62.『事件現場再現VTR』3
【魔暦593年07月03日11時15分】
イアム・タラークの周りに飛び散る血は、温もりが残っていた。まるで生きているかのように、彼女の体は暖かった。僕たちが見つける、ほんの少し前に彼女は殺されたのだ。
血液や体がどのくらいで冷え切るのはわからない。だが、流石に一時間も持たないだろう。死亡推定時刻は07月01日19時から20時の間になる。
オル、僕、ラーシーの三人が立ち話をしていた場所から殺人現場までの距離は100メートル程。
僕たち3人の目線がズレた一瞬で100メートル先の現場まで移動し、殺害。そして戻ってくる。
ーー確かにルミならできる
実現可能ではある。前提条件として、イアムを事前に現場に配置する必要もある。アリバイ作りとしては満点の完成度だ。
ーー『おい、モニ・アオスト』
ーー『黙って続きを見ろよ』
と脳内で佐藤ミノルがため息を溢す。彼はやれやれと欠伸をしながら眠そうにしていた。前世の僕を殴り飛ばしたかったが、彼のいう通りだ。
どうせ、サイコメトリーの魔法がある。誰がやったかなんて、ここでわかるのだから。
『チッ』
はっきりと、ルミの声が聞こえた。現実の彼女のではない。確実に、花の空間から音が漏れていた。
ーールミ程の魔力量なら音も再現できるのか
魔力が溢れ、空気の振動が伝わったのかもしれない。彼女は不機嫌そうに後ろを振り向く。冷徹なその目は他人を見下す恐ろしさを秘めていた。
『どんくさいなぁ』
その言葉を残して、再び立ち止まる。イライラしたように足を揺らし、何かを待っているかのようだった。彼女の目線は地面に向けられていたが、そこには何もなかった。
ーーまて
ーーなんだこの違和感
ーー『この後、ルミは光魔法を使う』
佐藤ミノルの声が隣で聞こえる。冷静に俯瞰しているミノルと状況を理解できていないモニ。脳内で思考が分離しているかのようだった。
花の空間で眩い光が灯る。ルミの指が太陽のように光り輝き、あたりを照らす。その際で、彼女は何かを見たようだった。表情を大きく変え、体を震わせる。
ーー『地面を見て』
彼女の光魔法は、ゆっくりと地に向けられる。花の空間の中では、向けられた先に何かがあるわけではなかった。
ーーおいおいおい
ーー僕はこのシーンを見たことがあるぞ
遅れて、僕も状況を理解した。ルミが誰と話しているのか、そこに何があるかがわかった。
ーーそしてルミは悲鳴をあげる、か
『き、きゃぁぁぁぁぁぁ』
彼女は一人で叫び、地面に尻餅をついた。そのまま腰を抜かしてしまったようで、体を震わしていた。目を瞑り、現実から逃げているかのようだった。
「なにこれ、何してんの?あんた」
現実のルミに冷たい言葉を浴びせるセリュナーも、ルミの表情を見て口を紡ぐ。彼女のあまりにも真剣な表情に驚いたようだった。
くいっとローブの裾を引っ張られ、僕はびくりと体を跳ねる。足元にオルがいたことをすっかり忘れていた。
彼は立ち上がり、僕の耳元に顔を寄せる。
「お兄ちゃん、これってさ」
「ああ」
彼もまた、気がついたようだった。このサイコメトリーには映っていない真実のことを。
セリュナーの魔法の隠された欠点が一つあった。魔力の流れから過去を再現する一級魔法が見落とすものがある。
例えば、石や土などの無機物。例えば、風や日光などの自然現象。
魔力を全く持たないものは映さないのだ。
それだけだと思っていた。しかし、これは、そうことだと考えていいのだろう。
ーー僕とオルが再現されていない
ルミの隣に、僕たちは立っているはずだ。花の空間で、僕たちも死体を見て驚いているべきだ。それなのに、透明人間が如く、いない。ルミだけが、再現の対象になっている。
僕は魔法を使ったことがない。それはただ単純に魔法学に興味がないからだった。
だけど、オルは違う。魔法学院の名門スタウ家に生まれた長男が、魔法を使ったところを見たことがない。もし、彼が使わなかったんじゃ無くて、魔法を使えなかったとしたら。
体の内側から漏れ出す、熱い気持ち。今までの常識が裏返る、歴史的な瞬間を目にしている気分だった。
「異人は、魔力を持っていない…?」




