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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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76.対話5

【魔暦593年07月03日12時40分】


 副院長との通信は、ラス隊長が魔道具を破壊したことによって中断した。

 普段冷静なラス隊長だが、根はルミと何ら変わりない。若い時は、ルミのように暴れたことだろう。

 彼女の怒りっぽさを、自制心と立場で抑圧している。仕事人という印象が強かったが、随分と人間らしい一面を見れた。



「でも、あれですよ。副院長が最後に言ってた、『呪異物』ってのは本当の話です。僕らがあの人に会った時も、呪異物を狙う異物ハンターだと疑われましたもん」

「だとしたら、あの男は何をやっている」

「ロスト山に出現した危険な呪異物を探していたけど、殺人事件が起きたから辞めたって言ってました。優先順位が上回ったから、先に事件を解決するみたいな…」



ーーん、まてまて



 それはおかしい。順番が違う。

 副院長のセリフを思い出せ。彼は『呪異物を排除するためにロスト山に来た』と言っていた。これは六月からの取り組みだろう。

 しかし、7月1日に殺人事件が起きた。呪異物を取り除くよりも先に、事件を解決しなければならない。だから僕と協力する、という話だったはず。


 だが、副院長は『呪異物のせいで殺人現場に行けない』と言った。



一、呪異物の捜索を行う

二、事件が起きたので中断、解決に動く

三、呪異物のせいで現場へ向かえない、中断

四、呪異物の捜索を再開する




 後手もいいところだ。魔王討伐戦線だか副院長だか知らないが、エリク・オーケアという男がここまで遅れをとっていたとは。



ーーいや、そんなわけがない

ーー副院長は、わざと呪異物を放置している



 というか、その呪異物を異物ハンター達から守ろうとしていた雰囲気さえあった。あの洞窟の最奥部に呪異物を隠し、宛ら宝を守る門番のように周辺を彷徨いているのだ。


 それならば、あの男はロスト山で何をしているんだ?



「それに、呪異物のせいでロスト山に入れないなんてことがあるんですか?そんな結界みたいな効果を、都合よく持つかな」

「ケッカイが何かは知らないが、十分にあり得る話だ。ヘルト村民だけが通れる魔法陣か。あの男が嘘をつくとも思えない」

「ふーむ」

「異物について魔法学院としては触れたくはないことだが。だから、魔王討伐戦線という異端な部署が対処することになっている」

「話の筋は、通ってはいるんですね」



 話の筋が通れば通るほど、行動の意味がわからなくなってくる。副院長は何を知っていて、何をしているんだ。

 


「とにかく!モニちゃん、言わなくてもわかっているだろうが、一応言っておこう」

「わかってるから言わなくていいですよ」

「黙れ、聞け」



ーーこわいこわい



 この親があって、あの娘がある。普段はクールぶっているが、根は暴力女ルミの父親だ。加えて、僕のようにほとんど身内のような存在には、彼も強くあたる。



「エリク・オーケアには近づくな」

「警備隊長の命令ですか?」

「いいや、これはモニちゃんが生まれた日から見てきた、近所のおじさんとしての忠告だ。あの男は他人を騙して利用して、平気で報酬の分前の話をするような無神経な奴だ。碌な奴ではない。これ以上、私とロイの心配事を増やさないでくれ」

「これ以上ってことは、これ以外にもあるんですね」

「そうそう、あいつら(・・・・)にも関わらないでほしい…って、もうモニちゃんとは喋りたくないな。思わず口が緩んでしまう」

「普通にひどいこと言ってるよ、この人」




 そんな話をしていたら、赤髪の姉弟がこちらに向かってくる。親子3人が、こうして外で集まるなんて珍しい。

 丸焦げの死体同然だったルミも、すっかりと元通りに戻っていた。回復魔法の再生力に、賞賛を超えて呆れてきた。彼女はいつものように弟に悪態をつきながら歩いていた。

 その後ろに、警備隊員が二人。彼らも、ラス隊長仕込みの先鋭隊だろうか。彼が信用できる人間は、これだけいるということだ。

 それにしても、ラス隊長の長距離転移によくついて来れている。先鋭隊だけあって、誰も疲れている様子はない。長距離転移できるのは隊長だけの筈だから、走ってきただろうに。



ーーあれ



「あ」

「なんだい、悪い顔をしているが」

「いえいえ、僕は家に帰って事件が収まるのを待つことにします。それじゃあ、事件解明頑張って」

「おい、もう少しマシな嘘を付いてくれ。全く、君の行く先は常に監視していたいぐらいだ」


 勘弁してください、そう言って僕は彼から離れた。

 赤髪の姉弟の元へ向かう途中、振り返る。


 地面は未だ凍りついていて、入る前となんら変わりはない。ラーシーの家も、扉を開ける前と全く同じ景色だった。事件が起きたということさえ、現実味がない。





 死体と対話して、少しだけ彼のことがわかった気がする。地球への未練や異世界への歩み寄り、様々な葛藤があったに違いない。


 何より、殺人鬼への恐怖。一本道に地雷を設置するほど、彼は怯えていた。二度目の死を、誰よりも恐れていた。そして、再び殺人鬼の相対し、恐怖のどん底に落とされた。


 

「おやすみなさい、ラーシー」



 転生という呪いの継続は、一度だけで十分である。

 呪いから解き放たれたことを、天国で喜んでいたら良いな、と心から思った。



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