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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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60.『事件現場再現VTR』1

【魔暦593年07月03日10時40分】



「それじゃあ、行くわよ」



 白く女性的な手から零れ落ちたのは、植物の種だった。大きさ、重さ、色、全てが異なる種種が、何十も地面に落ちる。それぞれが音を奏でながら、他に衝突し、光り輝く。


 土も水もないのに、種子たちは一人でに育ち始めた。種が割れ芽が出たかと思えば幹となり、次第に花を咲かす。花は枯れ、種を落とし、種がまた光る。この輪廻は、短い期間で繰り返されていた。



 サイコメトリー、過去を読み取る一級魔法。使用者のセリュナーですら、無断で使うことは禁止されている。許可も、隊長クラスの印が必要になる。

 僕はてっきり、『手で触れたら過去の映像が脳内に流れる』というイメージがあった。どうやら、僕たちも実際に過去を見ることができるらしい。これも、嬉しい誤算だった。




ーー僕は運がいい



 ヘルト村西部、イアム・タラークが殺された殺人現場に僕たちは来ていた。


 赤い一輪の花が咲いているかのような死体も綺麗さっぱり無くなっている。イアムの死体は、今どこにあるのだろうか。

 今となっては色鮮やかな庭園が出来上がっていた。風が吹けば花の匂いが流れてきて、少し気分が良い。


 セリュナーの家は花が咲き乱れていたし、植物を操る魔法を使うのはわかる。だけど、ここからどうやって過去を再現するのだろう。



 花が咲き、枯れ、また咲く。何世代にも渡る生命のリレーは止まることがない。僕たちは口を半分開けて、儚い植物を見ていた。

 その様子を、怒り混じりの声でセリュナーが制す。



「ちょっと、じっくり見ないでよ。さっきも言ったけどこれは一級魔法なのよ。使うのはあの(・・)人の命令だからやるわよ。でも、見るのにも許可が必要なんだから」

「何で?見る分には問題なくない?」

「特にあんたよ、ルミ。『見て盗もう』とか思ってるんでしょうね」

「はぁ?考えてねーよ。うん。全くもって考えてない」



 そう言い切る彼女の声はやけに単調だった。

 昨夜(・・)わからなかった副院長の話が、今なら理解できる。

 一級に該当する魔法は、法で縛らないと良からぬことに使う連中が絶えないのだろう。免許制度を取り入れることで、そもそも学ぶ権利すら与えないようにしているのだ。

 だから、魔法を使っている場面も非公開なのだ。魔力の流れを感じ取ることができれば、再現することができるかもしれない。免許制度の意味がなくなる。


 このように、魔法学院はかなりガチガチの法整備を整えている。相当に頭がキレる奴がいるのだろう。ルミが無免許魔法を許されているのも、ヘルト村が田舎だからだ。


ーー副院長は、セリュナーの性格を把握していたのか?

ーー心底不気味な男だ


 僕は鞄の中にしまってあった一枚の紙を握り、副院長のことを考える。全てが、あの男の手のひらの上にあるような気がする。利用するつもりで近づいたが、逆に操られているようで不愉快だ。



 とはいえ、副院長の言う通りだ。セリュナーのような真面目な警備隊員に協力させるためには、正攻法が一番効く。

 ため息を漏らしながら、その紙をセリュナーに渡す。


「なに?モニさん。って、これは!」



 眼鏡を太陽光に反射させながら、彼女は大きく仰反る。僕が渡した紙に書いてあることを、信じられないかのように、目を見開く。



 それもそのはずだ。

 『一級魔法を見るためには許可が必要』という彼女の言葉に同調するような内容が、その紙には書かれていた。



「一級魔法閲覧許可状!?ちょっと、何でこんなものあるのよ!エリク・オーケアの印もあるじゃない!」

「ということで、ルミ。見て学んでいいってよ」

「やったー!」



 転生し続ける花の元へ駆け寄り、手に光を灯し始めるルミ。魔法の解析をしているのだろうか、実践形式の勉強を行い始めた。

 見るだけだったのは、彼女なりの気遣いだったようだ。


 一歩引いてみていたオルが、小さな声で僕に話す。



「行ってよかったね、ロスト山」

「そうね…。でも、副院長にいくつも借りができてしまった。後が怖いね」



 僕とオルの誕生日パーティーがあった深夜のことだ。セリュナーの情報をある程度聞いた僕は、万が一を考えた。ラス隊長の部下ということは、警備隊員は非協力的なのではないか、と。別の予定もあったし、僕は副院長に会いに行くことにした。

 部屋の外でオルと合流したのは心強かった。なんせ、一度は死にかけたロスト山深部に行くのだ。しかも、真夜中に。

 

 と言っても、ロスト山は昨日と比べて随分と静かだったが。山頂に近づかない限り魔獣は出てこないようだし、副院長がいる洞窟は意外と近い。断崖絶壁であるが故に、危険地帯には近づかなくて済んだ。


 崖下に着くと、空から天使が舞い降りた。星明かりのみの夜空に、七色の光帯を回転させながら羽ばたく副院長の姿は、心が奪われるほど絶景だった。



ーーそう、副院長はやけに協力的だった

ーー魔道具もいくつか貸してくれたし

ーーだからこそ、怪しい



 最初の邂逅で、殺人事件を追うもの同士として軽い協力関係を結んだつもりだ。勿論、前世の話などは話していない。それでも、彼の得体の知れなさは計り知れない。


 一度落ち着いたら、副院長の元に行く必要がある。彼もまた、殺人事件の鍵を握っている。


 

 花の輪廻は続く。枯れても繰り返される生命は、僕たち転生者を想起させた。どんなに短い時間でも、花は力強く咲いていた。その力が種子となり、来世へ繋がっているのだ。



ーー僕も全力を出さなければな



 少しセンチな気分になっていた僕は、花の変化に気がつくのが遅かった。辺りは枯れた木々で満たされ花びらが空中をゆっくりと舞い落ちる。



「そろそろ始まるわよ」



 終わったはずの生命が動き出す。枯れ木たちは小刻みに震えて、次第に形作っていく。およそ、高校の教室くらいの大きさの空間が、淡い色に包まれていく。

 まるで花の結界のようだった。その中を、木々で作られた物体が人間の形となって動き始める。



「今から48時間前。つまり、魔暦593年07月01日10時50分から、この場所で起きた過去を再現するわ」



 VTRビデオテープレコーダーのように、記録は蘇る。

 

 真実が今、再生される。


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