68.突撃作戦2
【魔暦593年07月03日11時55分】
ラーシーと僕たちの付き合いは、そこそこ長い。
最初に会ったのはいつだったかあまり覚えていない。挨拶をする程度の関係から、段々と顔馴染みになっていった。それ程、彼との交流は自然なものだった。
というのも、僕達の通学路とラーシーの勤務エリアは重なっている。
アオスト邸やスタウ家のあるヘルト村南部から、学校のある北部に向かう道は大きく分けて二つ。
一つはヘルト村の中央を横断する最短ルート。そして、村の外周を西沿いに進むロスト山麓ルート。
行きは最短ルートで行くが、帰りはロスト山付近で遊ぶので麓ルートを使っていた。そのため、放課後は外周沿いを散歩していた。建物が何もないため、人は全くおらず、それこそ巡回中の警備隊員くらいにしか会わない道だ。
そこでラーシーとは仲良くなっていった。
暴力女と暴言女と呼ばれ同級生の友達が全くいない僕たちとも、彼は分け隔てなく話してくれた。何より、9歳差という幅が、男女を超えた程よい関係を生んでくれた。
仕事はサボるし、上司の悪口を言う。だからこそ、話しやすい。悪友として彼との関係は気に入っていた。
ーー今思うと
ーー異人が故に、波長があっていたのかもしれない
ラーシーの家は、セリュナー家のさらに奥、ヘルト村の最北端にある。ほとんどロスト山に侵食されていて、森の中に一軒家を建てている。
彼の家に向かうには、切り分けられた一本道を通る必要がある。それはまるで、アオスト邸への道のようだった。
といっても、僕の実家と比べたら質素なものだが。ロスト山麓の余った土地を利用しているだけで、豪邸とかそういうわけじゃない。一人で住むには充分で、かといって広すぎない。そんな家に、ラーシーは住んでいたはずだ。
ーー日本に近い雰囲気がある
ーー温泉地帯の、料亭みたいだ
ーー異人らしいといえばらしい
僕は彼が異人だとは、事件が起こるまで気がつくことはなかった。と言うよりも、その可能性を一ミリも考えたことがなかった。
話しがしたい。
あの事件の日のことを。
雪山山荘密室殺人。あの事件で死んだ七人のうち、誰かがラーシーなのだ。
平井ショウケイ
立花ナオキ
如月ラン
オルみたいに女性から男性へ転生したパターンなら、
青木ユイ
村田アイカ
それか、第三者の殺人鬼か。
ーーやはり、雪山山荘密室殺人の犯人が誰か
ーーそこを解決しないと、前に進めない
ーーあの七人の中に犯人がいたのか、外部犯なのか
方針は決めた。
異人を片っ端から探し出し、事件の情報を集める。そうすれば、いつかは殺人鬼に当たる。
幸い、異人かどうか見分ける方法は見つけた。あとは、全力で行動に移すだけだ。
「よし、行くわよ」
すっかりと太陽は上に登り、木々を照らす。
僕たち三人は、ラーシーの家に繋がる道の正面に立っていた。彼が殺人鬼である可能性もゼロではないので、最大限の警戒を持って、進むことにした。
先頭は、既に数多の魔法を展開し、臨戦体制に入っているルミ。回復、転移、浮遊、透明、雷撃、身体強化などなど、あらゆる能力を所持している天才魔法使いだ。何があっても、彼女は対処できる。
次点で僕。頭は回せる自信はあるが、魔法は使えないし、身体能力も年相応の女子。全く鍛えていないので、ただの雑魚と思ってもらって構わない。
殿はオルだ。僕と同じ異人にも関わらず、姉に劣らない身体能力、タフさを待ち合わせる。対魔法使い戦に置いては、魔法の効かない彼は真価を発揮するだろう。
つまり、僕を守る布陣だ。せっかく女子に転生したのだから、姫プレイを体験しておくのも悪くはない。
それに、僕の得意分野は事前準備だ。昨夜に副院長のいる洞窟に行ったのは、元々ラーシーが異人なのではないかと怪しんでいたからだ。理由は今は割愛する。
そこで、既にラーシーの情報を抜き取ってもらっている。具体的には、ラーシーが警備隊員の証である黒い四方形の物体ーー伝達魔法が刻印されている魔道具だ。
つまり、彼が所持している魔道具に、副院長から貸してもらった魔道具で接続する事ができる。
作戦はこうだ。
家の前にたどり着いた僕とオルは裏に周り、身を潜める。
回復魔法を持つほぼ不死身のルミが、一人で玄関に立つ。
ラーシーも自宅待機命令を受けていることは確認済みだ。そこで僕は、彼に魔道具で伝達魔法を送る。
内容は、『殺人事件が起きた』だ。ラス隊長を呼んで欲しい、との旨を適当に伝える。『巡回中の警備隊員が死んでいて、たまたまラーシーに繋がった』という設定にでもしよう。場所はロスト山の麓とでも言おうか。
ここで、『了解、すぐに向かう』と飛び出してきてくれたらラーシーは白だ。ただの異人だろう。
あの日も、ルミの悲鳴が聞こえ、定時外にも関わらず助けに行こうとしていた。僕の知る彼なら、正義感で様子を見に来るだろう。
外に出てきたラーシーをルミが適当に拘束し、遅れて僕たちが顔を出す。あとは成り行きでいい。
問題なのは、『どう言うこと?』と質問してくる場合だ。その時は、彼が殺人鬼の可能性が高い。
なぜなら、自分が殺していないのに、人が死んでいるはずがないから。疑う次点で、容疑者筆頭になる。
彼の警戒心は高まり、準備をしてから外に出るだろう。つまり、時間がある。そこを、逆に突く。
ドアを開ける事なく、ルミが派手な魔法を打ち込む。
家の両端の壁を貫通させ、裏にいる僕たちと一緒に侵入。ルミとオルの二人で、ラーシーをぼこぼこにしてもらう。僕は見学だ。
どちらにせよ、ラーシーを拘束することに変わりはない。話は、その後だ。
時は現在。三人による進軍が始まった。
幸い、一本道を見ることができる窓はない。僕たちの接近はバレないだろう。
僕たちは誰一人喋ることなく、忍足で歩く。半透明の下敷きのような障壁を、周囲に展開するルミが頼もしい。
カチッ
それは、普段だったら聞き逃していた音だった。風切り音に紛れて耳にすら入らなかったに違いない。全員が集中していて、静寂に包まれていたからこそ、気がついた。
といっても、最後尾のオルだけが聞こえたらしい。僕は何も聞こえなかったからこそ、彼の声に心臓を震わせた。
「ちょっと待った!!」
おいおい、ラーシーに聞こえたらどうする。と、嗜めたくなるほど大きな声で彼は叫んだ。僕は呆れた表情で振り返ろうとしたが、背後から両手を肩に置かれ、身動きが取れなくなる。
ーー力、強っ
そのオルの様子を見たルミが、全方位に障壁を広げる。今、ラーシーが外に出たら一瞬でバレるだろう。隠密性を捨て、安全性を上げた。
「何よ、どうしたの」
「や、やばい。どうしよう」
彼の声は震えていて、状況の緊迫さがわかる。僕の肩から伝わる彼の手は、助けを求めているようだった。
だが、僕こそが助けを求める立場だった。
「お姉ちゃん、地雷、踏んだかも」




