52.語るまでもない5
【西暦2015年日本】
06月30日
七連続女性刺殺事件一日目。
4人の女性が殺害。
43歳会社員、鬼塚ゴウが指名手配される。
07月01日
七連続女性刺殺事件二日目。
3人の女性が殺害。
加害者鬼塚ゴウ、逃亡の末死亡。
【西暦2023年日本】
02月01日17時00分
被害者遺児7人の元に、鬼塚ゴウからの手紙が届く。
雪山山荘に被害者遺児が集合する。
02月02日00時10分
村田アイカの死体がキッチンで見つかる
02月03日10時10分
如月ランの死体が玄関で見つかる。
02月04日09時45分
平井ショウケイ、立花ナオキ、青木ユイの死体がキッチンで見つかる。
02月04日12時05分
突如、佐藤ミノルが血を吐いて死亡。
02月04日22時05分
雪山山荘が全焼する。
入江マキ、自ら首を吊り死亡。
【魔暦577年パラス王国ヘルト村】
07月01日
モニ・アオスト転生
【魔暦580年パラス王国ヘルト村】
07月01日
オル・スタウ転生
【魔暦593年パラス王国ヘルト村】
07月01日
イアム・タラークの死体をオルが発見。
【魔暦593年07月02日21時32分】
そして現在。
こうして振り返っててみると、おかしな点はいくつかある。七連続女性刺殺事件と雪山山荘密室事件を見比べただけでもわかるだろう。
二つの事件の共通点としては、殺害方法。赤い包丁で胸部を一突きという方法は、嫌になるほどそっくりだった。だが、それは本来あり得ない。
模倣犯による計画的殺人事件。問題は、どこでその情報を手に入れたのか、という話だ。
模倣犯として、完璧なほど情報を知っている。七連続女性刺殺事件と全く同じ包丁を用意できるのは、事件に直接かかわっていたものだけなのだから。つまり、雪山山荘の犯人は警察内部の裏切りか、被害者家族によるものなのだ。
「それは違うよ。お兄ちゃん」
今まで僕の説明を黙っていた二人だったが、オルが口を開く。もとより、オルとの事実のすり合わせのためのおさらいだった。彼にはどんどん意見を出してほしい。
「どういうこと?赤い柄の包丁の話は、ニュースにもなっていないはずだけど。知っている時点で、模倣犯はそこそこ絞れる」
「そこじゃない。そもそも、模倣犯じゃないってはなし」
「んー?いや、模倣犯でしょどう見ても。まさか、『鬼塚ゴウが実は生きてました』って言いたいの?」
「そうじゃない」
彼は頬を膨らませながら僕を上目で見る。マキとミノルはこうしてよく討論をしたものだった。お互いが頑固のため、決着はつかなかったが。
「模倣犯って、犯罪を細部まで真似て事件を引き起こす人でしょ?だから、犯人は『事件を模倣する』ことが一つの目的になっているはず」
「うん」
「それなのに、二つの事件って、共通点があるようでほとんどないもない。なんだか、模倣するっていう信念が感じられない。他にもっと大事な何かがあって、手探りで殺人を始めたような。上手く言語化できないけど」
オルの要領の得ない話に首をかしげる。挟んで反対側に座っているルミを見るが、彼女は口をぽかんと開けるだけだった。
共通点はたくさんあるだろう。殺害方法という大きなものもあるし、雪山山荘も事件とかかわりがある場所なんだし。
「そこだよ。模倣犯が雪山山荘を舞台に選ぶのは違うでしょ。七連続女性刺殺事件は、無差別の通り魔殺人だよ?被害者達には何の関係性もない。それなのに、犯人はあえて人と場所を選んだ」
「む、確かに。模倣となると、辻褄が合わないか」
「街中で通り魔殺人をすれば良いのに、それもしない。雪山山荘も、鬼塚ゴウが最後に目指した場所ってだけで、七連続女性刺殺事件には関わってないんだから。鬼塚ゴウの名前を使って人も集めた」
「そして…」と彼は言葉を溜めた。一呼吸おき、苦虫を潰すような表情で口を開く。
「極め付けは、殺害方法だ。犯人は、模倣する気すらなかったんだよ。お兄ちゃんは自分がどうやって死んだか覚えてる?」
「覚えてるわけないよ…」
思い出したくもない。口から血を吐いて、地面に崩れ落ちた。まったく力が入らなくて、動くことすらできなかった。最後に目に入ったのは、マキの人形のような表情だ。僕の永遠のトラウマといっても過言ではない。
そのマキは、兄である佐藤ミノルを失った現実を受け入れられていない、絶望の表情だったらしいが。
ーー模倣する気すらない?
ーーおいおい
ーーまさか、殺害方法すら、統一してないのか?
ーー通りで、僕が勘違いするわけだ
赤い柄の包丁で胸部を一突き。七連続女性刺殺事件の被害者も、僕より先に死んだ5人も全員がその死に方をしていた。
だから、僕は間合いを警戒していた。
僕の周りにはマキしかいなかったし、近くに物影もなかった。それなのに、僕は死んだ。
僕がマキを殺人鬼だと勘違いした一番の理由は、間合いにマキしかいなかったからだ。彼女以外、僕は殺せないと思っていた。
ーーそれがそもそもの勘違いだったのか
「お兄ちゃんは、口から血を吐いて倒れた。外傷はない」
雪山山荘密室殺人の6人目の被害者、佐藤ミノルの死因は、赤い柄の包丁ではなかった。僕は一人で勝手に死んだのだ。




