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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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77.対話6

【魔暦593年07月03日12時50分】



「急ぐよ!」

「ああ、うん」




 僕らは走っていた。ラーシーの家がある、ヘルト村最北部から南に下る。

 休校中の学校を横断し、住宅街を駆け抜ける。お昼時だというのに、不気味なほど人がいない。

 警備隊員が自宅待機を命じられている以上、一般村民にも何かしらの命令がくだっているのかもしれない。慕われているロイならば、数日のロックダウンなら成功するだろう。


 むしろ都合がいい。真昼間から全速力で走る僕たちに声をかけるものがいないからだ。立場上、村の中でも有名な方なので、足止めを喰らわないのはありがたい。



「急げ、急げ」

「お兄ちゃん、あのさ」

「なっ、なによ」

「急ぐのは自分自身だってわかってる?」



ーー体力お化け共め


 

 訂正しよう。全速力で走っている、というのは嘘だ。もはや、僕は歩いていた。肩を大きく上下し、心臓の鼓動が爪の先まで響き渡っている。というか、膝に手をついて立ち止まってさえいた。


「いそ、げ」


 ほんの数分で限界が来た。だけど、僕は悪くない。体力という概念が存在しない姉弟のペースに合わせていたら、すぐに力が尽きてしまったのだ。

 加えて、魔道具のローブも良くない。ワンピースのように足元まで伸びているそれは、非常に走りにくい。体力のない僕は、服装から間違えていた。



「よし、俺が運んであげよう。赤ちゃんのように、優しく背に乗せてあげよう」

「オルはなんか嫌だ」

「なんで!」



 

 止まって休んでいるだけで、大分呼吸が楽になってきた。しかし、ここで休んでいる時間は全くない。


 なんせ、相手は長距離転移魔法の天才魔法使い、ラス・スタウだ。どれだけ距離を離しても何の意味もない。距離よりも、時間が重要だ。



「ぐえっ」



 突如、僕の呼吸が邪魔される。首を絞められた痣に沿うように、ローブが当たる。数分前のように僕のローブが淡く光り、宙を浮かんだ。空を飛ぶというより、天から吊るされている。そのまま、前方につきすすんでいく。

 見るまでもなく、ルミの魔法だ。僕が足を使わなくなったおかげで、赤髪の姉弟は従来のスピードを取り戻した。


 慌てて手を首元に寄せ、気道を確保する。

 移り変わる景色は、大広場へと近づいてるようだ。まふで車に乗って運ばれているようだった。僕の長い髪は旗の如く靡き、何とも涼しい。


 油断すると首が閉まるか、ローブが脱げて下着姿の死体が生まれてしまうが。



「で、どこにあるの。霊安室…、死体安置室は」



 と、僕は頭上からルミに問いかける。

 この村に、そんな部屋があるなんて聞いたことはない。というか、この世界に、遺体を保管しておく場所などない。例え、火葬するまでの一時的な間だとしても。


 なぜなら、人が死なないから。死因のほとんどは寿命で、その全てが計画的に死んでいく。だから、葬儀も生前の段階で日程が決まっている。


 そういう異世界だ。人が殺人鬼に殺されるようなことは、本来あり得ない。それこそ、魔王による侵略だと捉えられてもおかしくはない。



 そして、この殺人事件が公になっていないのも重要だ。イアム・タラークが死んだことは、僕たちと警備隊員の一部、家族のみだ。隠蔽するには場所が限られている。


 公共の施設が存在しないこの村で、平等に隠密に遺体を安置する場所は一つしかない。



 魔法学院警備隊ヘルト村支部。大広場に鎮座する、三階層もある大きな建物。ラス隊長が取り仕切るこの場所ならば、誰にもばれずに遺体を安置できる。



 問題は、この建物のどこ(・・)にあるか、ということだ。



 息一つ切らさずに走るルミは、目線をずらすことなく前だけを見ていた。




「地下二階。そこに牢獄が広がっている。隠すとしたらそこしかない」




 知る人しか知らない、地下の道へ僕たちは向かう。




 そこに、イアム・タラークと、二人目の死体が眠っているはずだ。




 僕は、その二つの死体と対話したい。

 ラーシーとしたように、触れ合って、顔を合わせて。




 そうすれば、雪山山荘密室殺人の犯人を確定させられる。



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