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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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69.突撃作戦3

【魔暦593年07月03日11時56分】


「ジライ」



 その響き自体、十六年ぶりに聴く。否、使った事があるとしても、それは本来の意味ではない。



『誰々の地雷を踏む』



 一般的な比喩表現として、使うことはあったかもしれない。触れてはいけないものに触れる。聞いてはいけないことを聞く。そういった意味だ。


 当然、この世界にそんな比喩表現はない。



 ーー『現実逃避している場合か?』




「はぁ!?地雷、地雷って言った?」

「あの、お姉ちゃん。あまり動かないで。どの程度で爆発するかまではわからないんだから」

「しかも僕かよ!」



 いや、オルかルミだったら良かったというわけではないけれども。僕のこの足の下に、いわゆる地雷があると言いたいのか。


ーー冗談も大概にしてよ


 剣と魔法が飛び交う世界に、科学的な人を殺す兵器があるわけがない。それは、現れる世界が違うだろう。


 と、一蹴することもできない。

 


 だって、僕達が今から向かう先には、その科学で成り立つ世界出身の人間がいる。常識の通用しない、前世の記憶を持った転生者がいる。


 警戒を怠っていたわけではない。だが、僕達よりも一歩先に、ラーシーは行っていたのだ。既に、戦いは始まっている。


 地雷というと、死亡する可能性はもちろん四肢欠損が有名だ。起動すれば爆発し、足は間違いなく消し飛ぶだろう。



「どうすればいいの。オルって歴史学科だったよね?」

「いつの話してんだよ!てか、歴史学科が地雷の対処方を知ってるわけない!」

「まじでやばいわね」

「何でそこまで冷静なんだよ!」


 唾が飛んでくるほど、後ろで怒号が飛び交う。できるだけ起爆の確率を減らすかのように、僕を地面に押さえつける力が強まる。そのまま肩が外れてしまうのかと思うほどだ。

 オルがなぜ地雷だと気がついたかはわからない。それでも、気がつくに至った僕に見えていない要素がある分、彼は慌てているのだろう。


 僕は視線だけを足元にずらす。地面は舗装されていない。一本道といっても、雑草や木々が生えていないだけの道だ。この下に地雷が埋まっている、というのはあながち否定できないかもしれない。



 といっても、それを言ったら全ての地面が地雷原だが。ここから先、まともに歩けなくなったらどうする。



 否、物理的に歩けなくなる状態である。僕の足が一歩でもずれたら、重みが感圧版から離れたら、それは起爆する。よくて四肢欠損、悪くて死亡だ。生憎、僕たち異人に回復する手段はない。



ーーまてまて、確かにスイッチはあったかもしれないけど

ーーこれが地雷だって確信もない

ーー何かしらの装置

ーー例えば、侵入者を検知する防衛装置とか



 第一、ここはラーシーの家の前。自宅の前に地雷を設置する奴がどこにいる。行き帰りの度に、足元を見て行くのか?

 

ーーそれか、籠城作戦を決め込んだか


 だめだ。わからない。

 いっそ、足を外してみようか。ここで危険かどうか確かめる手段なんて、それしかない。衝撃を与えず、確認するなんて、魔法でもなければ不可能だ。



「んあ」



 いつまで地面を見ているつもりだ。僕が見るべきなのは、正面に待つ赤髪の少女だろう。



「ルミ。魔法で何とかして」

「…、勘違いしてるかもしれないが、魔法を何でもできる何かだと思ってるだろ」

「僕は魔法を『何でもできる魔法の言葉』だと思っている」

「はぁ」



 ルミは軽いため息を付きながら、手のひらをこちらへと向ける。



「まあ、できるんだけどな」



 そう言って、何かを発動させた。空間が歪み、色が薄くなる。魔力を見る事はできないが、目の前を大量に流れているのがわかる。



 周囲を白い光の粒が舞い、空へと登っていく。まるで、雨が地面から天に向かって降っているかのようだった。



「浮遊魔法、だ。地面にチキュウサンの危険物があるんだよな」

「一歩でも地面から足を離したら爆発するかも。でも、僕に魔法は効かないんだって」



 異人には魔法が効かない。それはさっき、ルミ自身が身をもって証明したはず。それなのに、彼女は僕に向かって魔法を放った。


 しかし、それは起きた。僕の体はオルの手から離れ、次第に空へと向かっていく。僅かに視界が高くなり、光の粒と並行しているかのようだった。



「魔法をかけるのは、地面と魔道具だ」



 下を見ると、僕が踏んでいた部分にぽっかりと穴が空いている。地面は僕と共に空を飛んでいた。2メートルほどの土の塊は、ポロポロと土の破片を落としながら、地を離れる。

 そして、僕の体は黒いローブに引っ張られていた。宛ら、ライフジャケットをつけて海に潜っているときのようだ。首元がかなり苦しいが、確かに僕は浮いていた。

 数メートル浮遊したところだった。僕はバランスを崩すことなく、地雷原と思われる部位に足を置いたまま、宙で止まった。



「停止」



 パキ、という音共に足元が凍る。それは、僕の靴ごと土の塊を固め、動かなくした。

 冷凍保存、とでもいうのだろうか。地雷は姿を現すことなく、効果を発揮させることなくその役割を終えた。



 靴を脱いだ僕より先に、土の塊が地面に降りる。それは爆発することもなく、元の位置へと戻って行った。遅れて、僕が裸足のまま地面に戻る。

 不安そうな目で見ていたオルを、僕は抱きしめた。危うく、ここで命を散らすところだった。



「あたしの靴を使うと良い。この先は宙に浮いていくことにする」

「頼りになるわ。ありがとう」



 ルミは僕のお礼を無視して、靴を脱ぐ。それを無愛想に放り投げ、裸足のまま地についた。




 カチッ



ーーああ、確かに地雷っぽい



 と、僕は呑気に理解した。

 今度は、確かに聞こえた。スイッチを押したような、何かが入ったような。とにかく、自然界では絶対に聞く事がない、人工物の音だった。


 僕が踏んだ時は、後ろのオルしか聞こえなかった。そして、今回僕が聞こえたということは、前方のルミが地雷を踏んだということになる。


 感圧版が地面に埋まっているのは、僕の足元だけではなかったらしい。



「ちょっと待っ」



 僕が声をかけたのと、ルミが足を地から話したのは同時だった。



 直後、空間が軋む。


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