだろう。

 実際、あの場にいた七人の中で一番嫌われていたのは、平井ショウケイだろう。というか、嫌われていたのは彼だけだ。


ーーまあ、私情は一旦置いておく


 誰が好きで、誰が嫌いで。そういった、短絡的な感情で行われた殺人事件ではない。基本的に、あの場で集められた七人は初対面。殺人衝動を誘発するほどの間柄ではない。



「ほら、覚えてる?平井ショウケイの最後の表情」

「覚えてない。思い出したくない。何、意地悪がしたいの?お兄ちゃんは」

「あ、ごめん。じゃあ、思い出さなくていいから聞いてほしい。『殺人は対話である』と、あの男は言ったんだけど、それがヒントだったってわけなのよ」

「ヒントって、クイズじゃないんだから。何の答えに対するヒントなんだ」

「雪山山荘密室殺人、その殺人鬼の正体。それが答えの問以外、ないわよね」



『特に、今回のような刺殺は素晴らしい。最も、対話に適している殺人方法だと言える』


 そういう風に、あの男はいった。殺人鬼と被害者は、死の間際に顔と顔を見合わせている。目で見て、包丁で触れ合って、血と共に感情を吐露させる。だからこそ、殺人は対話であると断言した。

 死体が残した最後の表情は、殺人鬼との対話中そのものだ。つまり、死の間際に誰が犯人かを理解して、どのような表情を浮かべたか、それを知ることができる。


 僕は見てきた。五人の死体を。彼らが最後に残した、殺人鬼の手がかりを。


 村田アイカは怒りに満ちた表情を。

 如月ランは苦悶の表情を。

 青木ユイは絶望を帯びた表情を

 立花ナオキは悲しみの表情を。


 そして、平井ショウケイは…


「笑っていた。頬を吊り上げ、笑みを浮かべていた」


 まるで、自分の予想通りだったかのように。答え合わせをして、正解だと知ったかのように。



 そういった表情が、死体には残っていた。

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