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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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57.最高なサマリー4

【魔暦593年07月03日09時48分】



「シンダ?何それ。新しい魔法か何か?」

「人を殺す技術を有した人類の敵、魔王。その一人がこの村に訪れた。しかも、ヘルト村の住民に紛れて今もなお活動している」

「へ?」

「イアム・タラークは死んでいた。回復魔法は発動せず、傷が残ったままこの世を去った。その事実は揺るがない。なんせ、あたし達が最初に見つけたんだからな」

「い、意味が…」


 

 普段おちゃらけているやつはずるい、と思う。少し真面目な話をしただけで、信憑性と重要度が伝えられる。



ーーさて、どうなる



 僕とオルの嘘が記憶から消えるほど、衝撃的な事実だ。加えて、ルミはくだらない冗談を言うようなやつでもない。

 口を大きく開けたセリュナーは、空笑いを漏らす。それでも、表情を崩さないルミを見て、彼女はすとんと席に戻った。



「あ、ありえる」



 表情は一変、手を組みルミを睨みつける。セリュナーは本当に聡明だ。僕たちの今までの嘘と、ルミの様子から真実だと判断した。

 そして、ラス隊長が自宅待機命令を出した意味の予想外ついたことだろう。



「モニ達は何もセリュナーを騙そうとしたわけじゃないってのは先に言っておくぜ。殺人現場のサイコメトリーなんて、初見だと信用してもらえないからな」

「だからと言って、私がサイコメトリーを使った瞬間に知ったらどうするつもりだったのよ。これだから過去は読みたくないんだ」



「勿論、協力してくれるってなったら真実を言うつもりでしたよー」



 手をひらひらさせながら僕は言葉を挟むが、ルミとセリュナーには届かなかった。彼女達は次第にヒートアップしていった。



「オルがさっき言おうとしていたこともそうだ。ラーシーだけじゃない。殺人は必ず起こる。それも二度とや三度じゃない。知り合いが死んでからじゃ遅いんだぞ」

「それで、私に殺人現場を見てほしいってことよね。サイコメトリーで殺人鬼の顔を見て欲しいっていう」

「そうだ。殺人鬼はヘルト村の村民に紛れている。だから、顔を見れば一発で…」

「やっぱり、駄目ね」



 セリュナーは空になったコップを持ち、軽く振る。中には透明な水が補充されていて、彼女が魔法を使ったのがわかった。

 水をごくごくと飲み、喉を震わす。その様子を見て、オルは怒りで体を震わせていた。



「本当に意味分かってんのか?人が死んでんだぞ!」

「それは分かってるわよ。事実なんでしょ」

「イアムの夫、リーチ・タラークに会ったって言ったろ。あの憔悴した顔、絶望した目を見てみろ!現実の恐ろしさを、セリュナーはまだ知らないんだ!」



ーー熱い女だね



 ここまで感情的になれることを、羨ましく思う。ルミは、本当に僕に無いものを持っている。人を動かすのは、彼女みたいな人なのだ。

 だが、相手は論理的な思考を持ち合わせている魔法使いだ。そういう奴には、パッションは逆効果だと、彼女は知らない。



「理由は三つ」

「ああ?」

「一。私の魔法は有名だから、殺人鬼が知っている可能性がある。つまり、私が動いたら真っ先に殺されるでしょうね」



 セリュナーは人差し指と中指を立て、手を軽く振る。



「二。ラス隊長が私に命令してこない時点で、サイコメトリーは不要ということ。貴方のお父さんは真の天才。彼の判断が一番正しい。今はサイコメトリーを使わないことが正解なのよ」

「父さんだって、間違えるときは間違える!」

「どうだろうね。三。私はサイコメトリーを極力使いたく無い。見たく無いものまで見えてしまうなんて、誰も幸せになれないもの。以上」


 3本目の指は立てずに、そのまま水を飲む。彼女はもう何も話すことはないようで、一人でに天井を見る。きっぱりと突き放したので、ルミの顔を見れないのかもしれない。


ーー潮時かなぁ


 セリュナーの言ったことはどれも納得が出来る。逆探知の魔法があるのかしらないが、サイコメトリー対策をしていてもおかしくない。

 僕もルミの話に可能性を感じただけで、本当に期待していたわけじゃない。セリュナーが乗り気ならば、切り札を切ることも考えたが、三つ目の理由が引っかかった。


 大方、過去にサイコメトリーで痛い目を見たのだろう。どこまで過去を再現できるかわからないが、見てはいけないもの…、例えば人間の隠してきた醜悪を覗いてしまったとか。

 当たり前だが、サイコメトリーで見られる可能性を考慮して生きている人間はそうそういない。監視カメラも人気もない所で行ったことも、掘り起こされるのだ。



 無理強いはできない。僕はセリュナーとたった今あったばかりなのだ。



「そう、だよな。セリュナーにも色々あるんだよな」

「ごめんね」

「いや、謝らないでくれ。こっちが間違ってた」


 

 彼女の赤髪は優しくゆれ、そのまま地に向かう。ルミの鋭い目つきも、怒りに満ちた表情も、髪に隠れる。そのポーズは、暴力女の異名から最も程遠いものだった



「言い直す。セリュナー、あたし達を助けてほしい。助けてください」


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