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殺人事件の続きは異世界で  作者: 露木天
三章.呪われた七人の子供達
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50.語るまでもない3

【魔暦593年07月02日19時30分】



「僕の新しい家族でーす!」

「オルです。どうも」



 ぺこり、と本日の主役はお辞儀をする。昨日で13歳になったオル・スタウは姉に負けない強気な表情でロイの前に立った。

 その純粋な目つき、恐れのない堂々した態度は、少年のそれではなかった。言われてみれば、オルは間違いなく異人だ。こんなにも不気味な子供がいてたまるか。



 その思考に辿り着いたのはロイも同じだ。


 ぽかんと開けていた口を引き締め、ゆっくりと目を細める。何かを理解したかのように、「ああ」と声を漏らす。



ーー流石の洞察力だ



 今から13年前。それこそ、オルが生まれた日だ。

 ロイは僕が異人であると看破した。行動、発言、そして目つきだけで、転生者だと判断したのだ。どういう経緯なのかはわからないが、ロイは異人について熟知している。

 

 オルの良き理解者にもなってくれるだろう。今まで異人であると隠してきた彼の重荷を、少しでも減らせる手伝いがしたい。

 兄として妹の心配をしている、と思ってくれて構わない。マキはもとより心が強い方ではない。僕とルミは女子だし、同性の理解者がいた方が良い。



 足を一歩前に踏み出し、ロイを下から覗く。



「今まで隠しててごめんなさい。でも、別に信用していなかったわけじゃなくて…」

「良い。オル君、顔をあげなさい」

「はい」



 優しく声をかけるロイは右手を前に出す。オルは少し困惑した表情を浮かべたが、目に輝きを取り戻す。その手の意味が何なのか、理解したのだ。




ーー全くもって、良い父親を持った




 無条件で味方になってくれる存在が、これほど頼もしいなんて。ロイには感謝してもし切れない。先の見えない現状、彼の存在は軸になる。


 オルは手を差し返し、二人は握手を交わした。



「え」



 突如、彼の体は低く沈み、その勢いでオルを持ち上げる。全てが一瞬の出来事だった。ロイの足が素早くオルの後ろに回り、握手したまま背中越しに放り投げる。

 空を飛ぶような無重力感に襲われたオルは、抵抗する暇もなく地面に打ち付けられる。全身に衝撃が走り、圧し潰された悲鳴が聞こえる。


 彼は動かなくなったオルを見下ろし、激しい手つきで指をさす。



「てめぇ!とうとううちの娘に手を出したな!前から怪しいと思っていたんだ。いやらしい目しやがって!」

「あの、お父さん?」

「待ってろ、モニ。こいつが男としてどれ程根性があるか、今確かめてやる」



 ロイの口から非難に溢れる言葉が溢れる。僕は呆れを通り越し、彼の股間へ痛烈な一撃を飛ばした。サッカーボールをゴールに蹴りこむかのような、完璧なフォームだった。 

 彼は声にならない悲鳴をあげたのち、苦痛に満ちた表情で地面に倒れる。残ったのは、倒れた男たちと、僕のため息だけだった。


***


「すいません」

「あのね、これでもお父さんを尊敬していたのだけれど」

「はい」

「自制できなくなるなら、酒は飲まないってお母さんとも約束してたよね」

「はい」



 正座をして気まずそうに僕の目を見るロイは、まるで子供のようだった。実際、ヴァニに叱られるときはいつもこの形だった。

 それとも、僕が母親に似てきてしまったのか。心まで女になったわけではないので、何だか複雑だ。


 僕が再びため息をつき、父親に罵声をあびせようとしたが、オルの声が割り込んできた。



「まあまあ、お兄ちゃ…、モニちゃん。俺は大丈夫だから、許してあげてよ」

「でも」

「それに、村長の気持ちもわかる。俺もお兄ちゃんが異性を連れてきたら、ついぶっ飛ばしちゃうもん」

「馬鹿達の考えることは理解できないわね」

「ん?」


 肩に置かれたオルの手を弾き、壁に寄りかかる。受け身も取らずに地面に叩きつけられたわけだが、オルはピンピンとしていた。

 ルミに鍛えられたからか、オルは打たれ強い。彼が許すというのならば、僕がいうことは何もない。

 

 まったく、早とちりするのは、ロイの良くないところだ。その判断の速さが、彼の強さでもあるが。


 何はともあれ、僕は昨日得た情報の報告をロイに始めた。オル・スタウが入江マキだったこと。雪山山荘は全焼し、殺人鬼は煙のように消えてしまったということ。

 途中で何点かオルの補足があった。怪訝そうな顔をしていたロイも、次第にオルの話を真剣に聞くようになっていた。



「ってわけ」

「なるほど。概ね、理解した。だが、良いのか?『入江マキは佐藤ミノルを殺さない』、というのはモニの主観だろう?マキがお前を殺したとしか思えないほど、状況証拠は残っていたんじゃないか」


 オルから目を逸らすわけでもなく、ロイは言い放った。オルは気まずそうに視線を落とす。まあ、オルの話が全部嘘だったらそれまでだが、僕はもう確信がある。


「全部僕の勘違いだった。僕とマキは家族で、そこに嘘はなかった。そして、オルはどうしようもなくマキだった。だから、この話はこれで終わりなんだ」

「そうか。わかった。じゃあ、もう何も聞かねー。よかったな、モニ」

「え、うん」


 

 あっけらかんとしたロイは、やや内股で立ち上がる。既にオルには興味がないようで、僕の頭を撫でるばかりだった。

 驚いた声を上げるのは、今度はオルの番だった。



「いいの?今まで異人だって隠してたし、騙し続けていたのは本当なんだけど」

「あのな、オルくん。勘違いしているようだが、元より俺は誰も疑ってなんかいない。異人の人格隠蔽技術だけを警戒しているんだよ」



 人差し指と中指をたて、手を揺らす。



「彼女らは、転生後に人格を作り、それを演じ切ることができる。二つの人格を切り替えている。オルくんもモニも、前世の性格と大分違うんじゃないか」

「性別すら違うしね」

「別人を演じられる異人を見抜くことは困難だ。だから、俺は誰も信じない」


 その話は、オルを認めるというよりは、僕たちに対して講義をしているかのようだった。ここから先、何を意識して進めば良いかを教授しているかのような。

 



「誰も疑わない代わりに、誰も信じない。それこそが、異人がいる村の生き方だ。と言っても、モニが前世を証明してくれるというのならば、話は別だ」

「ふーん。正直感心した。お父さん、ちゃんと考えていたんだね」

「おい娘。俺は割と頭脳派だぞ」



ーー頭脳派はすぐに手を出さないんだよな



 何はともあれ、ロイがオルを認めてくれるならそれで良い。着実に信用できる仲間が増えていって、僕は安堵感に包まれていた。

 それに、ロイの話に自然と口が緩む。数珠繋ぎ的に、僕が信じるオルは例外だといったのだ。『誰も信じない』といっているロイは、無条件に僕を信じているのだ。



「それじゃあ、お父さん。ルミを交えて作戦会議でもしようか。今日はこの話以外にも結構情報を手に入れたからね。ロスト山での出来事とか。情報共有して、明日に…」

「それは無理だ」



 先程までの温かい空気から一変、ロイは真剣な眼差しで僕を見つめる。



「俺はもう協力できない」



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