表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
73/155

72.対話1

【魔暦593年07月03日12時00分】

 

 ロイからもらった防衛手段を披露することはなく。

 ルミが回復魔法で完治するよりもはやく。

 オルの僕を守るという強い思いが発揮される前に。



 ラーシーは死んだ。


 ラーシーは死んでいた。




 歪ませた口、目の前の真実を受け入れられないかのように大きく開かれた瞼、外へ向かう途中だったかのように、扉に向けた足。

 普段のおちらゃらけた様子とは程遠い、絶望に満ちた表情。そこに映るのは、希望からの裏切りか、決して振り向かない神への当てつけか。彼の死体は瞼を閉じても消えないほど劇的だった。



 

 この世界に来て、初めての知り合いの死。イアム・タラークよりも現実的で、鮮明に僕の視界に映った。




ーー誰だっけ、これ




 この死体はラーシーであると、断言できる。居住地も、服装も、顔も、全てが記憶の中のラーシーも同じだ。



 だが、僕の知っている彼はこんな表情を浮かべるだろうか。この家の中もそうだ。色とりどりの花と、作りかけの彫刻が散らばり、奇妙と言う他ない。

 ラーシーが花を愛でるのも、彫刻のような繊細な作業を行うのも。僕の想像のラーシーとはかけ離れている。



ーー誰だったっけ、これ



 これがラーシーという男の本質だったのだろう。異人の人格隠蔽技術をロイが警戒していたように、前世の人格とは乖離しているのだ。

 佐藤ミノルがモニ・アオストであろうとするように、彼もまたラーシーを演じていた。



 僕は彼のことを何も知らなかったのだ。




 『わからない』は怖い。

 未知とは恐怖である。

 


 僕らは表面上の彼しか見ていなくて、何も知らなかった。そして、知る方法はもうない。彼は死んだ。


 ラーシーという男の、未知さは確定した。

 

 だって、死体は喋らないのだから。



『殺人とは対話である』

『そして、死体は記録である』



「対話…?」



 死体をじぃと凝視する僕を置いて、玄関の先の部屋に入っていたオルが反応を示す。



「お兄ちゃん、なんか言った?」

「別に」

「ふうん。でさ、やっぱりこっちの部屋も誰もいない。うん。この家には誰もいないっぽいよ。裏口もないし。現状、この家の中は安全ってことになるかな」

「じゃあ、殺人鬼は玄関から出ていったということね」

「うん。密室殺人ではない、ってだけで良かったけど」



 全くもって良くはない。人が死んでいるのだから。



 オルは「大丈夫?」と言いながら僕の隣に立つ。



「気分悪いなら、お姉ちゃんのところ戻る?あっちも心配だし」

「いや、問題ない。オルは平気そうね」

「そりゃ、ラーシーが死んで悲しいよ。でも、お兄ちゃんが死んだわけじゃない」



 だから、取り乱すこともない。ぶれることもない。

 佐藤ミノルの死を経て、オルは変ってしまった。人生の価値観の、『最悪の状況』という実績が解除されてしまった。この家に死体以外の誰もいないことが証明された今、彼の心は平穏そのものになったのだ。なぜなら、僕が死ぬ可能性がないから。


 


「俺はさ、ラーシーのこと好きだったよ。気の良い近所の兄ちゃんって感じで。でも、異人だなんて知らなかった」

「うん」

「もっと早く気が付いてれば、前世の話とかもできていたかもしれないのに。雪山山荘の話とか、突き詰めれば色々対策ができたと思う」

「そうだね。僕たちは何も知らなかった。知らなすぎた」

「知ろうともしなかった、か。何か、前もこんな話したよね」

「前って?」

「覚えてないならいいや」



 「思い出したくもない話だし」、そう言ってオルは僕の横を通り過ぎる。そのまま玄関の扉を開けて、姉の元へと向かった。



ーー覚えてるよ、勿論



 僕ら異人は、前世の記憶を鮮明に残している。死ぬ間際の記憶力がそのまま保存されているかのように、いつでも佐藤ミノルに戻れる。

 バックアップが取れている。だから、雪山山荘で話した内容など、当時の光景すら思い出すことができる。





 未知とは恐怖である。

 わからないは怖い。


 だが、無知は罪だ。

 知らないは通じない。


 知らなければならない。





『その点、殺人鬼はお前らよりはマシだ。人を殺すことによって、対話を試みているんだから』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ええ…?なんかモニにも隠してることありそう…? [一言] 更新ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ