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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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56.最高なサマリー3

【魔暦593年07月03日09時47分】




 ラーシー。

 その言葉を聞いて、驚いたのは僕もだった。つい最近、彼のことを考えていた時期があったからだ。恋とかそういうのじゃない。イアムの死体を見つけた時の前後で、僕はある(・・)ことに気がついていた。



ーーまあ、その話は後回しだ



 魔法学院警備隊の汚職隊員、ラーシー。僕とルミは、彼の弱みに漬け込んでロスト山危険区域への許可状を偽装させていた。

 悪友というのが適切だろう。あまり友達が少ない僕たちにも気さくに話しかけてくれる。雑に扱っても、安心できる。まあ、良いやつだ。



 そのラーシーが、セリュナーと?



「あ、そう」



ーーうん。めちゃくちゃどうでも良いな



 言われてみれば、セリュナーとラーシーは年齢が近い。下手したら同い年だろう。職場も同じだし、同期なのかも。

 引きこもり気味なセリュナーと、ぐいぐい前に行くラーシー。共通点の多い二人が付き合っている方が自然だ。

 それに、ラーシーに彼女ができたことはかなり噂になっていた。娯楽の少ないヘルト村の噂の広がりやすさは早い。僕ですら、聞いたことがあった。



 だからこそ、どうでもいい。というか、誰と誰が付き合っていようが興味がない。女子に生まれ変わってしまったからか、恋沙汰話に全く興味が無くなってしまった。




 と、冷めた反応をしたのは僕だけだった。




 オルの言葉を脳内で処理したセリュナーは、わなわなと体を震わせる。色白な肌が次第に赤くなり、薔薇の花がよく似合いそうだった



「な、う、あ、ち、違うわよ!」



 机をバン、と叩き立ち上がる。怒りと恥辱心の籠った複雑な感情は、オルに向けられた。



「まさか、あいつがそう言ったの?勘違いも甚だしいわよ!ちょっと一緒に帰ったり、ご飯食べたりしただけで、すぐ調子に乗りやがって!むしろ、嫌いの部類よ!」

「ま、まあまあ落ち着いて」

「これが落ち着けるか!」



 オルも慌てた様子で立ち上がる。

 彼の作戦は失敗したようで、参ったように頭をかく。こちらをチラリと見つめるが、僕には何もできやしない。


 大方、『ラーシーが失踪したらどうするの?』とか何とかいうつもりだったのだろう。身近なものや大切なものを脅すときは具体名があっほうがい。

 ラーシーと関係があると気がついたまでは良かったが、地雷を踏み抜いてしまった。



「セリュナー!」

「何よ」

「詳しく話を聞かせろよ」



 目をキラキラと輝かせた少女はセリュナーの隣に座り、馴れ馴れしく肩を組む。顔を近づけ、ニタニタと口を歪ませる。

 僕とは正反対のルミは恋沙汰話が大好きだった。隙があれば僕とオルを突き合わせようとしてくるし。



ーーなんか、めんどくさくなってきたな


 

 ルミは好奇心旺盛な大人だ。力はあるし行動力はあるし、実家は太い。子供に持たせてはいけない全てを持たせた、現代の暴力女。

 彼女に捕まったセリュナーはもうおしまいだ。根掘り葉掘り聞かれ、逃げることはできないだろう。



ーーよし、帰ろう



 別のアプローチで行こう。セリュナーの魔法は僕にとってサブプランでしかない。使えるに越したことはないが、利用できないならそれまでだ。



ーー幸い、次の目的地はセリュナーの家から近い


 僕は僅かに残ったお茶を飲み切り、席を立とうとする。が、すぐにオルに脇腹を摘まれ、体が跳ねる。



「あの!もう触りたいだけだよね!変態」

「良いじゃん良いじゃん。減るもんじゃないんだし」

「女の気持ち、オルなら誰よりもわかるはずだろ!」

「いやいや。俺はマキの時でもミノルお兄ちゃんの温もりを欲してたよ。女子の気持ちを理解して触ってんの」



ーーこいつはもともと変態だった



 入江マキは、隙あれば僕にひっついてくる、スキンシップが多めの妹だった。転生して力のある男になったせいで、よりタチが悪くなった。

 


「それに、モニちゃんはお姉ちゃん舐めすぎだよ」

「え?」



 オルは優雅にお茶を喉に流す。彼はセリュナーとルミを見ながら、何度も頷く。



「お姉ちゃんは、俺たち異人に挟まれて生きてきたんだ。ここまで価値観が乱れてる人、この村にはいないよ」

「はぁ」

「大丈夫。犯人を捕まえたいって気持ちは、僕たち三人は同じだから」



 涼しげな表情を浮かべるオルを本気でビンタしながら、僕は席に戻った。言おうとしていることはわかるが、この状況はめちゃくちゃだ。

 ルミにどうにか出来るとは思えないが、僕はサブプラン用の切り札もある。どうせ帰るならさっさと切ってしまおうかと思った矢先、ルミは言葉を放った。


 状況はさらに混沌の渦に飲まれていく。




「ラーシーとは只の腐れ縁よ。だから何もないんだって」

「そうか、なら良かった。セリュナーには、あんな思いして欲しくないからな」

「あんな思い?」

「大切な人を失った人の、悲痛な思いだ。あたしは昨日、イアムの夫、リーチ・タラークに会った。あれは悲惨だった。見ているこっちまで、涙が出てきそうだった」

「どういうこと」

「大切な人は、少ければ少ないほど良いってことだよ。失わないからな」



 ルミはチラリとこちらを見る。僕は両手をひらひらさせ、ため息をつくだけだった。


ーーいいよ、言いたければ言えばいい


 僕の所作を許可と捉えたルミは、表情を変えずに淡々と事実を告げた。


「イアムが失踪したっていうのは嘘だ。イアムは死んだ。一昨日な」


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